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最近聴いたコンサートから(2012年3月~4月)

ここのところ、どうもブログをさぼる癖がついてしまい、聴いたコンサートの備忘録もアップしないまま放っておくことが多くなった。
せっかく聴いたコンサートの記録はやはり出来る限り残しておきたいので、今回は少しまとめて記事にしたい。
プログラムの詳細は別ファイルにリンクして、このページでは簡単な感想を記しておきたい。

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キム・ソヌク ピアノ・リサイタル
2012年3月17日(土)14:00 紀尾井ホール

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韓国出身で若干23歳のピアニスト、キム・ソヌクを初めて聴いた。
リーズ国際コンクールで優勝という経歴は、私が注目しているアンティ・シーララと同じだが、キムは史上最も若い年齢での優勝とのことで、早くから才能を開花させている。
前半にベートーヴェンのソナタ第3番とブラームスのバラード、そして後半はリストのソナタという正攻法の選曲。
とはいえ、ベートーヴェンの32ものソナタの中から若き作曲家の野心みなぎる第3番を選曲したというのは、若いピアニストにとって共感できるところが大きいということだろうか。
全体的に余計な思いいれや過剰さはなく、清潔で美しい音楽が奏でられた。
リストの大きなソナタもテクニカルな面は申し分なく、余裕をもって、演奏された。
今の彼はその美音が武器の一つだろう。
今後どのようなピアニストに育っていくのか楽しみである。

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ミヒャエラ・ゼリンガー&小菅優~ウィーンを歌う
2012年3月31日(土)15:00 東京文化会館 小ホール

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メゾソプラノのミヒャエラ・ゼリンガーは初めて聴く。
渋みのある落ち着いた声だが、包容力があるというよりは、むしろソプラノの響きに近い印象を受けた。
シューベルトのゲーテ歌曲は特別なことをせずに素直に表現したのが爽快な印象だった。
「恋する者のさまざまな姿」は通常歌われることの少ない節も追加して歌っていたのが興味深い(配布された歌詞対訳は一般的な3つの節のみの掲載だったが)。

マーラーの「リュッケルト歌曲集」はよりしっとりとした味わいがあり、調子をあげてきた印象だ。
事前に予告されていた順序と一部異なっていたが(「私はこの世に捨てられて」「真夜中に」が逆になった)、舞台上で順序を間違えて演奏したのか、それとも直前に変更した為に告知がされなかったのかは定かでない。
だが結果的には、「私はこの世に捨てられて」が後になったのは良かったような気もする。

後半で彼女は意外にも日本歌曲をもってきた。
しかも外国人にも馴染みのある名曲集などではなく、信時潔の歌曲集「沙羅」からの抜粋という渋さ!
「鴉」などは外国の人にも歌いやすい曲だと思うが、他の3曲はなかなか渋くて、どういういきさつでこの選曲になったのか気になるところだ。
ゼリンガーは小菅さんに日本語を教わったのだろうか、なかなか立派な日本語の発音である。
ただ、ドイツ語圏の人が日本語で歌う時に共通する「エー」が「イー」に近く聞こえるという欠点は彼女にも聞かれた。

最後のシュトルツによるオペレッタのナンバーはそれこそ肩の力を抜いて気楽に聴ける音楽ばかり。
ゼリンガーの芸達者ぶりをたっぷり味わうことが出来て楽しかった。

ピアノの小菅優はソリストらしからぬ配慮の細やかさで立派な伴奏者となっていた。
また感情の起伏がわりとはっきり音に出るタイプとも感じられた。

余談だが、ゼリンガーが歌う時の立ち位置がかなりピアニストよりだったのが珍しかった。普通は右側の湾曲したところに立つ人が多いと思うが、こんなにピアニストに近づいて歌う歌手ははじめてである。
東京・春・音楽祭のHPで期間限定で映像配信をしているので、興味のある方はご覧ください(シューベルト以外の全曲聴けます)。

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ヴェルディ/オテロ
2012年4月7日(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス

