« 北村朋幹/Vol.1―ソロ(2013年10月12日 トッパンホール) | トップページ | ラドゥ・ルプー/ピアノ・リサイタル(2013年10月17日 東京オペラシティ コンサートホール) »

シューベルト「恋人の近くD. 162」を聴く

「恋人の近く」はゲーテの詩によるシューベルトの有名な歌曲です。
有節形式なので、歌手とピアニストが節ごとにどのように歌い分け、弾き分けるかが聴きどころです。
ピアノ前奏は徐々に上昇し、盛り上がったところで歌が高音から入ります。歌は冒頭の「私(Ich)」を強調して、ある意味ピークでスタートします。こみあげる気持ちを抑えきれずに歌い始めるという感じでしょうか。
思い、見て、聞いて、感じるといった各節の内容を歌手がどのように歌い分けるか、表現力が問われます。
ピアノパートの繊細な和音が時に爆発的な喜びをもあらわすところなども味わってみてください。

--------------

Nähe des Geliebten
 恋人の近く

Ich denke dein, wenn mir der Sonne Schimmer
Vom Meere strahlt;
Ich denke dein, wenn sich des Mondes Flimmer
In Quellen malt.
 あなたのことを思います、私に太陽の微光が
 海から輝きかけるとき、
 あなたのことを思います、月のきらめきが
 泉の中に浮かぶとき。

Ich sehe dich, wenn auf dem fernen Wege
Der Staub sich hebt;
In tiefer Nacht, wenn auf dem schmalen Stege
Der Wandrer bebt.
 あなたを見つめます、はるかな道の上を
 ほこりが舞いあがるとき、
 夜の深まるころ、狭い小道で
 旅人が震えるとき。

Ich höre dich, wenn dort mit dumpfem Rauschen
Die Welle steigt.
Im stillen Hain, da geh ich oft zu lauschen,
Wenn alles schweigt.
 あなたを聞いています、あそこで鈍い音をたてて
 波が立つとき。
 静かな林へこっそり聞き耳をたてるためにしばしば出向きます、
 すべてが押し黙るときに。

Ich bin bei dir, du seist auch noch so ferne.
Du bist mir nah;
Die Sonne sinkt, bald leuchten mir die Sterne,
O wärst du da!
 私はあなたのそばにいます、あなたがどれほど遠く離れていようと、
 あなたは私の近くにいるのです。
 太陽が沈み、もうすぐ星が私に輝きかけるでしょう。
 おお、あなたがいてくれたなら!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749 - 1832)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

--------------

詩の朗読(ズザンナ・プロスクラ)

朗読者は歌手の方です。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&エトヴィン・フィッシャー(P)

気品のあるシュヴァルツコプフの声がなんとも美しいです。フィッシャーのピアノも控え目ながら奥行きのある演奏です。

キャスリーン・バトル(S)&ジェイムズ・レヴァイン(P)

どこまでも甘美なバトルの声に酔わされます。レヴァインはバトルをよくサポートしています。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

3曲目(3:26~)が「恋人の近く」です。F=ディースカウの語りの力をここでもまざまざと感じさせられます。ムーアも歌手とどこまでも一体になっています。

アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)&ギュンター・ヴァイセンボルン(P)

ローテンベルガーの芯のある声は意志の強さを感じさせます。ヴァイセンボルンは丁寧な演奏です。

| |

« 北村朋幹/Vol.1―ソロ(2013年10月12日 トッパンホール) | トップページ | ラドゥ・ルプー/ピアノ・リサイタル(2013年10月17日 東京オペラシティ コンサートホール) »

音楽」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

シューベルト」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
おっしゃるように、「思い、見て、聞いて、感じるといった各節の内容を歌手がどのように歌い分けるか」が際立つ曲だと思います。有節歌曲ではどれもそうだろうとは思いますが、私は特にこの曲ではそれを思います。できれば、恋する人の臭いもゲーテには詩ってほしかったとは思います。ゲーテさんに殴られそうですね。

次のリクエストをさせていただいてかまいませんか?
歌曲集『白鳥の歌』の「鳩の便り」(D965A)。
 Taubenpost!

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月15日 (火曜日) 17時47分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
有節歌曲は節ごとの歌い分け、弾き分けがとりわけ重要になってきますね。このテキストは特に節同士が対応しているので、演奏者の腕の見せどころだと思います。
ゲーテが「嗅覚」をとりあげていたら、どんなふうになっていたでしょうね。まぁそれはそれで成立する詩にはなっていたでしょうが。
次のリクエスト、承知しました。続々きますねぇ。頑張ります!

投稿: フランツ | 2013年10月16日 (水曜日) 00時35分

フランツさん、こんにちは。

バトル&レヴァインのグラモフォン盤、愛聴盤です。
バトルのような軽くて、陰影の薄い声はあまりシューベルトに合わない気がしますが、さすがに曲を選んで録音していますね。

音が高くなるほど、羽毛のように軽やかになるバトルならではの歌唱導入部だと思います(バトルは、一度、生で聴きましたが、星が天上から降ってくるような響きでした)。

同じレッジェーロでも、ボニーは内省的な、夕映の中で、水の上で歌うなども録音していますから、やはり同じ軽い声でも歌手の特性の違いを感じて、興味深いです。

話がそれ、すみません。
若き日のシュワルツコップの声がみずみずしく、本当に気品もあり聞き惚れました。
ローテンベルガーも結構好きです。
この時代の歌手は、リタ・シュトライヒなどもそうですが、魅力的な歌手が多いですね。
ディスカウさんは、私などが語れないです・・・。

この季節になると、「夕映の中で」が思い出されます。
Zu-Simolinさんのリクエスト「鳩の便り」の後で、ご負担でなければ、お願いしてもいいですか?

