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藤井一興/ピアノリサイタル 調の距離 ~そしてその先へ~(2013年1月5日 東京文化会館 小ホール)

藤井一興ピアノリサイタル 調の距離 ~そしてその先へ~
2013年1月5日(土)19:00 東京文化会館 小ホール(全自由席)
藤井一興(Kazuoki Fujii)(piano)

藤井一興(Kazuoki Fujii)/Green(世界初演)

プーランク(Poulenc)/ピアノ組曲「ナゼルの夜会(Les Soirées de Nazelles)」
 前奏曲
 変奏曲Ⅰ「分別の極み」
 変奏曲Ⅱ「御人好し」
 変奏曲Ⅲ「磊落(らいらく)と慎重と」
 変奏曲Ⅳ「思索の続き」
 変奏曲Ⅴ「口車の魅力」
 変奏曲Ⅵ「自己満足」
 変奏曲Ⅶ「不幸の趣味」
 変奏曲Ⅷ「矍鑠(かくしゃく)」
 カデンツァ
 フィナーレ

~休憩~

ドビュッシー(Debussy)/見出された練習曲(Étude retrouvée)

ブーレーズ(Boulez)/アンシーズ(Incises)

ラヴェル(Ravel)/クープランの墓(Le Tombeau de Couperin)
 1.プレリュード
 2.フーガ
 3.フォルラーヌ
 4.リゴドン
 5.メヌエット
 6.トッカータ

メシアン(Messiaen)/「幼子イエスに注ぐ20のまなざし(Vingt regards sur l'enfant Jésus)」より 第15番「幼子イエスの口づけ(Le baiser de l'enfant Jésus)」

~アンコール~

ドビュッシー/「ベルガマスク組曲」より「月の光」
シューマン/「ヴィーンの謝肉祭の道化」より「インテルメッツォ」

※上記の作曲者と曲目における欧文表記は私の追記で、プログラム冊子には欧文表記なし。

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2013年初めのコンサートはフランスものを得意をする藤井一興のピアノリサイタルだった。
藤井さんはかつてメシアンの歌曲集の伴奏者として実演に接したことはあったが、ソロリサイタルは初めて。
当日券をかろうじて入手できたが、どうやら完売になった模様。
今後藤井さんのコンサートは事前にチケットを購入しておいた方がよさそうだ。

藤井さんは最初の曲から大きな楽譜を置いて演奏した。
その後もラヴェルとメシアン以外はすべて楽譜を見ながらの演奏であったが、楽譜の置き方が違うのか、曲ごとにスタッフがあらわれては、ピアノの楽譜置きを取り外したり、付けたりといったことをしていた。

最初は藤井さんの自作初演。
「Green」は、様々な要因による自然破壊の多い昨今、自然を再生させようという意図をもってつくられたらしい。
聴いてみたら、バリバリの現代音楽ではあったが、音数がそれほど多くなく、演奏時間も5分程度だっただろうか。
一度聴いただけで作品を判断するのは私にとっては難しいが、新曲が世に出る場に立ち会うことが出来たのは貴重な体験だった。

続くプーランクの「ナゼルの夜会」はプーランクのおばの夜会にヒントを得て作られた作品らしい。
様々なタイプの(しかしプーランクらしい)部分がつながって20分の大きな作品を構成している。
喜怒哀楽がめまぐるしくあらわれては消える様に身を委ねて聴くのも楽しい。

後半はドビュッシーとブーレーズの短くも難しい作品を楽々とこなしてしまう。
前者では絶え間ないアルペッジョ、後者では執拗なほどの同音反復が印象的で、異なる表情を魅力的に演奏していた。
特にブーレーズの「アンシーズ」は現代音楽の入門としてもちょうど手頃なのではなかろうかという内容がコンパクトに詰まっている印象を受けた。
ラヴェルの「クープランの墓(「クープラン風の追悼曲集」とでも訳した方が実際の意味に近いらしい)」は、暗譜による演奏であることも関係しているのだろうか、体に染みついているかのような安定感とさりげなさがあった。
各曲のキャラクターを大げさにならず、さりげなく表現してしまえるところに藤井さんの素晴らしさがあると感じた。
魅力的な作品であった。

最後のメシアン「幼子イエスの口づけ」は10分前後かかる大作だが、メシアン特有の和声とフレーズの流れがあふれているように感じられた。
飽きずに聴けるのは、作品の良さだけではないはずである。
演奏者の作品への深い愛着が伝わってくるような襟を正したくなる演奏であった。
藤井さんの師匠へのオマージュという意味もあるにしろ、こういう作品に光を当てる藤井さんの選曲と演奏に拍手を送りたいと思った。

藤井さんの演奏は言ってみれば超絶技巧をポーカーフェイスでこなしてしまう感じである。
実演ということもあってか多少のミスらしき箇所もいくつか感じられたものの、これだけタイプの異なる難曲たちを次々と演奏してしまう対応力の幅広さに驚いた。
堅実にやるべき仕事をするという姿勢には清々しい印象すら受けた。
アンコールもまたさりげなくもツボを押さえた素晴らしい響き。
こうしてお気に入りの演奏家がますます増えていくのである。

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