髙橋節子&太田直樹&平島誠也/ジョイントコンサート(2012年3月6日 大泉学園ゆめりあホール)
髙橋節子 太田直樹 ジョイントコンサート
~ウィーンで生まれた歌曲・古典と近代~
2012年3月6日(火)19:00 大泉学園ゆめりあホール(全自由席)
髙橋節子(たかはしせつこ)(ソプラノ)
太田直樹(おおたなおき)(バリトン)
平島誠也(ひらしませいや)(ピアノ)
ベートーヴェン(Beethoven)作曲
君を愛す(Ich liebe dich)WoO.123(髙橋)
諦め(Resignation)WoO.149(髙橋)
ミニヨン(Mignon)Op.75-1(髙橋)
悲哀の喜び(Wonne der Wehmut)Op.83-1(太田)
アデライーデ(Adelaide)Op.46(太田)
シューベルト(Schubert)作曲
~春のうたを集めて~
春に小川のほとりで(Am Bach im Frühling)D361(髙橋)
ばらのリボン(Das Rosenband)D280(髙橋)
春に(Im Frühling)D882(髙橋)
夜咲きすみれ(Nachtviolen)D752(太田)
ガニュメート(Ganymed)D544(太田)
ミューズの子(Der Musensohn)D764(太田)
~休憩~
ベルク(Berg)作曲
『4つの歌(4 Lieder)』Op.2(太田)
眠る、眠る、ただ眠るだけ(Schlafen, Schlafen, nichts als Schlafen)
眠りつつわたしは運ばれる(Schlafend trägt man mich)
今わたしは最強の巨人に打ち勝ち(Nun ich der Riesen Stärksten überwand)
暖かいそよ風(Warm die Lüfte)
『初期の7つの歌(Sieben frühe Lieder)』より(髙橋)
夜(Nacht)
小夜鳴鳥(Die Nachtigall)
部屋にて(Im Zimmer)
夏の日(Sommertage)
マーラー(Mahler)作曲
『子供の不思議な角笛(Des Knaben Wunderhorn)』より
トランペットが美しく響くところ(Wo die schönen Trompeten blasen)(髙橋;太田)
ラインの伝説(Rheinlegendchen)(髙橋)
無駄な骨折り(Verlorne Müh'!)(髙橋;太田)
この歌を作ったのは誰?(Wer hat dies Liedlein erdacht?!)(太田)
不幸な時の慰め(Trost im Unglück)(髙橋;太田)
~アンコール~
シューベルト/ミニョンと竪琴弾き「ただ憧れを知る者だけが」(Mignon und der Harfner "Nur wer die Sehnsucht kennt")D 877-1(髙橋;太田)
シューベルト/ます(Die Forelle)D550(太田)
マーラー/たくましい想像力(Starke Einbildungskraft)(髙橋)
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西武池袋線の大泉学園駅からすぐの大泉学園ゆめりあホールに初めて出かけた。
目的のコンサートは「髙橋節子 太田直樹 ジョイントコンサート」と題され、平島誠也のピアノで、ベートーヴェン、シューベルト、アルバン・ベルク、マーラーといったヴィーンにゆかりの作曲家の作品が演奏された。
ホールは木の雰囲気が温かく、客席は1列ごとに段が高くなり、ステージが見やすい構造になっていた。
配布されたプログラム冊子には髙橋さんによる全曲の日本語訳が掲載されていたが、ソプラノとバリトンのどちらがどの曲を歌うのかは記載されていない。
つまり、ステージ上ではじめてどちらが歌うのかが分かる仕組みである。
最初にあらわれたのは薄い金色のドレスをシックにまとったソプラノの髙橋さん。
まずベートーヴェンの有名な「君を愛す」が歌われた。
「悩みは...分かち合うことによって容易く耐えられた」というテキストの内容が演奏者から聴衆への特別なメッセージのようにも感じられる。
