内田光子/ピアノ・リサイタル(2011年11月4日 サントリーホール)
<サントリーホール スペシャルステージ>
内田光子ピアノ・リサイタル
2011年11月4日(金)19:00 サントリーホール(2階RA4列18番)
内田光子(Mitsuko Uchida)(Piano)
モーツァルト(Mozart)/幻想曲 ニ短調 K397
シューマン(Schumann)/ダヴィッド同盟舞曲集 op.6
~休憩~
シューベルト(Schubert)/ピアノ・ソナタ イ長調 D959
~アンコール~
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第10番ハ長調~第2楽章
なかなか都合がつかず(日程と懐具合の両方の理由で)これまで聴けなかった内田光子をはじめて聴くことが出来た。
ほぼ満席のサントリーホール大ホールに登場した彼女は、あらゆる方向の客席にうれしそうな笑顔を送る貴婦人だった。
上半身は空色、その上にシースルーの衣裳をはおり、下はワインレッドのパンツという素敵な衣裳。
一流のデザイナーが手がけたのであろう。
彼女はお辞儀する際に90度以上に深く腰から曲げる。
ほぼ足に体がぴったりついているのではと思えるほど。
相当体が柔らかいに違いない。
事前にアナウンスされていたプログラムの前に、モーツァルトの「幻想曲 ニ短調」が追加されたが、これがまた絶妙な演奏だった!
1つ1つの音がえもいわれぬ美しさで胸に突き刺さる。
こういう古典の枠内での細やかな表情はそうそう味わえるものではない。
この作品でまずはぐっとわしづかみにされた。
これで携帯の電子音さえ鳴らなかったならどれほど良かっただろう(本当にいつまでもこの問題はなくならないものだなぁと思わされる)。
そして長大なシューマン「ダヴィッド同盟舞曲集」。
小品18曲が連なり、快活なフロレスターンと内省的なオイゼービウスの要素が曲ごと、あるいは1曲の中で交互にあらわれる。
シューマンらしいたゆたうようなメランコリックな曲調あり、威勢のいい曲あり、リズムに特徴のある曲ありと、次々とあらわれる音楽に身を任せているととても楽しい素敵な作品である。
彼の歌曲集でもよくあることだが、このピアノ曲集でも、最初の方に出たテーマが最後近くで再び現れたりする。
確かに非常に美しいテーマなので、複数回出てきても充分楽しめるのだが、シューマンなりの意図があるのかもしれない。
惜しむらくは私の席がステージ右側のやや奥よりだった為、内田さんの顔は正面から拝見できるのだが、ピアノの蓋で音が覆われている側なので、激しい曲の時にもこもこ音がこもってしまってその迫力が伝わってこないのである。
しかし不思議なことに、静かな曲の場合は、非常に美しく音が響いてくるのである。
フォルテの音数の多い箇所よりも、むしろ静かな箇所の方が明瞭に響いてくるので、まぁ安い席の宿命と思って、静かな曲を中心に味わうことにした。
後半はシューベルトの「ピアノ・ソナタ イ長調」D959。
内田さんはシューベルトがとても好きだとインタビューで読んだことがあるので、とても期待していた。
そして、その期待は見事に満たされたのである。
シューマンではもこもこ響いていた強音だが、シューベルト第1楽章の冒頭のがつんとくるフォルテはずしんとした手ごたえがあった。
和音の組み立て方の違いだろうか、シューベルトではその後もシューマンで感じたような響きの不満はあまり感じなかった。
内田さんは確かインタビューで、私が演奏するとオーストリア訛りになるというようなことを言っていた記憶がある。
今回、シューベルトのソナタを聴いていて感じたのが、細かいスケールの箇所などで結構テンポを速めに設定して、どんどん加速していくことである。
内田さんのしゃべりを以前ラジオで聞いた時に相当早口だったことが印象に残っているが、そういった語りの癖も演奏に反映しているのではないだろうかと、シューベルトのテンポの変化を聴きながら感じていた。
ただ、彼女の場合、ただ加速するだけではなく、最後にどっしりとしめて、うまく辻褄を合わせているところがいいなぁと感じた。
第2楽章は例の響きの問題で本来だったらもっと胸に突き刺さってくるだろうという箇所もあったが、孤独な歌の箇所は実に良かった。
最終楽章はシューベルトらしさ全開の穏やかで魅力たっぷりの音楽が続いていくが、そうした音楽を内田さんは本当に慈しむように大事に演奏していたのが素晴らしかった。
内田さんは演奏する時にフレーズの最初など鼻息をたてたりするのだが、最近このように演奏者が呼吸の音を立てることが多い気がする。
音楽と共に呼吸するということなのだろうか。
アンコールのモーツァルトのピアノ・ソナタ第10番から第2楽章の演奏はもう精巧なクリスタルのような響きの美しさにただただ聞き惚れた。
こういう演奏を聴くと、本当に終わって欲しくないという気持ちにさせられる。
満員の会場からはブラボーの嵐で、世界のウチダはやはりスターだったという印象を受けたコンサートだった。
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