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普段オペラを聴くと、歌手の誰それが素晴らしかったという聴き方になりがちだった。
しかし、この日最も素晴らしかったのはオーケストラであった。
実にドラマティックに演奏され、管楽器の響きもあまり裏返ったりせず、朗々たる響きが心地よかった。
もちろん歌手陣はいずれも素晴らしかった。
これまで新国立劇場で聴いたオペラの中でも私にとって最も充実感を感じた上演の一つとなった。
METのライブビューイングで馴染みだったロシアのマリーナ・ポプラフスカヤのキャンセルは残念だったが、代理のマリア・ルイジア・ボルシは昨年の「コシ・ファン・トゥッテ」の時とは打って変わった役柄を実に感動的に表現してくれた。

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ポール・ルイス/シューベルト・チクルス Vol.4
2012年4月12日(木)19:00 王子ホール

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ポール・ルイスを再び生で聴いて、前回聴いた時よりもずっとシューベルトらしい心の機微が感じられて、感銘を受けた。
前回はベートーヴェンのような構築感が感じられたが、今回はどこまでもシューベルトらしいたゆたうような感覚が付与されていて、シューベルトを聴いているという実感がわいた。
テンポも今回は彼にしては揺らしていたのが印象的だった。
テクニカルな面では相変わらず安定していて、安心してこれらの作品の魅力にひたることが出来た。
来年は晩年のソナタ3作でシューベルトシリーズを締めくくるそうだが、そちらもきっとチケット争奪戦が激しそうな予感である。
しかし、なんとしても最終回も聴きたいものである。

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インゴルフ・ヴンダー/ピアノ・リサイタル
2012年4月17日(火)19:00 紀尾井ホール

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ショパンコンクールで第2位をとったインゴルフ・ヴンダーのリサイタルを聴いた。
2011年1月の入賞者ガラコンサートでも清潔で美しいタッチが印象的だったが、今回ショパン以外の作品も聴いて、あらためてオーストリアの伝統を受け継ぐピアニストの登場を頼もしく感じた。

モーツァルトはオーストリア生まれのヴンダーの名刺代わりといってよいかもしれない。
この若さでモーツァルトの軽さをこのように表現したのは素晴らしかった。
時々リタルダンドのかけ方にロマン派っぽさも感じられたが過剰というほどではない。
清潔感のあるモーツァルトであった。
ここに今後年輪を重ねたコクが加わることを期待したい。

リストでは彼のテクニカルな面での非凡さが印象づけられた。
特に「死のチャルダーシュ」での圧倒的な表現力は頼もしいほどである。

そして、後半でショパンのソナタ第3番と「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。
やはりヴンダーが弾きこんでいるであろうこれらの演奏の素晴らしさは前半をさらに上回っていた。
ソナタも良かったが、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」をこれほど魅力的に演奏できるピアニストが他にどれほどいるだろうか。
驚くほどの素晴らしさであった。
力ずくではなく、余裕のある表現が若さに似合わず大物の風格を感じさせる。
そんな印象を受けたコンサートであった。

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高橋アキ/ピアノドラマティックVol.8
2012年4月18日(水)19:00 東京文化会館 小ホール

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サティや現代音楽を得意とする高橋アキのリサイタルをはじめて聴いた。
しかし演目は現代音楽ではなく、モーツァルトとシューベルトのソナタ。
彼女自身がアンコール時に語った言葉によると、彼女のこれまでのキャリアの中でクラシックのレパートリーのみのリサイタルを開いたのは今回で2度目(!)とのこと。
その貴重な機会に立ち会うことが出来たのはうれしい。

彼女はアンコールも含めて全曲を楽譜を置きながら演奏した。
現代音楽の演奏家というのでなんとなく鋭く攻撃的な演奏をイメージしていたのだが、実際の高橋さんの演奏は楷書風でテンポは概してゆっくりめ、そしてフレーズ間に比較的はっきりと区切りを入れることなどが印象的だった。
年齢からだろうか、それともまだ自身の血肉とはなっていないのか、ミスが散見されたのは惜しかった。
しかし、シューベルトに定評のあるピアニストたちとはまた異なる味わいをもった演奏を聴かせてもらえて、私としては新鮮なシューベルト演奏を楽しむことが出来た。

アンコールの2曲は高橋さんにとっておそらく手の内に入った作品。
正規のプログラムでは聴かれなかったほどの安定感があり、彼女の本領発揮といったところで非常に素晴らしかった。
ジョン・ケイジのピアノ曲はそれほど多くを知らないのだが、「4分33秒」は別として、模糊とした幻想的な美しい曲が多いような印象を受けた。

