ラドゥ・ルプー/ピアノ・リサイタル(2013年10月17日 東京オペラシティ コンサートホール)
ラドゥ・ルプー ピアノ・リサイタル
2013年10月17日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ラドゥ・ルプー(Radu Lupu)(Piano)
シューマン(Schumann)/子供の情景 op.15
見知らぬ国から
珍しいお話
鬼ごっこ
おねだり
幸せいっぱい
重大なできごと
トロイメライ(夢)
炉ばたで
木馬の騎士
むきになって
怖がらせ
寝入る子供
詩人は語る
シューマン/色とりどりの小品 op.99
3曲の小品
5曲の小品
ノヴェレッテ
前奏曲
行進曲
夕べの音楽
スケルツォ
速い行進曲
~休憩~
シューベルト(Schubert)/ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959(遺作)
I. Allegro
II. Andantino
III. Scherzo: Allegro vivace – Un poco più lento
IV. Rondo: Allegretto
~アンコール~
シューベルト/スケルツォ第1番 変ロ長調 D593-1
シューマン/「森の情景」op.82から 孤独な花
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ルーマニア出身の巨匠ラドゥ・ルプーが昨年に続き、今年も来日した。
昨年は指の故障もあり必ずしも万全ではなかったようだが、今年は全く健康状態に問題はなさそうだ。
台風が去った翌日の東京オペラシティ公演を聴いた。
今回は3階左側の席で、ステージと私の席の間に座っておられる前列の人の頭、さらに手すりの間からたまにかろうじてルプーの姿が見えるぐらいなので、かえって音楽だけに集中して聴くことが出来た。
ルプーの魔力は最初のシューマン「子供の情景」から発揮された。
このホールの3階席は意外と音響がいいのかもしれない。
ルプーの極端なほど柔らかい弱音から、芯のある強音まで、どこまでも美しく響いてくるのである。
ルプーの響きは柔らかく、もやのかかったような不思議な響きでホールを満たす。
最初の「見知らぬ国から」から音を均一にしようなどとは全く思わずに、ありふれたダイナミクスやテンポに寄りかかることもなく、彼独自の心地よい世界に聴き手を連れ込んだ。
第3曲「鬼ごっこ」では途中の楽想の変化した箇所から冒頭のテーマに戻る直前の上行の箇所で極端に音を弱くして、あれっと思わせる。
そういう意外性も随所に感じさせながら、それでも彼の描き出す世界に引き込んでしまう。
そのルプーのマジックが素晴らしく発揮された「子供の情景」の全13曲であった。
最終曲の「詩人は語る」では、ルプーという詩人の歌がもっとずっと続いていてほしいと思わずにいられないほどの美しい歌があった。
その次に演奏されたのは同じくシューマンの作品だが、様々な作曲年代の作品を落ち穂拾い的にまとめて出版したという「色とりどりの小品」全14曲。
こちらは生で聴くのは初めてだが、どれもシューマネスクな音の綾が胸に響く佳品ぞろいだった。
なかでも知られているのは4曲目だろうか。
それは「5曲の小品」の冒頭に置かれた曲だが、特有のメランコリックな響きが印象に残る作品である。
10分近くかかったであろう「行進曲」は、葬送行進曲と中間部から成る作品だが、冒頭のテーマがシューベルトの「死と乙女」の前奏のテーマを思い起こさせる。
シューマンが全く無意識に作ったのではないのではないだろうか。
この曲集はゆるやかで内的な作品と、情熱的な華やかさをもった作品の両方が混在しているが、ルプーのこの日の演奏はゆるやかな作品により魅力を感じた。
今のルプーだからこそ紡ぎだせる音の絡み合うさまを存分に満喫させてもらえた。
「子供の情景」も「色とりどりの小品」も終曲は消え入るように静かに終わるが、その後の余韻を味わう客席の静けさも良かった。
休憩後はシューベルト晩年の大きなソナタの1つ、イ長調ソナタであった。
第1楽章冒頭の高音での強奏の後にすぐにバス音が続くのだが、一般的にはずっしり重く響かせるこのバス音が弱く感じられたのであれっと思ったのだが、彼はこのバス音を決して最初の高音と同じ強さでは弾かなかった。
そういう意外性がここでもいろいろ聞かれて興味深かった。
第2楽章の孤独と狂気の歌も決して声高にテクニカルには演奏せず、ルプーのペースで進められる。
正直なところ、テクニカルな面では必ずしも完璧とは言えず、特にシューベルトのこのソナタでは疲れもあってか、それが目立つ結果になってはいたが、テクニック偏重の現代ピアニストにはない独自の温もりがこの作品に魅力を与えていたと感じた。
音色で、響きで、聴き手をこれほどまでに酔わすピアニストはそうはいないだろう。
ルプーの演奏する空間に身を置いていると、森林浴さながら"音楽浴"に心が洗われていくのが感じられる。
そうした彼の演奏するアンコールのシューマン「孤独な花」は、どこまでも優しく聴き手の胸に沁みわたるものだった。
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