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セドリック・ティベルギアン/ピアノ・リサイタル(2013年9月26日 東京文化会館 大ホール)

都民劇場音楽サークル第610回定期公演
セドリック・ティベルギアン ピアノ・リサイタル
2013年9月26日(木)19:00 東京文化会館 大ホール

セドリック・ティベルギアン(Cédric Tiberghien)(piano)

シューベルト(Schubert)/楽興の時 D.780
 第1曲 ハ長調 モデラート
 第2曲 変イ長調 アンダンティーノ
 第3曲 ヘ短調 アレグレット・モデラート
 第4曲 嬰ハ短調 モデラート
 第5曲 ヘ短調 アレグロ・ヴィヴァーチェ
 第6曲 変イ長調 アレグレット

ベルク(Berg)/ピアノ・ソナタ ロ短調 作品1

~休憩~

シューベルト/12のドイツ舞曲 D.790
シューベルト/6つのドイツ舞曲 D.820

シューベルト/ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958
 第1楽章 アレグロ
 第2楽章 アダージョ
 第3楽章 メヌエット、アレグロ
 第4楽章 アレグロ

~アンコール~

ラヴェル(Ravel)/「鏡」~悲しげな鳥たち
ラヴェル/「鏡」~道化師の朝の歌

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フランスのピアニスト、セドリック・ティベルギアンを聴いた。
これまでにも数回生で聴く機会があったが、今回はシューベルトが中心のプログラムということと、東京文化会館大ホールという巨大な空間で聴けるという興味があって、当日券で聴いてきた(なんと最前列中央付近が空いていたのでそこを購入。S席ではなくA席だった)。

最初のシューベルト「楽興の時」は第3番だけが有名だが、全曲まとめて聴ける機会はなかなかない。
そういう意味でも楽しみだったが、私のシューベルトへの固定観念が強すぎたせいか、ティベルギアンの個性的なテンポルバートやタッチは個人的には違和感を感じる箇所があり、私の好みとはちょっと違っていた。
伴奏音形などはほとんど聞こえないほど弱く演奏されたりして(実際に音が出なかった箇所もあったように感じた)、かなりダイナミクスの幅を大きくとっていたのは、このホールの大きさに合わせたのかもしれない。
だが、強音はいいとしても弱音はもう少し"通る"音で弾いてほしかったという気はする(席のせいだろうか)。
もちろん、ティベルギアンのシューベルトへの愛情は強く感じられたのは良かったと思う。
彼なりによく歌い、作品を手中にしていたとは思う。
第6曲のたゆたうようなゆるやかな演奏は素晴らしかったと思う。
第1曲冒頭のおおらかなテーマの一部に私の知っているのとは異なる音が弾かれていたが、そういう版があるのかもしれない。

ウィーンつながりで選曲されたのか、前半最後は1楽章のみからなるアルバン・ベルク初期のピアノ・ソナタ。
こちらは自在な表現が好ましく、ティベルギアンの作品への没入具合がいい方向に働いたように感じられた。

休憩後、彼は見違えるように魅力的な演奏をしたように感じられた。
後半の演奏の充実をまのあたりにして、前半は緊張していたのかもしれないなと思った。
彼は「12のドイツ舞曲 D.790」と「6つのドイツ舞曲 D.820」をほんのわずかな間をあけただけで続けて演奏した。
D.790の方は私も聴き馴染みがあったが、彼の演奏する舞曲は本当に芸術品で、細やかな表情を付けて素朴な音楽に無限の多彩さを与えた。
D.820はおそらく初めて聴いたが、配布されたプログラムにも書かれていたとおり、1-2-1-3-1 4-5-4-6-4という具合に演奏されるのが興味深かった。
それぞれの短い舞曲の性格を明確にとらえて魅力的に演奏した。
舞曲も機会作品というだけにとどまらない価値があることを教えてもらった気分である。

そして、最後はシューベルト晩年の大作ソナタ ハ短調である。
この演奏を聴いて、ティベルギアンというピアニストがソナタ形式の型にはまった演奏を実に「ドイツ的」に演奏していたのが面白かった。
「楽興の時」であれほどルバートを大胆にかけていた同一人物とは思えないほど、カチッカチッとした型を押し出した演奏だったのが興味深く、またとても胸に響く演奏で素晴らしかった。
ベートーヴェン風のデモーニッシュな第1楽章、シューベルトらしい美しい歌の第2楽章、さりげないメヌエットの第3楽章、そしてタランテッラのリズムで熱狂渦巻く第4楽章と、異なる性格を見事に描き出した。
このソナタに今のティベルギアンの魅力が発揮されていたように感じられた。

会場の拍手にこたえて演奏したのはいずれもお国もののラヴェルの曲。
こちらは透徹した響きの自信に満ちた演奏だった。

最後に彼の演奏中に感じたこと。
とにかく良く鼻息をたて、ハミングをし、なにかをささやくという、あたかもグレン・グールドの映像を見るかのような状況であった。
ネットを見ると、最前列の客が歌っていたと思っている方もいるようだが、違いますよ!
ティベルギアン自身が気持ちよさそうに歌っていたのです。
最近の外来のピアニストはこのタイプが多いので、私ももう驚かなくなったが、はじめてこういう状況に接した方はびっくりしたのでは。

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コメント

フランツさん、こんばんは。このコンサート、私も聞いたのですが、自分の記事は、まだ下書き状態です。
でも、グレン・グールドが、こんな感じで演奏していたんじゃないか(生前見たことはないですが)というのは、私も思いました。
ピアノの椅子が凄く低くて、意外でしたが、あんなに身体を折り曲げる様にして弾く姿は、いつか動画で見たグールドの姿に似てました。

演奏は良かったです。
本当にピアノが好きで、自在に楽しんでいる感じが素敵でした。
私は一階席前から2列目の中央、ピアノが身近でとても良かったですが、すぐ前にフランツさんがいらしてたとは!

投稿: Clara | 2013年10月 4日 (金曜日) 00時30分

Claraさん、こんばんは。
私のほぼ真後ろぐらいにClaraさんがいらっしゃったのですね。すごい偶然でしたね。かぶりつきで演奏する姿が見られたのでいい席でしたね。
Claraさんもおっしゃるように、本当にピアノ演奏が好きで仕方ないというふうに演奏していたのが微笑ましかったです。グールドも映像を見ると本当に楽しそうですよね。
シューベルトの作品をあれだけまとめて聴けることはなかなかないので、そういう意味でも満喫しました。特に後半のソナタが魅力的でした。
それではClaraさんのご感想の日記を楽しみにしております。

投稿: フランツ | 2013年10月 4日 (金曜日) 18時06分

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