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シューベルト「夜と夢D827」を聴く

シューベルトの歌曲のうち、今回はヴィーン出身の詩人マテーウス・カシミル・フォン・コリンのテキストによる有名な「夜と夢」を聴き比べることにします。
Collin


詩は、夜が月明りを空中に差し込むように、夢もまた人々の眠る胸の中に下りてくるのだと歌う前半部分と、夢を満喫した人間が夜明けとともにまた夜と夢の到来を願うという後半部分からなっています。
シューベルトの音楽は、ゆるやかで静かに波打つピアノのトレモロに乗って、歌声部は、夜や夢が「下りて(nieder)」くる様を模したように、高い音から下降していきます。
5行目で色合いが変わり、最後の「戻っておいで」に至って、再び平安な響きが回帰します。
ロマンティックで息の長いフレーズが極めて美しく、人気の高いシューベルト歌曲の一つとなっています。

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Nacht und Träume
 夜と夢

Heil'ge Nacht, du sinkest nieder;
Nieder wallen auch die Träume
Wie dein Mondlicht durch die Räume,
Durch der Menschen stille Brust.
Die belauschen sie mit Lust;
Rufen, wenn der Tag erwacht:
Kehre wieder, heil'ge Nacht!
Holde Träume, kehret wieder!
 神聖な夜よ、おまえは沈み下りてくる、
 すると夢もまた静かに歩み下りてくるのだ、
 おまえの月の光が空中に差し込むように、
 人々の静かな胸の中へと。
 人々は喜んで夢に聞き耳を立て、
 朝日が目覚めると、こう呼びかける、
 また戻っておいで、神聖な夜よ!
 いとしい夢よ、また戻ってくるのだよ!

詩:Matthäus Casimir von Collin(1779.3.3,Wien - 1824.11.23,Wien)

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7行目の"Kehre wieder, heil'ge Nacht!"は
版によっては"Kehre wieder, holde Nacht!"となっており、
F=ディースカウなどは"holde"の方で歌っています。

歌の繰り返しをすべて再現すると以下のようになります([]内が繰り返し箇所)。

Heil'ge Nacht, du sinkest nieder;
Nieder wallen auch die Träume
Wie dein Mondlicht durch die Räume,
Durch der Menschen stille [stille] Brust.
Die belauschen sie mit Lust;
[Die belauschen sie mit Lust;]
Rufen, wenn der Tag erwacht:
Kehre wieder, heil'ge Nacht!
Holde Träume, kehret wieder!
[Holde Träume, kehret wieder!]

詩の朗読です。

最初の30秒ぐらいです。原詩によっているようなので、シューベルトのテキストと一部異なる箇所があります。

マティアス・ゲルネ(BR)&アレクサンダー・シュマルツ(P)

コクがあってロマンティックなゲルネの名演。ただただ素晴らしいです!シュマルツも温かい音色でゲルネと一体になっています。

ジェラール・スゼー(BR)&ドルトン・ボールドウィン(P)

ささやくような優しい美声に聴き惚れてしまいます。ボールドウィンが歌を美しく導いているのも聴きものです。

エリー・アーメリング(S)&ドルトン・ボールドウィン(P)

アーメリングの全盛期のみずみずしい美声をコントロールしながら至福の時を与えてくれる名演です。ボールドウィンもよく歌い素晴らしいです。

バーバラ・ヘンドリックス(S)&アンドラーシュ・シフ(P)

ヘンドリックスの歌は祈りのようで、聴いていると敬虔な気持ちが湧き起こってきます。シフは彼女の世界観と同化しています。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(BR)&ジェラルド・ムーア(P)

ディースカウの言葉を犠牲にしないディクションはこのようなレガートな作品でも健在です。ムーアも歌と呼吸を一つにした名人芸を聴かせています。

キャスリーン・バトル(S)&ローレンス・スクロバクス(P)

