サンドリーヌ・ピオー&スーザン・マノフ/~夢のあとに~(2012年9月20日 王子ホール)
サンドリーヌ・ピオー
~夢のあとに~
2012年9月20日(木)19:00 王子ホール(K列15番)
サンドリーヌ・ピオー(Sandrine Piau)(ソプラノ)
スーザン・マノフ(Susan Manoff)(ピアノ)
フォーレ(Faure: 1845-1924)作曲
水のほとりで(Au bord de l'eau) Op.8-1
月の光(Clair de Lune) Op.46-2
ゆりかご(Les berceaux) Op.23-1
夢のあとに(Après un rêve) Op.7-1
メンデルスゾーン(Mendelssohn: 1809-1847)作曲
夜の歌(Nachtlied) Op.71-6
新たなる愛(Neue Liebe) Op.19a-4
眠れぬ瞳に宿る光(Schlafloser Augen Leuchte)
魔女の歌、もうひとつの五月の歌(Hexenlied, And'res Maienlied) Op.8-8
ショーソン(Chausson: 1855–1899)作曲
過ぎ去りし愛(Amour d'antan) Op.8-2
魅惑と魔法の森で(Dans la forêt du charme et de l'enchantement) Op.36-2
時間(Les heures) Op.27-1
R.シュトラウス(Strauss: 1864–1949)作曲
あした(Morgen) Op.27-4
ひめごと(Das Geheimnis) Op.17-3
夜(Die Nacht) Op.10-3
セレナーデ(Ständchen) Op.17-2
~休憩~
ヴァンサン・ブーショ(Vincent Bouchot: 1966-)作曲
「絞首台の歌(Galgenlieder)」(全曲)
月での出来事(Mondendinge)
カワカマス(Der Hecht)
真夜中のねずみ(Die Mitternachtsmaus)
水(Das Wasser)
絞首台の子供の子守歌(Galgenkindes Wiegenlied)
プーランク(Poulenc: 1899-1963)作曲
モンパルナス(Montparnasse)
ハイドパーク(Hyde Park)
C(セーの橋)(<
華やかな宴(Fêtes Galantes)
ブリテン(Britten: 1913-1976)作曲
柳の園(The Salley Gardens)
なぐさめる人もなく(There's none to soothe)
彷徨いつつ思う(I Wonder as I wander)
~アンコール~
プーランク/パリへの旅(Voyage à Paris)
プーランク/ハートのクィーン(La reine de coeur)
R.シュトラウス/ツタ(Efeu) Op.22-3 (「乙女の花」より)
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はじめて聴くフランスのソプラノ、サンドリーヌ・ピオーは透明でリリック、かつよく伸びる美声をもっていた。
細やかなヴィブラートが歌唱に美しい色合いを与えていた。
驚くべきはフランス歌曲だけでなく、ドイツ歌曲においてもその明晰な発音を含め、完璧に自分のものとして歌っていたことだ。
フランスの現存する作曲家ヴァンサン・ブーショの歌曲集もモルゲンシュテルンのドイツ語の詩による小曲集であり、その言葉さばきの軽やかさと表情の豊かさは素晴らしいものであった。
比較的メロディアスで親しみやすい歌曲集だった。
ちなみに2曲目の「カワカマス」は、マーラーの「魚に説教する聖アントニウス」と同じ題材を扱っていて興味深い。
仏独英を巧みに使い分けながら、どれも借り物の居心地の悪さは一切なく、古楽で鍛えたであろう様式感と、オペラの舞台を思わせる豊かな表情で歌い、馴染みの有無にかかわらず、聴衆を惹き付けてやまないものを彼女はもっていた。
そのために、聴衆が作品に没入することをいかに容易にしてくれたか。
「夢」をテーマにした作品を集め、その多様性を楽しむという選曲の妙をたっぷり味わうことが出来た。
リサイタリストとしてのピオーの今後がますます楽しみに感じられた一夜だった。
メンデルスゾーンの「魔女の歌」など、歌とピアノで細やかさと迫力をともに感じさせるドラマを見事なまでに描き出していた。
プーランクの曲を聴いていてよく思うのは、ある曲で使ったフレーズなりメロディーなりがふと別の曲に現れるということ。
この日も「ハイドパーク」を聴いていたら「目の粗いふるいの歌」の一部があらわれた。
他の作曲家も多かれ少なかれやっているのかもしれないが、プーランクの場合は気付きやすい。
それだけ耳に残る音楽を書いているということだろうか。
最後のブリテン作曲「彷徨いつつ思う」は、歌唱とピアノが交互に対話をするような静謐なクリスマスキャロルだったが、歌が数秒遅れて小さく響いてきたので、残響というには遅すぎるし、なんらかの設備の不具合かと思っていた。
しかし、帰宅後にネットを見ていたら、どなたかが情報を寄せていて、どうやら歌のみの箇所で意図的にピアノの右ペダルを踏んで声を共振させていたらしい。
こういう工夫もさりげなく行っていたとは全く気付かなかった。
また、女性演奏家によくあることだが、ピオーも前半、後半でドレスを変えていたが(マノフも)、とりわけ後半のドレスは腰から下がひざまでの丈で、ふくらみをもっていて、歩くたびに前に大きく揺れる不思議な衣装であった。
こんな衣装を何の違和感もなくお洒落に着こなしてしまうのはフランス女性ならではだろうか。
スーザン・マノフは、プティボンなどとも共演しているピアニストで、ラトヴィア人とドイツ人の血を引いてニューヨークに生まれたとのこと。
なかなか豪快な演奏をする人で、作品へののめりこみ方も強く、燃焼度が高い。
それゆえにテンポ設定などに恣意的なものを感じさせる曲もなくはなかったが、プラスに働く曲では歌と丁々発止のやりとりを見せ、素晴らしい効果をあげていた。
拍手にこたえる時などピオーと仲良くじゃれ合い、姉妹のような感じだった。
なお、この日のコンサートは収録され、BSプレミアムで10月26日に放映されたが、きっといずれ再放送されるであろう。
その際にはぜひご覧になってみてください。
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