ソプラノでありながら深みを感じさせる心地よい声である。
途中の"Klagen"で装飾を付けていたのも興味深い。
珍しい「諦め」が続き、さらにゲーテの「君よ知るや南の国」の詩に付けられた「ミニョン」が歌われた。
ベートーヴェンによる「ミニョン」は、例えばヴォルフによる作品などとは全く異なり、素朴そのものである。
それゆえに演奏者にとっては雰囲気でごまかすことの出来ない難曲ではないだろうか。
髙橋さんの「ミニョン」は素朴なメロディーを小細工なしに素直に歌って魅力的だった。
続いてバリトンの太田さんが登場し、ベートーヴェン歌曲を2曲。
太田氏は時折スゼーを彷彿とさせるようなノーブルな響きが聴かれ、朗々と湧き出る歌声そのものの魅力にあふれていた。
現代の歌手であるからには知的な解釈のうえに歌っているのだろうが、知性が邪魔をせずに素直にひたれる声である。
とりわけ「アデライーデ」のゆるやかで息の長いフレーズは太田さんの歌唱によく合っていたように感じた。
太田さんもこの曲の途中で装飾を付けていたが、ベートーヴェンの頃はこのように装飾を付けるのは普通のことだったのだろう。
続いてシューベルトの春の歌を髙橋さん、太田さんそれぞれが3曲ずつ歌った。
髙橋さんの選曲はメロディーの美しさとそこはかとない哀愁が特徴的で、旋律の美しさを素直に聴かせてくれた。
太田さんの選曲は可憐で心にしみる「夜咲きすみれ」と、ギリシャ神話にちなんだ2曲であり、「ガニュメート」のしめの長いフレーズも見事に決め、「ミューズの子」は低く移調しながらも軽やかな味わいを出していた。
後半は太田さんのベルク「4つの歌」Op.2で始まった。
このOp.2、連作歌曲というわけではないのだが、テキスト相互の雰囲気に「眠り」「死」といった共通性が感じられるので、このようにまとめて演奏するのが効果的だろう。
3曲目のモンベルトという人のテキストはハイネの詩を思い出させる。
太田さんはベルクの作品を歌ってもその声のもつ魅力で親しみやすい歌唱を聴かせてくれた。
続く髙橋さんは鮮やかな赤いドレスに衣裳を替えて登場し、「初期の7つの歌」からの4曲を歌った。
まだドイツリートの伝統を引き継いだ初期作品ではあるが、非常に魅力的な曲ばかりで、はじめて聴いた人でも惹き付けられるものをもっている。
髙橋さんはこの時代の歌曲と相性がよさそうで、解放感にあふれた光沢のある響きが素晴らしかった。
最後のブロックはマーラーの歌曲。
最初の「トランペットが美しく響くところ」はテキストの内容から男女の対話の形をとることが多いのだが、ピアノの前には髙橋さんがいるのみ。
しかし、髙橋さんが歌い始めると、曲の途中で右側の壁が開き、太田さんがそっと舞台中央に進み、演奏に加わる。
こうして、マーラーのブロックはソロ曲もはさみつつ、オペラの一場面のごとき表情と軽い演技のついた楽しいステージとなった。
「無駄な骨折り」では彼氏にあの手この手で甘える女性と、つれない態度をとり続ける男のやりとりがコミカルに描かれるが、最後まで彼氏に相手にされずに落胆してステージからいそいそと袖へ去ってしまう髙橋さんの表情がなんとも可愛らしく、役者っぷりを印象づけられた。
最後の「不幸な時の慰め」では男女が愛し合いつつも意地を張り合う様が2人の歌手の巧みな表現力で楽しく歌われた。
平島さんのピアノは、クリアな音色と快適なテンポで歌手たちをいつのまにか導いている。
時代の異なる各曲の性格を巧まず自然に表現する術はいつもながら素晴らしかった。
シューベルトの「春に」の間奏などペダルを使いすぎず、むしろスタッカート気味に響かせていたのが魅力的で、「ガニュメート」の後奏のレガートも美しかった。
また、アルバン・ベルクでは、ピアニスティックな面での魅力も感じられ、マーラー各曲では情景描写と心理描写の結びついた表現力に魅せられた。
アンコールの3曲も含めて、リートの醍醐味をたっぷり満喫できた一夜だった。
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