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シューベルト「十字軍D932」を聴く

シューベルトの晩年にカール・ゴットフリート・フォン・ライトナーの詩に付けた「十字軍」という曲を聴いてみます。
この作品はそれほど知られているとは言えませんが、コラール風の静かな曲調が一貫し、メロディーを歌だけでなくピアノが引き継いだりと、聴きごたえのある美しい作品です。
詩は修道士が独房から十字軍の遠征を見つめ、自身の境遇を巡礼者たる十字軍になぞらえるというものです。
つまり十字軍の遠征そのものがテーマではない為、シューベルトの音楽も勇壮さは一切なく、むしろ落ち着いた曲調になっています。
私がはじめてこの曲を聴いたのは、F=ディースカウを初めて生で聞いたときで、会場は神奈川県民ホールの大ホールでした。
ディースカウはこの曲が好きだったのか、リサイタルでもよく取り上げていたようで、録音も数種類残っています。

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Der Kreuzzug
 十字軍

Ein Münich steht in seiner Zell'
Am Fenstergitter grau,
Viel Rittersleut' in Waffen hell,
Die reiten durch die Au'.
 ある修道士が独居房に立っている、
 灰色の窓格子のそばで。
 明るく輝く武具に身をくるんだ多くの騎士たちが
 緑野を馬で行く。

Sie singen Lieder frommer Art
In schönem, ernsten Chor,
Inmitten fliegt, von Seide zart,
Die Kreuzesfahn' empor.
 彼らは敬虔な類の歌を歌う、
 美しく真剣な合唱で。
 彼らの中を、柔らかい絹の
 十字軍旗が舞い上がる。

Sie steigen an dem Seegestad'
Das hohe Schiff hinan;
Es läuft hinweg auf grünem Pfad,
Ist bald nur wie ein Schwan.
 彼らは海岸の
 高さのある船に乗り込む。
 それは緑の海路を進んでいき、
 すぐにただの白鳥のようになった。

Der Münich steht am Fenster noch,
Schaut ihnen nach hinaus:
,,Ich bin, wie ihr, ein Pilger doch,
Und bleib' ich gleich zu Haus.
 修道士はまだ窓辺に立っており
 彼らの方を見ている。
 「私は、きみたちと同じく、巡礼者の身である、
 家にはいるのだが。

Des Lebens Fahrt durch Wellentrug
Und heißen Wüstensand,
Es ist ja auch ein Kreuzes-Zug
In das gelobte Land."
 波の欺きと
 熱い砂漠の砂の中を進む人生の旅、
 それも、
 約束の地へと進む十字軍なのだ。」

詩:Karl Gottfried von Leitner (1800 - 1890)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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ヘルマン・プライ(BR)&レナード・ホカンソン(P)

プライは温かく共感あふれる歌唱で聴く者をじんわりさせてくれます。ホカンソンもプライの解釈にぴったり寄り添っています。

マティアス・ゲルネ(BR)&インゴ・メッツマッハー(P)

ゲルネの聴き手をくるみこむような心地よい歌唱は本当に素晴らしいです。メッツマッハーが思いのこもった美しい響きを聴かせてくれます。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&クラウス・ビリング(P)

F=ディースカウ23歳の録音。この時からすでに彼の歌唱スタイルが完成されていることに驚かされます。ビリングの訥々としたピアノも悪くないです。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ハルトムート・ヘル(P)

F=ディースカウ晩年の枯れた声質もこの曲にはよく合います。ヘルも美しく演奏しています。

サンダー・ドゥ・ヨン(T)&レイン・フェルヴェルダ(P)

テノールで聴くのもいいですね。低音が多くて歌手は大変そうですが。ピアノもよくサポートしています。

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コメント

フランツさんこんばんは。
十字軍、取り上げてくださってありがとうございます。
休みの日は、主人がパソコンを占領していて、今ちょっとあいた隙に拝見しています。
明日またじっくり聴いて、書き込ませていただきますね。
嬉しかったので、取り急ぎお礼まで(*^^*)

投稿: 真子 | 2013年9月29日 (日曜日) 20時10分

十字軍は、ハイペリオンのシューベルト全集第36巻で聴いています。歌手はG.フィンレー。ピアノ伴奏はジョンソンです。しみじみとした味わいのある作品ですよね。シューベルトの歌曲の多彩さには、本当に脱帽します。