お騒がせな「プリマ・ドンナ」でしたが、ここでの彼女の声の魅力には抗うことが出来ません。

クリストフ・プレガルディエン(T)&ギター

清冽なプレガルディエンの美声と、素朴なギターの音色が相まって、ほっと癒される演奏でした。

ピアノ伴奏パートのみ

シューベルトの伴奏の美しさをあらためて知ることが出来ます。いい演奏なので、これに合わせて歌ってみてはいかがでしょうか。

ギター・ソロ編曲版

シューベルト歌曲のインティメートな雰囲気がギターの音色とよく合っているように感じます。

男性ヴォーカル(Kenmichael)+バンド

マイクを使ってポピュラー歌手が歌うと、新たな側面が見えてきて面白いです。原曲を変にいじり過ぎていないのもうれしいです。

ほかにもレオンティン・プライスの弧を描くような美しいレガートも素晴らしかったです。
皆さんのお気に入りを探してみてはいかがでしょうか。

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コメント

<シューベルトの……を聴く>シリーズ第2弾アップ、楽しませていただきました。詩の朗読を冒頭に置かれているのも気に入っています。そして数々の個性あふれる歌唱・演奏。
次は何だろう、と楽しみにしています。別にプレッシャーをかけてはおりませんので、リズムを崩されませんように!

投稿: Zu-Simolin | 2013年7月18日 (木曜日) 16時53分

フランツさん、こんにちは。
「夜と夢」、本当に美しい曲ですね。
シューベルトは、川の流れ、風のささやき、嵐、そういったものだけでなく、目に見えない空気まで音にしてしまう天才ですね。


この曲は、ここにも上げて下さったバトルの演奏で初めて聞きました。
バトルがニッカウィスキーのCM(1986年ころ?)でこの白いドレスをまとって現れたときは、その姿とあまりの美しい声にテレビ画面に釘付けになったことを覚えています。
しばらくしてレコード店でカセットテープを見つけ買いました。
その中に、この「夜と夢」が入っていました。
バトルのコンサートには、2度ほど行きましたが、
声がキラキラと、星のように天井から舞い落ちるような響きでした。

バトルの事に行を割いてしまいましたが、歌手それぞれの特性がこの演奏でも聴けますね。
どの演奏もそれぞれに美しく楽しませて頂きました。

それにしても、外国では「水の上で歌う」にせよ、ポップスの方々がシューベルトの歌曲を歌われているんですね。
それほどシューベルトは浸透しているという事でしょうか。

ちなみに、ヘルマンプライさんの「夜と夢」もとても甘くて素敵です(*^^*)

投稿: 真子 | 2013年7月19日 (金曜日) 15時58分

Zu-Simolinさん、こんにちは。
今回も喜んでいただけてうれしいです。有難うございます!
詩の朗読は運良くアップされていたので、掲載しましたが、歌を聴く前に実際の語りのイントネーションなどが分かると、さらに新鮮に曲を聴けるのではないかと思います。
今後もマイペースで継続できたらと思っておりますのでよろしくお願いいたします。

投稿: フランツ | 2013年7月20日 (土曜日) 08時40分

真子さん、こんにちは。
今回も聴いていただき、有難うございます。
この曲、おっしゃるようにシューベルトの天才的な楽想に満ちあふれた名作ですね。
真子さんはキャスリーン・バトルもお好きなのですね。生で聴かれた時の貴重なお話、有難うございます。実は私も一度だけ生でバトルを聴いたことがありますが、あのクリーミーな声は、CMで聴いたままの美声だったことを思い出します。確かサントリーホールで、ピアニストはフィリップ・モルでした。アンコールでは日本語の歌まで披露してくれたものでした。
プライもエンゲルと「夜と夢」を録音していますが、動画サイトに残念ながらアップされていませんでした。
ポップス系の歌手たちがシューベルトを歌っている映像は、今回聴き比べのためにあれこれ探していて知ったものです。ポップス歌手をも惹きつけるものがシューベルトの歌にあるというのはうれしいことですね!

投稿: フランツ | 2013年7月20日 (土曜日) 09時07分

ピアニストをしております。次回のサロンでチェロとピアノでの曲を探していて、夜と夢のチェロ版を見つけました。(リン・ハーレル)ネットでもないかと検索してこちらのブログにたどりつきました。よろしかったら、私のHPご覧くださいませ。

投稿: 西村有紀子 | 2015年1月11日 (日曜日) 19時17分

西村有紀子さん、はじめまして。
コメントをいただきまして、有難うございます!
「夜と夢」のチェロ編曲版の楽譜が見つかったのですね。
リン・ハレルは「夜と夢」「音楽に寄せて」を録音しているようですが、歌曲のチェロ編曲といえばマイスキーがかなりまとめて録音していたと思います。
西村さんのウェブサイトも拝見しました。あのドナルド・キーン氏が絶賛されていますね。
演奏会のご成功をお祈りいたします。
私も都合が合えば聴かせていただきたいと思います。

投稿: フランツ | 2015年1月11日 (日曜日) 20時12分

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