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シューベルト「音楽に寄せてD547」を聴く

シューベルトのあまたの歌曲の中でも最も親しまれている作品の一つである「音楽に寄せて」を聴くことにします。
この曲のテキストはシューベルトの親友であったフランツ・フォン・ショーバーによります。
シューベルトはショーバーによって悪い遊びを知り、それが病の一因にもなるわけですから、シューベルティアンにとってはショーバーという人に対する感情は複雑であると思います。
しかし、このような不朽の名作が彼のテキストによって生まれたわけですから、その点に関しては素直に感謝したいものです。
人生の辛い時間に音楽が心に光をともしてくれたという思いはほとんど誰もが経験していることではないでしょうか。
その詩にシューベルトが1817年に作曲した素朴ながら美しい和音に支えられた讃歌が聴き手の心の琴線に触れないわけはありません。
動画サイトでも膨大な数の録音がアップされていて、あらためてこの作品の人気を実感しました。
中には珍しい人の録音なども見つけて興味深かったのですが、ここはやはり真に胸を打つ演奏を私なりに厳選してみました。
数が多くなってしまい、いくつかのよい演奏が漏れてしまったのが残念ですが、皆さんでも動画サイトで他にお気に入りの演奏を探してみるのも面白いのではないでしょうか。

私にとっては、この曲は名伴奏ピアニストのジェラルド・ムーアと結びついています。
ムーアが公での最後のロンドンの演奏会のアンコールとして、シュヴァルツコプフ、ロサンヘレス、F=ディースカウを前にして、自身の編曲でこの曲を一人で演奏したのです。
それはそれは思いのこもった感動的な無言歌で、CD化もされているのでお聴きになった方もおられるかもしれません。
動画サイトにもムーア編曲版を演奏したものがあったのですが、他人による演奏で、あまり上手くなかった為、ここではご紹介をあきらめました。

演奏家にとっても愛好家にとっても思い入れの強い作品の一つではないでしょうか。

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An die Musik
 音楽に寄せて

Du holde Kunst,in wieviel grauen Stunden,
Wo mich des Lebens wilder Kreis umstrickt,
Hast du mein Herz zu warmer Lieb entzunden,
Hast mich in eine bessre Welt entrückt!
 いとおしい芸術よ、どれほどのくすんだ時間、
 私が荒れ果てた人生の環にくるみ込まれた時、
 あなたは私の心に温かい愛の火をつけて、
 私をより良い世界に連れ去ってくれたことか!

Oft hat ein Seufzer,deiner Harf' entflossen,
Ein süßer,heiliger Akkord von dir
Den Himmel bessrer Zeiten mir erschlossen,
Du holde Kunst,ich danke dir dafür!
 しばしば、あなたの竪琴から発せられる嘆息、
 あなたの甘く厳粛な和音が
 より良い時間の天国を私に開いてくれた、
 いとおしい芸術よ、あなたに感謝する!

詩:Franz Adolf Friedrich von Schober (1796 - 1882)
曲:Franz Peter Schubert (1797 - 1828)

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朗読(Susanna Proskura)

普通に会話するように自然に発音しています。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

F=ディースカウは言葉の一言一言を明瞭に伝えてくれて素晴らしいです。ムーアの歌にあふれたピアノの感動的なこと!

ヘルマン・プライ(BR)&レナード・ホカンソン(P)

やや早めのテンポでプライがストレートに音楽への情熱をぶつけていて素敵です。ホカンソンはさすがにプライと息がぴったりです。

ハンス・ホッター(BSBR)&ジェラルド・ムーア(P)

ホッターの温かみのある声は聴き手を包み込むようです。ムーアもホッター同様温かいタッチです。

エリー・アーメリング(S)&ドルトン・ボールドウィン(P)

アーメリングの彫りの深くなった歌唱が素晴らしいです!ボールドウィンのピアノも細やかで見事です。

アーリーン・オジェー(S)&ランバート・オーキス(fortepiano)