投稿: 田中文人 | 2013年9月30日 (月曜日) 12時07分

フランツさん、改めてこんにちは。
プライ&ホカンソンは私にはお馴染みの愛聴盤です。
大好きな「十字軍」を、温かくまろやかなバリトンで包まれるように聴いています。

今回、23歳のディスカウさんの演奏を聴いて本当に驚きました。
この年にして完成されているんですね。
声も豊潤で美しいです。
改めて、フィッシャー=ディースカウという人の凄さを知った感じです。


この曲を聴いていますと、讃美歌546(ドイツミサ5曲目)「聖なるかな」を思い出します。
ある時、この讃美歌があまりに美しいので、作曲者を見るとシューベルトとなっており、ああそうだったかと納得したことがあります。
静かに感動を与えてくれる安らぎに満ちています。

「トゥーレの王」にも言えるのですが、気持ちが高まりかけてその高揚感が振り切るところまで行かない、抑制されたがゆえの何とも言えない美しさがシューベルトにはあると思います。


こういう安らぎに満ちた音楽は元々好きなんですが、特に「Ist bald nur wie ein Schwan・・」からのピアノが旋律を歌うところ美しいですね。
低奏を歌う歌手の声の美しさ、響きが問われる箇所でもあると思います。

サンダー・ドゥ・ヨン(T)という人は、韓国系の方でしょうか?
この低音部は、さすがにバリトンたちのように朗々と、というわけにはいきませんが、真摯な歌いぶりがとても良かったです。
音色の美しいテノールですね。

サンダー・ドゥ・ヨンを聴き終わったあとに、9区分に分けられた画が出てきて、一番右の真ん中の、18歳時のシューベルトの肖像画(すごく男前ですね!)をクリックしましたら、「羊飼いの嘆きの歌」が流れました。
この曲も、「微笑みながら泣いている」美しい曲で大好きです。
シューベルトにしか書けない曲ですね。
シューベルトって、なんていいんだろうと今回も思いました。

投稿: 真子 | 2013年9月30日 (月曜日) 13時35分

真子さん、こんばんは。
「十字軍」の記事、喜んでいただけてうれしいです。
真子さんはプライ&ホカンソンの演奏を愛聴しておられるそうですね。このコンビは本当に息がぴったりで、余程相性がいいのでしょうね。
私は宗教曲は疎いのですが「聖なるかな」をYouTubeで聴いてみました。素朴なのに美しい、シューベルトならではの音楽だなぁと感じました。
「トゥーレの王」も「十字軍」も確かに抑制の美とでもいうものが感じられますね。抑揚はあるけれども静謐さが基本にあるという感じでしょうか。こういう曲を感動的に歌うのはきっと難しいのでしょうね。
「十字軍」の第4節で歌が同じ音程を続け、ピアノが代わりにメロディを奏でる箇所も、どちらが主でどちらが従ということを意識させない美しさがあると思います。本当にシューベルトの歌とピアノの関係っていいですよね。
サンダー・ドゥ・ヨン(Sander de Jong)という人はオランダ人のようです。きれいな声のテノールですね。
「羊飼いの嘆きの歌」、私も大好きです。素朴なのに切ない、シューベルトらしい名曲だと思います。「微笑みながら泣いている」ーいい表現ですね。

投稿: フランツ | 2013年9月30日 (月曜日) 22時08分

田中文人さん、こんばんは。
ハイペリオンの全集ではフィンリーが「十字軍」を歌っているのですね。36巻ということは全集の最後の方ですね。私も後でCDを引っ張り出して聴いてみます。
田中さんもおっしゃるように本当にシューベルトの歌曲の多彩さには驚かされます。こんなに色とりどりの宝石が600曲もあるのですから、楽しみは尽きないですね。

投稿: フランツ | 2013年9月30日 (月曜日) 22時09分

こんばんは。
「十字軍」の曲に色々な思いがそれぞれおありなのをコメントで読ませていただき、感じ入っております。
私は、まだLP時代のレコードでディースカウ&デムスの演奏でこの曲を知り、何度も何度も繰り返し聴いたものです。
 ディースカウ、23歳の歌唱には驚きつつ、また何度も聴きなおしてしまいました。
 個人的には、詩句内容は、最終節で十字軍の<身勝手>さが救われていると思っていますが、真子さんもおっしゃるように、私も「トゥーレの王」の曲を思い浮かべながら聴いております。

