クリスティアン・ゲルハーヘル&ゲロルト・フーバー/“マーラーの二夜”<第2夜>(2011年12月7日 王子ホール)
クリスティアン・ゲルハーヘル“マーラーの二夜”<第2夜>
2011年12月7日(水)19:00 王子ホール(D列1番)
クリスティアン・ゲルハーヘル(Christian Gerhaher)(Baritone)
ゲロルト・フーバー(Gerold Huber)(Piano)
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler)
「大地の歌」より 第2楽章 秋に寂しきもの
(From "Das Lied von der Erde" No.2 Die Einsame im Herbst)
「7つの最新歌曲(最後の7つの歌)」
(Sieben Lieder aus letzter Zeit)
死せる鼓手(Revelge)
少年鼓手(Der Tamboursg'sell)
私の歌をのぞき見しないで(Blicke mir nicht in die Lieder)
私は快い香りを吸いこんだ(Ich atmet' einen linden Duft!)
真夜中に(Um Mitternacht)
美しさをあなたが愛するなら(Liebst du um Schönheit)
私はこの世に捨てられて(Ich bin der Welt abhanden gekommen)
~休憩(Intermission)~
「大地の歌」より 第6楽章 告別
(From "Das Lied von der Erde" No.6 Der Abschied)
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王子ホールはクリスティアン・ゲルハーヘルとゲロルト・フーバーを迎えて、今年没後100年のマーラー歌曲のみの夕べを2夜企画した。
そのうちの第1夜は9日のトッパンホールでも全く同じ内容で催されるので、私は王子ホールでは第2夜のみを聴いた。
プログラムは「大地の歌」の中から低声用の2曲を両端に置き、その間に「7つの最新歌曲」を挟み込むというもの。
「7つの最新歌曲」とは一般には聞き慣れないタイトルだが、「7つの最後の歌」という従来訳は"letzt"の解釈の違いによるものである。
この作品がマーラーの最後の歌ではないので「最新」という意味でとらえるべきだというのが訳者広瀬大介氏の考えであり、それは妥当な見解だと思う。
ちなみにこの「7つの最新歌曲」、「角笛」歌曲集から「死せる鼓手」「少年鼓手」の2曲にリュッケルトの5つの歌曲をまとめたものである。
久しぶりに聴いたクリスティアン・ゲルハーヘルは進境著しい。
声と音楽性の充実はピークに達している印象を受けた。
彼の限界を知らない朗々たる声には王子ホールが小さすぎる印象すら受ける場面もあった。
この声のボリュームは大きなコンサートホールで聴いたとしても全く問題ないであろう。
しかし、リートは声の豊かさだけではなく、抑制された繊細な表現も必要とされる。
従って、ゲルハーヘルの豊かなダイナミックレンジを小ホールの親密な空間で味わえるというのはとても贅沢であると同時に理に適ったことでもあるのだ。
ゲルハーヘルの歌い方はやはり師匠F=ディースカウの影響が大きく感じられる。
声がテノラールな軽やかさをもち、バリトンにもかかわらず明るく高めの響きが聴かれ、テキストが響きに埋没せずにくっきり明瞭に聞こえてくるのも師匠と共通する点だ。
しかし、ゲルハーヘルの歌唱は師匠よりもより作品に忠実たらんとする。
勢いに任せて音が曖昧になることもない。
そこに彼の美質の一つを見ることが出来るように思える。
ゲロルト・フーバーはピアノの蓋をいっぱいに開け、かなり振幅の大きな演奏。
以前は端正で安定した美しい演奏をしていた印象があったのだが、この日は師匠ハルトムート・ヘルを思わせる大胆さが感じられた。
美しさよりも真実味のある音を徹底的に追究し、それを演奏に反映しているように感じた。
時にその振幅の大きさが大仰に感じられる場面もないではなかったが、概して作品が求める表現として受け入れることが出来た。
また、弾きながら低いうなり声をあげるのも以前には気付かなかったことだ。
マーラーのほの暗く深遠な世界をくまなく表出しようとした2人のドラマティックな演奏に感激した。
アンコールはなし(「告別」の後にふさわしい曲はないということなのだろう)。
なお、この日の前半は冒頭の「秋に寂しきもの」の後に拍手を受けつつも袖に戻らず、そのまま「死せる鼓手」「少年鼓手」を歌ってから袖に戻った。
「7つの最新歌曲」とまとめられてはいても「死せる鼓手」「少年鼓手」とリュッケルト歌曲集の間にはそれだけ大きな表現上の切り替えが必要ということなのではないか。
なお、この日はサイン会に並び、サインをいただいたが、2人とも演奏で疲れているはずだろうに、非常に愛想よく、フーバーにいたっては"Tschüss!"とまで声をかけてくれて、人間的にも魅力を感じた2人であった。
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