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イアン・ボストリッジ&グレアム・ジョンソン/リサイタル(2012年1月14日 王子ホール)

イアン・ボストリッジ テノール・リサイタル
2012年1月14日(土)16:00 王子ホール(Oji Hall)(A列10番)

イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge)(Tenor)
グレアム・ジョンソン(Graham Johnson)(Piano)

パーセル;ティペット(Purcell; Tippett)/ひとときの音楽(Music for a While)
パーセル;ブリテン(Purcell; Britten)/女王に捧げる哀歌(The Queen's Epicedium)

J.S.バッハ;ブリテン(J.S.Bach; Britten)/5つの宗教的歌曲(Five Spiritual Songs)
 思え、わが心よ(Gedenke doch, mein Geist, zurücke)BWV509
 来たれ、魂たちよ、この日は(Kommt, Seelen, dieser Tag)BWV479
 いと尊きイエスよ(Liebster Herr Jesu)BWV484
 甘き死よ、来たれ(Komm, süsser Tod)BWV478
 御身はわがかたわらに(Bist du bei mir)BWV508

ハイドン(Haydn)/英語によるカンツォネッタ集(English Canzonettas) より
 喜びの伝播(満足)(Content)
 船乗りの歌(Sailor's Song)
 彼女は決して恋について話さない(She Never Told her Love)
 さすらい人(The Wanderer)
 誠実(Fidelity)

~休憩~

シューベルト(Schubert)/ゲーテの詩による歌曲(Goethe Lieder) より
 月に寄す(An den Mond I)(第1作)D259(1-2,3-4,8-9節)
 恋人のそばに(Nähe des Geliebten)Op.5-2, D162(1,2,4節)
 夜の歌(Nachtgesang)D119
 恋する者の様々な姿(Liebhaber in allen Gestalten)D558(1,3,7,9節)
 海の静けさ(Meeres Stille)Op.3-2, D216
 湖上で(Auf dem See)Op.92-2, D543
 ミニョンに(An Mignon)Op.19-2, D161(1,2,3,5節)
 最初の喪失(Erster Verlust)Op.5-4, D226
 ガニュメート(Ganymed)Op.19-3, D544
 ミューズの子(Der Musensohn)Op.92-1, D764
 月に寄す(An den Mond II)(第2作)D296

~アンコール~
シューベルト(Schubert)/音楽に寄せて(An die Musik)D547
パーセル;ティペット(Purcell; Tippett)/ひとときの音楽(Music for a While)

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このコンサートも昨年震災前に予定されていた公演の振り替えである(ただしチケットは新たに購入し直さなければならなかったが)。
オペラシティの巨大な空間とは異なる王子ホールの親密な空間は、リートを聴くにはより適した場であり、実際、ボストリッジとジョンソンによる演奏は、より細やかな表情が伝わってくるものだった。

前半はまずパーセルとバッハの歌曲をイギリスの作曲家ティペットやブリテンが編曲した作品。
パーセルの「ひとときの音楽」などはよく知られた作品だが、ティペット編曲版を聴いたのは初めてかもしれない。
ピアノパートが異なるとまた新鮮な響きがするものだ。
バッハの宗教的歌曲5曲はボストリッジのスタイリッシュな表現が光っていた。
有名な「御身はわがかたわらに」は実は別の作曲家の手によるものであるらしい。

ハイドンの英語によるカンツォネッタ集を実演で聴けることは珍しい。
そういう意味でも貴重な歌唱であり、ボストリッジは堂々たる「船乗りの歌」、秘めた恋心を歌った「彼女は決して恋について話さない」、陰鬱な雰囲気が印象的な傑作「さすらい人」、ドラマティックな「誠実」などハイドン作品の多様性をこれらの選曲で見事に描き出していた。

休憩後はシューベルトのゲーテの詩による作品ばかり11曲。
冒頭と最後を同じテキストによる「月に寄す」の第1作と第2作で囲み、その間に恋の歌や水に因んだ作品、古代ギリシャに因んだ作品などを巧みに織り込む。
魅力的な選曲であり、ボストリッジもジョンソンも、彼らの本領発揮といったところだ。

ボストリッジは相変わらず様式感を保ちつつも美声を響かせ、作品と絶妙な距離感を保つ。
一方のピアニスト、ジョンソンは、知り尽くしたこれらの歌曲のエッセンスを抽出してみせる。
ピアノのテクニックを誇示することはなく、あくまで作品に奉仕する姿勢は、歌曲伴奏のひとつの理想を呈示していて素晴らしかった。

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コメント

こんにちは。ご無沙汰いたしております。
ボストリッジのコンサートの記事、ああ私も生で聴きたいなあという、羨望の想いとともに読ませていただきました(笑)。
吉田秀和氏が確か、ドイツ語をはっきり聞き取れる歌唱をしているのはディースカウとベーアだと何度か書いておられたと思います。ドイツ語のことはおろか日本語のことさえ良く知らない私ですから、何をかいわんやですが、吉田氏の言から見れば、ボストリッジのドイツ語は独特の「訛り」があることになるのでしょうが、聞き取りやすさからいえば、聞き取りやすい。
クリーミイな声、とTaubenpostさんはおっしゃいましたね。ほんとうにそうですね。今も彼のゲーテ詩のシューベルト歌曲のCDを聴きながら書いています。伴奏者は、ドレイクですけれど。
……あ、ちょうど『野薔薇』が聞こえてきました(因みにこの曲だけは、H・プライの1964年、K・エンゲル伴奏による録音が一番のお気に入りではありますが)。私には、ボストリッジの声の清潔感(清涼感ではありません)が、気に入っているところです。
以上、久しぶりにコメントを送らせていただきたく、乱文のまま送付いたします。

投稿: Zu-Simolin | 2012年2月18日 (土曜日) 17時18分

Zu-Simolinさん、こんばんは。
こちらこそご無沙汰しております。
コメントを有難うございました!

ディースカウやベーアという名前、とても懐かしいです。ベーアは新人のころ、吉田氏が賞賛していたのを思い出します。最近はめっきりリートの録音が途絶えてしまいましたが、3月公開の「魔弾の射手」の映画に出演しているようなので、そちらを見に行こうかと思っているところです(チラシの写真を見ると大分オジサンになってしまいましたが)。

ボストリッジの「清潔感」、なんとなく分かる気がします。ステージを見ると潔癖で神経質な印象が録音の時以上に強まります。ちょっと斜に構えている風なのはイギリス人特有のものなのでしょうか。ドイツ語もネイティヴの人ほどではないでしょうが、わりといい響きではないでしょうか。
ジョンソンは博識で尊敬すべきピアニストですが、ドレイクは完璧なピアニストだと思います。またドレイクを生で聴きたいものです。

プライとエンゲルの「野ばら」、私も好きです。ディースカウとムーアの「野ばら」はよりめりはりが効いているのでさらにお気に入りですが。

投稿: フランツ | 2012年2月18日 (土曜日) 22時19分

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