 テノールはちょっと私は御免こうむりましたけれど……(失笑)。ごめんなさい。

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月 1日 (火曜日) 18時00分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
コメント欄でみなさんがそれぞれの曲に寄せる思いを伝えてくださるので、こういう考え方もあるのかと毎回新たな発見があります。有難いことだと思っています。
Zu-Simolinさんはディースカウ&デームスのLPでこの曲に出会ったそうですね。ディースカウはムーアやヘルとも録音していて、さらにさかのぼって23歳の時にビリングと録音しているわけですから、十八番といってもいいのでしょうね。20代前半ですでにディースカウのスタイルが出来上がっているのは凄いですよね。
「最終節で十字軍の<身勝手>さが救われている」ー確かに人生になぞらえることで、「十字軍」の行為が肯定されている印象を受けました。
それからテノールについてですが、歌手の好みは人それぞれですから構いませんよ。

投稿: フランツ | 2013年10月 2日 (水曜日) 03時04分

追加コメントをさせていただきます。賛美歌546番がシューベルトのドイツ・ミサ曲によるものだとは、真子さんのコメントではじめて知りました。かつて、それを教会(ルター派ですが)で歌ったかどうかはわかりませんが、手元の賛美歌集で確認することができました。

ところで、前のリクエストに重ねてさらによろしいでしょうか。無理やりに!

ゲーテ詩「恋人のそばに」(D162)。

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月 2日 (水曜日) 17時34分

Zu-Simolinさん、こんにちは。

ルター派の教会で歌っておられたのですね。
私は、ミッションスクール(北米バプテスト系)の高校・短大に通っていて、卒業後に洗礼を受けました。
この、シューベルトの作った美しい讃美歌、学生時代によく歌いました。
しかし、動きが少ない曲のためか、若い頃はあまり心に残らなかったのですが、年を追うごとに、歌うほどに心にしみるようになってきました。

それで、ある時、誰の作曲かと歌集の譜面のページの上を見ますと、シューベルトだったんです。
その時は既に、シューベルトファンでしたので「ああ、そうだったかと」得心致しました。

ご存知かもしれませんが「讃美歌 讃美歌第二編」の第二編に、232~240の番号で、シューベルトのドイツ・ミサ全9曲の楽譜が載っています。
歌詞は、日本語訳ですが。


「十字軍」ですが、Zu-Simolinさんも「「トゥーレの王」を思い起こされたのですね。
Zu-Simolinさんのブログ、拝見しました。
私のようなヘルマンプライさん大好きなミーハーな者が、ここで皆さんの和に加わるなんて恥ずかしく、申し訳ない気持ちです。

投稿: 真子 | 2013年10月 3日 (木曜日) 11時59分

失礼して真子さんへ。
ヘルマン・プライのミーハー者では、真子さんには負けませんよ。
 私のプライ一番は、『水車屋』のエンゲル伴奏の録音です。LPではレコード盤の溝が擦り切れても可笑しくないほど聴きたおしました。今もCDで持っていますが、なぜかLPで聴いた時の感触が少しばかり薄い。なぜでしょう。
 私の心の変化か、録音技術の変化、どちらのせいかわかりません。

 フランツさん。ごめんなさい。また、掲示板のように利用してしまいました。

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月 3日 (木曜日) 17時32分

フランツさん、すみません。
もう少し、こちらをお貸しください。

Zu-Simolinさん、
プライさんの1枚を絞りきれませんが、71年エンゲル版での「水車小屋~」聴いて、一聴ぼれしましたので、そういう意味で、「この1枚」でしょうか。
それまで、女声にしか興味がなかったのに、すっかりプライさんの魅力にとりつかれてしまいました。
重厚で男性的なのに優しい甘い美声。
また、かっこいい歌いまわし!
たまりませんね。

Zu-Simolinさんは、全盛期の頃から聴いていらっしゃるのですね。
羨ましいです。
私は、90年ころにCDで聴きファンになりましたので、大先輩ですね。
それでも、最晩年でも、彼を知り生の演奏に触れられたのは幸せでした。
私の知らないプライさんのことまた教えてください(*^^*)

