モイツァ・エルトマン&ゲロルト・フーバー/エルトマン ソプラノ・リサイタル(2012年6月10日 東京オペラシティ コンサートホール)
モイツァ・エルトマン ソプラノ・リサイタル
2012年6月10日(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列13番)
モイツァ・エルトマン(Mojca Erdmann)(Soprano)
ゲロルト・フーバー(Gerold Huber)(Piano)
【第1部】
メンデルスゾーン(Mendelssohn)作曲
初すみれ(Das erste Veilchen) 作品19a-2
花束(Der Blumenstrauss) 作品47-5
ふたつの心が離れる時(Wenn sich zwei Herzen scheiden) 作品99-5
ズライカ(Suleika) 作品34-4
あいさつ(Grüß) 作品19a-5
歌の翼に(Auf Flügeln des Gesanges) 作品34-2
新しい恋(Neue Liebe) 作品19a-4
モーツァルト(Mozart)作曲
ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時(Als Luise die Briefe ihres ungetreuen Liebhabers verbrannte) K.520
すみれ(Das Veilchen) K.476
夕べの想い(Abendempfindung an Laura) K.523
静けさがほほえみながら(Ridente la calma) K.152
寂しい森の中で(Dans un bois solitaire) K.308
魔法使い(Der Zauberer) K.472
~休憩~
【第2部】
モーツァルト(Mozart)/歌劇「イドメネオ(Idomeneo)」より“私の悲惨なこの運命はいつ終わるのだろう?(Quando avran fine omai... Padre, germani, addio)”
モーツァルト/歌劇「ツァイーデ(Zaide)」より“虎よ!爪を研げ(Tiger, Wetze nur die Klauen)”
プッチーニ(Puccini)/歌劇「ラ・ボエーム(La Bohème)」より ムゼッタのワルツ(Musetta's Waltz)“私が街を歩くと(Quando m'en vo)”
ベッリーニ(Bellini)/歌劇「カプレーティとモンテッキ(I Capuleti e I Montecchi)」より“こうして私は晴れの衣装を着せられ~ああ幾たびか(Eccomi in lieta vesta.. Oh quante volte ti chiedo)”
ドニゼッティ(Donizetti)/歌劇「ドン・パスクワーレ(Don Pasquale)」より“あの目に騎士は~わたしも魔の力を知る(Quel guardo, il cavaliere... So anch' io la virtu magica)”
~アンコール~
プッチーニ/「ジャンニ・スキッキ(Gianni Schicchi)」より“私のお父さん(O mio babbino caro)”
ヨハン・シュトラウスⅡ/「こうもり」より“侯爵さま、あなたのようなお方は”
レハール/「ジュディッタ」より“私の唇は熱いキスをする”
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エルトマンは王子ホールの時と同じブルーのドレスで登場した。
私の席はピアニストの真前のあたりの前から4列目だったので、王子ホールの時と違ってエルトマンを真正面から見ることが出来、聴くことが出来た。
オペラシティのこのあたりの席だと、教会の中にいるかのようにかなり残響が聞こえる。
この席の響きに適さない作品もあるだろうが、今回これはこれで面白いと思った。
メンデルスゾーンもモーツァルトもある種の軽さが必要な作品だが、その点、彼女のリリカルな表現はまさにぴったりはまっていた。
声の清純さ、発音の美しさ、表情の豊かさはアーメリングやボニーに近いものを感じた。
明朗、軽やか、旋律美といった特徴をもつメンデルスゾーン歌曲の歌い手として、今彼女以上の適任者はなかなかいないだろう。
エルトマンのレパートリーの中枢に据えてもいいのではと思えるほど、メンデルスゾーンの歌曲の一つ一つが彼女の歌唱できらめいていた。
「新しい恋」での小悪魔的な表情のなんと豊かなこと!
ピアノのフーバーはちょっと雑な箇所もあったが、各曲の性格を見事に描き出していた。
モーツァルトの有名な歌曲6曲も彼女に歌われると宝石のように輝く。
その光沢のある美声は心地よく癒してくれる。
「静けさがほほえみながら」はメロディーに装飾を加えて、単調に陥らない工夫が感じられた。
前半のリートだけでも今の彼女の好調さが実感できたが、後半のオペラアリアの数々で全く異なるドラマティックな側面を聴かせてくれた。
こちらは1曲1曲拍手が起こり、会場もヒートアップしていく。
「ツァイーデ」のアリアのドラマティックな表情は、リート歌手としての清楚なイメージを払拭するのに充分だった。
コロラトゥーラを聴かせ、超高音を朗々と響かせ、その持ち駒の豊富さにただ驚かされると共に、徐々に聴きながら気分が高揚していくのを感じた。
これほど前半と後半で全く異なる側面を聴かせるリサイタルはなかなかないだろう。
正規のプログラムの高揚感はアンコールにまで持ち込まれ、会場を一体にさせた彼女の実力を思い知らされた時間だった。
ピアノのゲロルト・フーバーは前半のリートではもちろん彼の本領を遺憾なく発揮していたが、後半のオペラアリアでもこれほどの熱演を聴かせてくれるとは!
1曲1曲への投入の仕方に凄みがあった。
それは下手をすると行き過ぎになりかねないものだが、この日の彼の演奏はすべてがそうあってしかるべき表現となっていて見事だった。
リリカルなだけでないエルトマンの魅力が今後どのように進んでいくのか今から楽しみにしたい。
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