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デジュー・ラーンキ/ピアノリサイタル(2012年9月23日 宗次ホール)

デジュー・ラーンキ ピアノリサイタル

2012年9月23日(日)18:00 宗次ホール(Munetsugu Hall)(1階F列9番)
デジュー・ラーンキ(Dezső Ránki)(piano)

ハイドン(Haydn)/ソナタ 変ホ長調(Sonate Es-dur) Hob.XVI:49 作品66
 Ⅰ.Allegro
 Ⅱ.Adagio
 Ⅲ.Finale (Tempo di Minuet)

ドビュッシー(Debussy)/子供の領分(Children's corner)
 第1曲 グラドゥス・アド・パルナッスム博士
 第2曲 象の子守唄
 第3曲 人形のセレナーデ
 第4曲 雪は踊っている
 第5曲 小さな羊飼い
 第6曲 ゴリウォーグのケークウォーク

ドビュッシー(Debussy)/版画(Estampes)
 第1曲 パゴダ(塔)
 第2曲 グラナダの夕べ
 第3曲 雨の庭

~休憩~

シューマン(Schumann)/子供のためのアルバム(Album für die Jugend) 作品68 より
 第1曲 メロディー
 第9曲 民謡
 第10曲 楽しき農夫
 第11曲 シチリアーナ
 第14曲 小さな練習曲
 第15曲 春の歌
 第17曲 朝の散歩をする子供
 第21曲 (タイトル無し)
 第22曲 ロンド
 第23曲 騎手の歌
 第30曲 (タイトル無し)
 第36曲 イタリア人の船乗りの歌
 第42曲 装飾されたコラール

リスト(Liszt)/5つの小品(5 Kleine Klavierstücke) S.192
 第1曲 ホ長調
 第2曲 変イ長調
 第3曲 嬰ヘ長調
 第4曲 嬰ヘ長調
 第5曲 「ため息」

リスト(Liszt)/ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」(Après une Lecture de Dante: Fantasia Quasi Sonata) S.161-7

~アンコール~
リスト/聖ドロテア(Sancta Dorothea) S.187

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ハンガリーのベテランピアニスト、デジュー・ラーンキはかつて一度だけ生で聴いたことがある。
ゴールデンウィーク恒例のラ・フォル・ジュルネでシューベルトのソナタを弾いた時である。
その時はかなり前方で聞いたと記憶するが、ホール(会議室?)の音響の悪さもあったのか、ラーンキの鼻息がやたらと気になったという印象ばかり浮かんでくる。
もちろん演奏自体は素晴らしかったと記憶しているが、あの息はかなり凄かった。

今回は名古屋、栄にある宗次(むねつぐ)ホールという小さなホールである(ちなみに私が今回宿泊したホテルの真前にある)。
名古屋駅から地下鉄で2駅という交通の便の良さも有難い。
ピアノを聴くにはうってつけのこじんまりとした空間である(310席)。
ロビーも手作り感のあるスタッフの対応が気持ちよい。
なんでもあのカレーのCoCo壱の創業者、宗次徳二氏が作ったホールとのこと。

客席数が少ないのにもかかわらず、空席が多いのに驚いた。
しかもチケット代は東京公演の半額ほどなのにである。

登場したデジュー・ラーンキは、客の少なさに動揺もせず、淡々とお辞儀をし、ピアノに向かう。
その演奏ぶりはクールで背筋は伸び、無駄な動きの一切ないものなのだが、そこから紡ぎ出される音楽のあまりの豊かさに正直驚いた。
まさに円熟の境地(ありきたりな言い方だが)といった印象である。
以前聴いた時に気になった鼻息は今回はそれほど気にならず、席の位置やホールの響きも影響しているのだろうと思う。

テンポは概して早めでさくさく進むのだが、その硬質な音の一つ一つに豊かな表情があり、弾き飛ばす箇所が全くない。
その音楽のみずみずしさと充実感は聴いていてただただ感嘆するのみであった。
音は強音でも決して汚れず、しかも芯のあるしっかりとした響きを出し、一方の弱音でも音の存在感が失われることはなかった。

最初のハイドンのソナタは比較的規模が大きめの作品だったが、チャーミングで華麗な効果も魅力的に表現していた。
ドビュッシーの「子供の領分」と「版画」はペダルを使いすぎずに粒立ちのよいタッチを駆使した充実した演奏だった。
それぞれの曲のキャラクターを巧まずに描き分ける術は、このピアニストの円熟をあらわしていた。

後半はシューマンの「子供のためのアルバム」からの抜粋(13曲)で始まったが、前半の「子供の領分」と対比させた選曲なのであろう。
その簡素さゆえか、一流ピアニストの演奏会ではなかなか聴けない作品だが、ラーンキはそれぞれの小品を"大人の音楽"として聴かせてくれた。
有名な「楽しき農夫」も彼の手にかかると立派な無言歌となる。
タイトルなしの作品も含めて、見事な選曲だった。

次にリストの珍しい「5つの小品」が演奏されたが、これはリスト晩年の作品とのこと。
華麗な超絶技巧をこれでもかと押し込んだ時代の作品とは全く趣が異なるのに驚かされる。
5曲といってもそれぞれ1~2分ぐらいの小品で、華麗な見せ場は皆無といってよい。
晩年の静かな境地にあったリストによってはじめて可能だった世界だろう。
独特な和声を織り込みつつも、概して穏やかに平穏に流れるこれらの作品は、リストの作風の変遷を感じさせてくれて興味深かった。
もちろんラーンキの演奏も共感に満ちた豊かな演奏だった。

そして「5つの小品」から間を空けずに続けて演奏された最後の演目は、これぞリストといったばりばりのテクニックを要する「ダンテを読んで」である。
地獄の恐ろしい情景がこれでもかと次々に繰り出されるが、ラーンキの演奏ぶりは相変わらずクールなもの。
しかし、冷静な表情であっても手や腕はあわただしく鍵盤を駆け巡り、しかもどこまでも非のうちようのない完璧なテクニックで見事に弾ききってしまうラーンキの実力に脱帽であった。

盛り上がった会場をクールダウンするのにアンコールで弾かれた「聖ドロテア」という美しい小品はうってつけであった。
デジュー・ラーンキの素晴らしさを再発見したコンサートであった。

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