投稿: 真子 | 2013年10月16日 (水曜日) 16時38分

真子さん、こんにちは。

バトルの声は本当に羽毛のように軽やかですね。一方のボニーは声を媒介にして作品の奥に入っていく感じでしょうか。シュトライヒはコロラトゥーラの声ならではのリートを聴かせてくれると思います。同じソプラノでもそれぞれの持ち味があって、楽しめますね。私みたいなアーメリングおたくでも、アーメリングだけ聴いていれば満足というわけではなく、いろいろな女声歌手で聴き比べるのが本当に楽しいです。

リクエスト、承りました。
すぐにとはいかないかもしれませんが、気長にお待ちくださいね。

投稿: フランツ | 2013年10月17日 (木曜日) 12時47分

真子さんへ。
こんばんは。
やっと私以外の方がリクエストしてくださるようで、ほっとしています。
いつも私ばかりがリクエストしていて心苦しかったので。もっと他の方々もリクエスト責めで、フランツさんを、悩ませたいじゃありませんか。

フランツさんへ。
こんばんは。真子さんがリクエストされるのであれば、私のリクエストは次に回してくださって結構です。真子さんが何をリクエストされるのか早く知りたいので。

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月17日 (木曜日) 17時44分

フランツさん、こんにちは。

お手間がかかることですのに、無理言ってすみません。
家でも、いろいろCDを引っ張り出してきて聞き比べするのですが、こちらで共に聴き比べる方がいるととても楽しいし、勉強になりますもので。

私は女声は、声でいえばバトルがとても好きです。
アメリング、ボニーも。
ボニーのPPはバトルとまた違ったコントロールされた美しさがありますよね(パーソンズが伴奏した「シューベルト歌曲集」の「君こそ憩い」の「・・erhellt](2回目)での最高音のPPは、ため息が出るほど美しい!)。

ところで、フィッシャーディスカウさんの、EMIの10枚組み+1枚のリート集を買いました。
まんべんなく、名曲が揃っていますね。

投稿: | 2013年10月17日 (木曜日) 17時47分

フランツさん、こんにちは。
10月17日 (木曜日) 17時47分の投稿は私です。
ちょくちょく、記名忘れますね。
すみません。

Zu-Simolinさん、こんにちは。
私のリクエストは「夕映えの中に」です。
とても美しい曲、詩で大好きです。
プライさんのステージで聴き、そのすぐ後、自分の発表会でも歌った、思い出深い曲でもあります。
しかし、ここは順番、ということで待っています。
お心遣いありがとうございます(*^^*)

投稿: 真子 | 2013年10月18日 (金曜日) 13時28分

Zu-Simolinさん、こんばんは。

>もっと他の方々もリクエスト責めで、フランツさんを、悩ませたいじゃありませんか。

Zu-Simolinさんのリクエスト責めで、すでにヒィヒィ言っていますよー(笑)。
宿題は早く終えて楽になりたいタイプなので週一で投稿してきましたが、これからはもっとスローペースでZu-Simolinさんをじらす方向でいこうかなと策略を練っているところです(笑)。
まぁこれからも出来る範囲内で頑張ります!

投稿: フランツ | 2013年10月18日 (金曜日) 19時26分

真子さん、こんばんは。

この聴き比べ、やはりいろいろな人の感想を聞かせてもらうと、気づかなかったこともあってより楽しめます。みなさんの声を励みにこれからも頑張ります!

ボニー&パーソンズのシューベルト歌曲集のCD、私も持っていますが、部屋の中から探し出して「君こそ憩い」の高音、聴いてみますね。この2箇所の高音、歌手の聞かせどころですからね。

フィッシャー=ディースカウのEMIボックスを手に入れられたそうですね。ディースカウの最も声の美しい時期の珠玉の録音がそろっていますので、ぜひ楽しんでくださいね。

投稿: フランツ | 2013年10月18日 (金曜日) 19時27分

フランツさん。こんにちは。
私をじらす作戦とか……。そんなことはなさらないと信じています!(笑)
リクエスト攻勢かけちゃおうかな。冗談です。
 
ところで、真子さんからは「夕映えの中に」をリクエストされるお気持ちはわかる気がします。B・ボニーの録音で親しんでいます。

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月19日 (土曜日) 15時39分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
じらすというのはもちろん冗談です。
ただ、秋はコンサートも増えて、その備忘録も早めに書いておきたいので、毎週のアップは出来ないこともあると思います。
そんなわけで今週はシューベルトシリーズ、お休みさせてくださいね。

投稿: フランツ | 2013年10月20日 (日曜日) 02時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: シューベルト「恋人の近くD. 162」を聴く:

« 北村朋幹/Vol.1―ソロ(2013年10月12日 トッパンホール) | トップページ | ラドゥ・ルプー/ピアノ・リサイタル(2013年10月17日 東京オペラシティ コンサートホール) »