オジェーの透明な美声は天上から降り注ぐかのようです。オーキスのフォルテピアノも特有の趣があります。

エリーザベト・シュヴァルツコプフ(S)&ジェラルド・ムーア(P)

シュヴァルツコプフの気品にあふれた語りかけは音楽への真摯な姿勢が感じられます。ムーアの演奏する姿が見られるのも貴重です。

グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S)&チャールズ・スペンサー(P)

ヤノヴィッツは生で聴いた時、あまりにも美しいその声に驚いた記憶があります。ここでの真摯な歌いぶりも素晴らしいです。スペンサーも内声を浮き上がらせたいい演奏です。

フリッツ・ヴンダーリヒ(T)&ピアノ伴奏(フーベルト・ギーゼン?)

甘美なテノールの美声でとろけるように歌っています。ピアノは素朴な味があります。

イアン・ボストリッジ(T)&ジュリアス・ドレイク(P)

ボストリッジの知性的な歌もいいです。ドレイクが細部まで神経の行き届いた美しい演奏を聴かせています。

カスリーン・フェリア(MS)&フィリス・スパー(P)

フェリア持ち前の深みのある声が感動的です。スパーは録音のせいか控え目ですが、よくサポートしています。

ピアノ伴奏のみ

楽譜の映像と音がずれている箇所もありますが、ピアノパートのつつましやかな和音を味わってみてください。

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コメント

フランツさん、こんにちは。
>シューベルトはショーバーによって悪い遊びを知り、それが病の一因にもなるわけですから、シューベルティアンにとってはショーバーという人に対する感情は複雑であると思います。

そうなんですよね。
他の作曲家なら「まあ、そういう人もいるのかな・・」と思えるんですが、シューベルトに限っては、ショックでした。
それが、早く亡くなった原因かもしれない事以外にも。
どこかでシューベルトを天使のように思っているのかもしれません(笑)
でも、音楽をやっている者、聴く者にとって、本当にそうだと心から思える詩ですよね。

この曲は、フランツさんにも思い出深い曲なんですね。
私も、声楽を習っている時に、初めて歌ったドイツリートでもあり、思い入れのある曲です。
それまで、イタリアものや日本歌曲を習っていたのですが、ドイツリートを歌いたくて初めてドイツリートのレッスンを受けた曲なんです。
ここにも上げて下さったプライさんを、先生のようにして聴いていました。(もちろん、今も愛聴しています。独特の、レガートなメロディラインを愛でています)。

聴いていると、端正で、一見簡単に聞こえる曲ですが、実際歌ってみると、後半盛り上がるところをfで、ノンブレスで、たっぷり歌わなければならなかったり、声のチャンジがむつかしい箇所があったり、結構技術を要する曲だと思います。
ここで、歌っている名歌手には無縁のことでしょうが・・・。

その演奏の方ですが、往年の名歌手たちによる競(共)演!!
素晴らしいですね。
アーリーン・オジェーは、初めて聴きましたが、とても透明感があって、美しい声ですね。
ここでの「シューベルト・・を聴く」は、知らなかった歌手に出会える楽しみもあります。

ひとりひとりの歌手の、音楽への感謝がそれぞれに溢れていました。
他の動画も探して聴いてみようと思います。


投稿: 真子 | 2013年9月24日 (火曜日) 12時45分

 こんにちは。『音楽に寄せて』も楽しませていただいております。ショーバーがシューベルトの<悪友>であったのは事実だったのだろうと思いますが、得てして男は悪友のと交友に溺れてしまうか弱気生き物なんかもしれないな、とは思います(自分のことを言っているのではありません!)。
 しかし、もしも『音楽に寄せて』の詩がショーバーからのシューベルトへの感謝の想いから作られたのだったとしたら、もしそうだったとしたら、それへの付曲はシューベルトからの返答であったことにもなるな、と何となく、じんとしてしまいます。男同士の心温まる相聞歌といったところでしょうか。