投稿: 真子 | 2013年10月 3日 (木曜日) 20時24分

Zu-Simolinさん
真子さん

こんばんは。
シューベルトのドイツ・ミサ曲がすべて賛美歌集に掲載されていること、はじめて知りました。私は賛美歌を歌った記憶がないので、お二人からのコメントで新たな情報を知ることが出来て感謝しています。
プライ・ファンという点でもお二人で意気投合されていて、微笑ましく拝見しています。
どうぞ遠慮なさらず、コメント欄でやりとりしていただければと思います。私も横から楽しませていただきます。

それからZu-Simolinさんのリクエスト、いつになるかは分かりませんが、お受けしますね。Zu-Simolinさんはゲーテ歌曲がお好きなのですね。

投稿: フランツ | 2013年10月 3日 (木曜日) 20時55分

真子さんへ。
 (フランツさんごめんなさい。横から楽しんでいただければ幸いです。)

 プライ&エンゲルの『水車屋』は確かに1971年録音です。日本への来演で生のプライさんを大阪で聴いたのは、「冬の旅」でした。ディースカウも「冬の旅」を同じ会場で聴きました。ずいぶん前のことです。でも、記憶と耳には残っています。

 で、プライの『水車屋』を聴いていた同じころ、エルンスト・ヘフリガー&小林道夫のLPレコードも一所懸命聞いていました。これは1970年の録音。
 
 正直、それらを越える『水車屋』を私は知りません。そんなことを言うと叱られるかも?
  

投稿: Zu-Simolin | 2013年10月 4日 (金曜日) 18時04分

フランツさんのご好意に甘えまして・・・。

Zu-Simolinさん、こんばんは。

生プライさんを大阪で聴かれたのは、2回目の来日でですか?
ぜひぜひ、その時の様子などお聞きしたいです!!
ディスカウさんも、生で聴かれたとのこと、すごいですね!

私がLP時代に買ったのは、日本歌曲や習い始めたばかりのイタリア古典歌曲ばかりで、ドイツリートはアメリングのシューベルト1枚でした。

プライ&エンゲルの「水車小屋」LPは、中古で後年に手に入れました。
このレコードジャケットがまたいいんですよね。
ディスカウさん、ヴンダーリヒ他、いくつか聴きましたが、私も、この「水車小屋」が一番だと思っています(フランツさん、すみません・・)。

この演奏に限らず、LPの音の方がジューシーで、特に中音域の音の目がぎゅっと詰まっている気がします。
CDは、ちょっと音がカスカスしているような・・・。
だから未だにレコードは根強いい人気があるのでしょうね。

投稿: 真子 | 2013年10月 4日 (金曜日) 19時51分

フランツさん、こんにちは。

「ハイペリオンのシューベルト全集」について、ご質問致します。
インターネットで調べてみますと、60名あまりの歌手が歌っているとのことでしたが、ごく一部の名前しか紹介されていませんでした。

ホッター、フッシャー=ディスカウ、プライ、女声ではボニーの4名は参加していますか?

また、後はどんな歌手が参加している幾名かほど教えて頂けますでしょうか。

この全集は、かつての録音から集めたものでしょうか、それとも新たにレコーディングしたものですか?

シューベルト歌曲が全て聞けるなど、魅力的で、購入を考えています。
お手数をお掛けすることをお聞きして申し訳ありませんが・・・。

投稿: 真子 | 2013年10月 6日 (日曜日) 10時25分

真子さん、こんにちは。
ご質問の件、記事にまとめてみましたので、ご覧いただければと思います。
歌手についてはホッター、プライ、ボニーは残念ながら参加していません。
F=ディースカウは「美しい水車屋の娘」の作曲されなかった詩の朗読という形で、歌手活動引退後に参加しています(歌はボストリッジです)。
この全集はすべて新録音で、ローデシア生まれのイギリス人ピアニストのグレアム・ジョンソンがすべてのピアノ演奏と解説、人選を担当しています。
記事のリンク先では2万円ちょっとでボックスセットが売られていますので、そちらはいかがでしょうか(ただし、分売時のジョンソンの解説は付いておらず、代わりに全体を俯瞰した解説が書籍の形で付いています)。特定の曲だけというのでしたら分売を購入されるのもいいかと思います。amazonなどで入手可能かと思いますが、この巻の情報がほしいなどございましたら、またお知らせください。

投稿: フランツ | 2013年10月 6日 (日曜日) 17時47分

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