ヴォルフガング・サヴァリッシュ、マリー=クレール・アラン逝去
ヴォルフガング・サヴァリッシュやマリー=クレール・アランの逝去を立て続けに知り、クラシック音楽を聴き始めたばかりの頃の思い出が遠のいていくような寂しい思いにとらわれました。
私がクラシック音楽に開眼したのは中学生の時のことです。
音楽の授業でシューベルトの「魔王」を聴いた時に衝撃を受け、その曲の入ったカセットテープをおこずかいで買ったものでした。
その頃FMでシューベルトの歌曲をエアチェックしたり、LP漁りを始めた私にとってヘルマン・プライという名前は自然に知るところとなりました。
そんな中、ある日テレビでプライの出演するカール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」という作品を放映するというので、その放映を見たのですが、その時に指揮していたのがサヴァリッシュでした。
学究肌な真面目そうな外見が印象的でした。
オーケストラ音楽のレパートリーに疎かった(今でも疎いですが)当時の私にとって、サヴァリッシュは「N響アワー」にしばしば登場する指揮者である以上に、歌曲の第一級のピアノ伴奏者でありました。
シュライアーのヴォルフ「ゲーテ歌曲集」で刺激的でわくわくするようなピアノを弾くサヴァリッシュ、
F=ディースカウの珍しいレパートリー、プーランク「仮面舞踏会」で洒脱な演奏を聴かせるサヴァリッシュ(最近輸入盤で再度入手可能になりました)、
ルチア・ポップのR.シュトラウス初期歌曲集で実に雄弁な語りかけをするサヴァリッシュ、
プライが80年代に再度取り組んだベートーヴェン歌曲集でしっかりと安定したところを披露したサヴァリッシュ、
などなど、
彼の歌曲における貢献度の大きさは、兼業ピアニストとしてずば抜けていたように思います。
指揮者として多忙を極めていた彼が、歌曲に割く時間をどのようにねん出していたのか不思議でなりませんが、ただただピアニストとしての才能に恵まれていたがゆえに可能だったということなのかもしれません。
実演では私の記憶に間違いがなければ3度聴きました。
まずは指揮者として、バイエルン歌劇場のガラコンサートでポップ、ヴァラディ、リポヴシェクらとオケ伴奏歌曲の夕べ、
ディースカウの最後の来日時のピアニストとして、池袋でシューベルト歌曲集の夕べ、
そしてサントリーホールでトマス・ハンプソンと確か「はるかな恋人に寄せて」と「詩人の恋」の夕べ
でした。
これぞドイツといった安心感が彼の演奏にはあり、時にクールすぎることもありましたが、全体に目の行き届いた雄弁な演奏はやはり彼の非凡さを感じさせました。
もう一人、私の中学生の頃の思い出と結びついているのがオルガニストのマリー=クレール・アランです。
やはり中学時代に音楽の授業でバッハの「小フーガ ト短調」を聴いた私は、この曲の入った録音を探していました。
最初に間違えてストコフスキーの編曲したオケ版バッハのカセットを買ってしまい、その後に再度レコード屋に行って買い求めたのがアランの1枚のバッハ集でした。
このLPには「小フーガ」のほかに、「トッカータとフーガ ニ短調」やら「大フーガ」、「パッサカリア ハ短調」、「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」などのバッハの有名どころをおさえた選曲がされていたこともあり、すぐにバッハのオルガン曲の虜となったものでした。
中学3年の頃、雑誌「音楽の友」を読み始めていた私は、地元横浜の神奈川県民ホールの小ホールにアランが来ることを知り、同級生の友人に聴いてみたいと漏らしたことがありました。
すると、彼のご家族のつてで運よくチケットが手に入り、はじめての外来音楽家の生演奏としてアランを聴くことになったのです。
彼女はストップ操作の助手を置かず、しかも暗譜で演奏するという記憶力で知られ、実際に彼女を聴いた時もそうだったように思います。
県民ホールのこじんまりとした小ホールのオルガンを目の当たりにすると同時に、生で聴くオルガン演奏は今でもその情景をうっすらと思いだすことが出来るほど強烈な印象を受けたのだと思います。
その後も数回アランの生演奏を聴く機会に恵まれはしたものの、ドイツリートにはまりこんでいった私にとって、それほど熱心なオルガン・ファンとはならないまま時が過ぎて行きました。
オルガン音楽を聴くと今でも中学時代の思い出と結びついたまま懐かしい気持ちをよみがえらせてくれます。
その思い出のきっかけとなったアランが亡くなり、時の流れを感じながら、今彼女の演奏する「パッサカリア」を聴いています。
どうぞお二人とも安らかにお休みください。
これまでありがとうございました。
Wolfgang Sawallisch (1923年8月26日, München - 2013年2月22日, Grassau)
Marie-Claire Alain (1926年8月10日, Saint-Germain-en-Laye - 2013年2月26日, Paris)
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コメント
いろんな経路がありつつ、シューベルトやプライ、サヴァリッシュなどに繋がっていくのですね。
サヴァリッシュさんの清浄な澄んだ泉のような音作りが、もう残された録音でしか聞けないのだと思うと悲しくもありますが、大切に何度も聴きかえしてみよう、とは思っています。
投稿: Zu-Simolin | 2013年3月 3日 (日曜日) 16時58分
Zu-Simolinさん、こんにちは。
演奏家を知るにいたった経路をたどっていくと、若かりし頃の記憶が徐々によみがえってきます。
そうした中、サヴァリッシュはドイツ正統派の指揮者として、我が国でも人気があったことを思い出しています。
彼はまさに「泉のような」美しい音を奏でるピアニストでしたね。手は必ずしも大きくなかったのに、あれほど美しい音を奏でていたというのは彼のテクニックと同時に耳の良さもあったのでしょう。
ディースカウと組んだリートの映像で今偲んでいます。
http://www.youtube.com/watch?v=BgOC1K0pHII
投稿: フランツ | 2013年3月 3日 (日曜日) 18時27分
サバリッシュさん、亡くなったのですか・・。
ショックです。
サバリッシュさん伴奏の、プライさんの「冬の旅」は300回は聞いたと思います。
まるで学者のような、そして穏やかなサバリッシュさんの風貌も好きでした。
マリー=クレール・アランという方は、恥ずかしながら存知上げないのですが、フランツさんに素晴らしい思い出を作って下さったお二人の優れた演奏家が立て続けに亡くなったのは、悲しいことですね・・。
ご冥福をお祈りいたします。
投稿: 真子 | 2013年3月 4日 (月曜日) 16時52分
真子さん、こんばんは。
真子さんにとってもプライの「冬の旅」で馴染み深かったサヴァリッシュの逝去はショックだったことと思います。
演奏家は録音や映像を通して、その至芸をいつまでも残せるとはいえ、やはりご本人が亡くなるのは寂しいものですね。
私もサヴァリッシュを偲んで「冬の旅」を久しぶりに聴いてみます。
投稿: フランツ | 2013年3月 5日 (火曜日) 22時17分