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新国立劇場バレエ団/DANCE to the Future 2012
2012年4月21日(土)15:00 新国立劇場 中劇場

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新国立劇場 中劇場で新国立劇場バレエ団によるダンス公演を見た。
席は13列だったが、客席の前方が取っ払われ舞台になっていた為、実質的には前から4列目という良い場所だった。
ステージを見下ろす形で、ダンサーたちの息遣いや汗のしたたりまではっきり分かる場所だったので楽しめた。
それにしてもダンサーというのは肉体労働だなぁとつくづく思う。
いろいろな動きから観客それぞれの感じ方をすればよいのかなと気ままに楽しんだ。

「Ag+G」という新作は「銀」と「重力」がテーマとのこと。
10人のダンサーたちが入れ替わり立ち代り現れては消え、無機質な中にも独特な動きがあり、見ているだけでも大変そうだなぁという印象。
女性ダンサーが体格の違う男性ダンサーを持ち上げる場面さえあったのには驚かされた。
彼らの身体能力の素晴らしさを見せ付けられた。

「Butterfly」は今回の演出の平山素子自身がかつて初演した作品とのことで、男女の愛を扱っているそう。
この作品に出演してくれるダンサーは「勇気がある」とのことだが、二人の愛の世界を一心不乱に演じてみせ、「Ag+G」との対比が面白かった。

ストラヴィンスキーの「兵士の物語」は生演奏による上演だったので、音楽とダンスとの融合ぶりが素晴らしかった。
主役は福田圭吾で、悪魔の山本隆之とのやりとりがコミカル、かつ辛らつで、一度手離したヴァイオリンは再び取り戻せないというメッセージを彼らのダイナミックなダンスで魅力的に表現していた。
さらにプリンセスを男性ダンサー(厚地康雄)が演じたが、可愛い女性などそうやすやすとは手に入らないものだという意味合いが込められているらしい。
3人の道化は元の設定にはなく、平山によって取り入れられたそうだが、全体をかき回しながら、息の合った魅力的な演技を披露していた。

第2作の後の休憩20分を含んでちょうど2時間ほど。
上演後には演出、振付の平山素子によるアフタートークが客席1階で行われた。

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モーツァルト(Mozart)/ドン・ジョヴァンニ
2012年4月22日(日)14:00 新国立劇場 オペラパレス

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朝から鼻水とくしゃみがとまらず、「眠くなりにくい」と謳った鼻炎薬を飲んで鑑賞したのだが、第1幕はほとんど瞼を開けていることが出来なかった。悔しい(さすがに効き目があったのは良かったが)!
休憩時に顔を洗い、体を動かしてようやく、第2部は意識が飛ばずに済んだ。
第2部が本当に素晴らしい出来栄えで、モーツァルトの世界にどっぷり浸れたので、前半に朦朧としていたのがかえすがえすももったいなかった。

クヴィエチェンのタイトルロールはまさに脂の乗り切った絶頂の歌唱と名演技。
昨年のMETのライブビューイングでも彼のドン・ジョヴァンニを見てはいたが、やはり生の声に勝るものはないことを実感!
朗々と豊かに響く声と自然な演技力を目の当たりにして、旬の歌手を日本で聴けることの喜びをかみしめた。
レポレッロ役の平野和は歌、演技、舞台姿どれをとっても見事で、クヴィエチェンとの息もぴったり。
声の質はロベルト・ホルのような深みがあるなぁと思っていたら、ホルに師事していたとのこと。
外国の歌手たちと一緒でも全く遜色がなく、今後がますます楽しみな低音歌手である。
お馴染みの妻屋秀和の騎士長も貫禄の名唱だったし、ドンナ・アンナとエルヴィーラの2人の女性も細やかな感情表現で素晴らしかった。
オケもかなり雄弁な名演奏を聴かせてくれたが、マッツォーラという指揮者、時々テンポを落として歌手が入りやすいような配慮をしていたように感じられた。