 オジェーの歌唱は(真子さんもおっしゃっておられるのと同様に)私もはじめてでしたが、広々とした野原を吹き渡る清風のようで、また日を改めて聴こうと思います。

 ※リクエストをまた送っちゃえ、と猫が喉をごろごろ鳴らすようにしながら書きます。
 ゲーテの『ご存知ですか、レモンの花咲く国』(D321)をいつでもけっこうですので、取り上げていただけますでしょうか。

投稿: Zu-Simolin | 2013年9月24日 (火曜日) 15時40分

真子さん、こんばんは。
シューベルトに対して天使でいてほしいと思っているというご指摘、結構当たっている気がします(笑)。ファンは音楽のイメージを本人にも求めてしまうと思うので。でも悪友の誘いを断れずに、信じてしまうところは、シューベルトの純粋な性格ゆえというところもあるのかもしれませんね。
ところで真子さんは声楽を学んでおられたそうですね。最初に歌ったドイツリートがこの曲だったとのことで、真子さんにとって縁の深い曲なのですね。実際に歌われた際の難しさについて、興味深くうかがいました。こういうことは実際に歌をやっていた方でないと分からないことなので、貴重な体験談を有難うございました。
アーリーン・オジェーを気に入っていただけてうれしいです。このアメリカ人ソプラノ歌手はもう20年も前に亡くなってしまいましたが、一度も生で聴けなかったのが残念です。
今回の「音楽に寄せて」の競演、楽しんでいただけたようでうれしく思います。それぞれの演奏者たちが音楽への思いを感動的に表現していて、素晴らしいと思いました。

投稿: フランツ | 2013年9月25日 (水曜日) 01時35分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
男同士の友情というのは、えてしておっしゃるとおりかもしれませんね。一方悪友の誘いに疑いなくのってしまうのは、シューベルトの人の良さゆえとも思えてきたりします。
Zu-Simolinさんがおっしゃるように「音楽に寄せて」が詩人と音楽家の相聞歌であるという説、興味深いですね。私ももしそうであってくれたなら、いやそうであってほしいと願いたくなります。
「広々とした野原を吹き渡る清風のよう」というオジェーへの形容、さすがZu-Simolinさん、素敵な表現ですね。私は昔オジェーのコンサートのチケットを買って楽しみにしていたらキャンセルとなり、翌年亡くなってしまったので、一度も生では聴けなかったのですが、きっと実演は素晴らしかったことだろうと思っています。
新たなリクエスト、承りました。数週間後になってしまうと思いますが、いつも通り気長にお待ちください。

投稿: フランツ | 2013年9月25日 (水曜日) 01時37分

 アーメリングを見落としていたようです。
”音楽に寄せて”をあらためて聴かせて頂きました。
それぞれ、素晴らしいです。と
しかし、あらためて聴いて私の中では大変な事に。
緊張感と音楽性とをどこでバランスを取るか考えたとき、
どの歌い手も微妙だと言う事です。(ひいきのアーメリングは別にする)
だれも、歌いきったとは言いがたいと気がついたのです。
シューベルトの多面性がここにも存在しているのかと。
シューベルトは大変な歌を残したものです。
”くるみの木”をソプラノで、ディースカウのように
語りかけるように歌ってほしいとも思うただの
勘違いの勝手な考察でした。(音、学のない)

投稿: tada | 2013年9月25日 (水曜日) 17時28分

tadaさん、こんばんは。
コメントを興味深く拝見しました。
「音楽に寄せて」という曲は一見素朴でつつましいですが、それゆえに演奏者の個性にゆだねられている部分が大きいように感じられます。ここに挙げた何人もの名演奏家たちのどれ一つとして似通っていないというのは、それぞれの歌手とピアニストが自身の個性を自然に作品に込めているということではないかなと思います。どの演奏もシューベルトの魂をとらえた名演だと思いますし、このような多様性を許容するシューベルトの音楽の懐の広さだと思いました。

投稿: フランツ | 2013年9月26日 (木曜日) 03時23分

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