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エリック・ヴェルバ没後20年

今日4月9日は、かつて歌曲の名伴奏者と謳われたオーストリアのピアニスト、エリック・ヴェルバ(Erik Werba: 1918年5月23日, Baden, Niederösterreich - 1992年4月9日, Hinterbrühl)が亡くなって丸20年の命日である。
日本人をはじめ多くの国の歌手たちを育て、伴奏をし、教育者としても知られていたうえに、ヴォルフの伝記や演奏批評など文筆活動も行っており、作曲までしていたというまさにマルチな才能をもった音楽家であったようだ。
私がクラシック音楽を聴き始めた1980年代にはまだたまに来日もしており、音楽誌のコンサートリストにヴェルバの名前が掲載されていたのも覚えているのだが、残念ながら彼の実演を一度も聴くことがなかった。
いつでも聴けると思って結局聴かないうちに亡くなってしまうというのは悔しいものである(余談だが、リヒテルも頻繁に来日していたのだから一度ぐらい生で聴いてみたかった)。

そんなヴェルバだが、彼の録音に関しては、例えばジェラルド・ムーアやジェフリー・パーソンズほどには熱心に聴いていなかったということもまた事実である。
LP時代に膨大な録音を残していた彼だが、当時私のもっていたレコードやCD、あるいはエアチェックしたカセットテープの中にヴェルバの演奏した録音が意外と少なかったということもあり、有名なわりにはあまりその演奏ぶりを味わってはいなかった。
しかし、当時LPを置いていた図書館から借りてきたレコードの中で忘れられないものがある。
ソプラノのイルムガルト・ゼーフリート、バリトンのエーバーハルト・ヴェヒターと共演したヴォルフ作曲「スペイン歌曲集」抜粋のLPである。
全曲でないのが残念なぐらいに魅力的な作品と演奏で、一気に気に入ってしまったのを覚えている。
ゼーフリートの硬質な声もヴェヒターのめりはりのある歌唱も見事ながら、歌手に完全に従うというのではなく、自分のテンポにこだわりを見せつつ、それでいて歌とずれずに共に進んでいくヴェルバのピアノ演奏がなかなか面白かったものであった。
ゼーフリートやクリスタ・ルートヴィヒ、ニコライ・ゲッダ、ヴァルター・ベリーなどはムーアとも共演したけれど、ヴェルバとの共演の機会の方が多かったのではないか。
「冬の旅」をライフワークにしているバス歌手、岡村喬生もムーアとはおそらく共演しなかったが、ヴェルバとは国内外で共演していたらしい。
岡村氏の著書の中で、ある晩眠れない岡村さんが隣の部屋の電気がまだついていることを確認してヴェルバのもとへ行ってみると、彼が机の上で「冬の旅」の移調譜を書いていたというエピソードが紹介されている。
ヴェルバほどの達人であっても、「冬の旅は難しい」と新たな移調譜を作っているというのは、伴奏者として真摯に作品に向き合っている証ではないか。

現在ヴェルバの録音はザルツブルク音楽祭のライヴ録音シリーズで沢山入手することが出来る。
それらの中の例えばシュライアーと共演したドヴォルジャークの「ジプシーの歌」に関しては、現役の一流伴奏者に「音符どおりに弾かずにグリッサンドにしてしまっている」ことを指摘されてしまっている。
確かにヴェルバのテクニックは、技巧的な作品においては危なっかしい箇所がないとはいえないだろう。
だが、歌手を導き、支え、作品の魂を知り尽くし、それを自らのものにした演奏は、単なるテクニシャンには出せない味わいを醸し出し、歌手たちの歌唱の自発性をも引き出す能力は、彼のユニークな美点であろう。
バスバリトンのハンス・ホッターと1960年代に録音した「冬の旅」は、ヴェルバの代表的な録音の一つだと思うが、そこには歌い手と共に歩む同伴者としてのヴェルバの良さがあらわれているように感じる。
彼と共演した膨大な歌手たちのリストは、このピアニストがおそらく実演でどれほど歌手たちを安心させ、助け、作品を高みに引き上げていたかを物語っているのでないだろうか。

彼の演奏がほぼ歌手との共演に限定されていて、楽器奏者との演奏があまりなかったということも、ヴェルバの演奏の特質をあらわしているのではないか。

最後に彼の演奏するヴォルフの「少年鼓手」の動画をご紹介しておきます。
歌っているのはバリトンのヴァルター・ベリーです。

 こちら

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