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メゾソプラノ本多厚美リサイタル~ダルトン・ボールドウィンとともに~(2011年11月22日 サントリーホール ブルーローズ)

メゾソプラノ本多厚美リサイタル~ダルトン・ボールドウィンとともに~
LOVE SONGS~Viva L'Italia

2011年11月22日(火)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)(全自由席)
本多厚美(Atsumi Honda)(Mezzo Soprano)
ダルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(Piano)

カッチーニ/アマリッリ
ドナウディ/どうか吹いておくれ
ヴィヴァルディ/わたしは蔑ろにされた花嫁(歌劇「バヤゼット」より)

ロッシーニ/競艇前のアンゾレータ
ヘンデル/私を泣かせてください(歌劇「リナルド」より)
ヴェルディ/ストルネッロ(民謡)

レスピーギ/夜
レスピーギ/深い海の底で
レスピーギ/恋の悩み

ドニゼッティ/ああ私のフェルナンド(歌劇「ラ・ファボリータ」より)

~休憩~

プッチーニ/栄えあれ 天の女王よ
プッチーニ/そして小鳥は(子守唄)
チマーラ/愛の神よ ようこそ(「カレンディマッジョの3つのバラータ」より)
チマーラ/ストルネッロ

トスティ/最後の歌
トスティ/セレタータ
アーン/ヴェネツィアの小舟
クルティス/帰れソレントへ
クルティス/勿忘草
デンツァ/フニクリ・フニクラ(日本語訳詞による)

~アンコール~
カルディッロ/カタリ・カタリ

数年前にドルトン・ボールドウィンの実演を聴き、これで彼の生演奏を聴くのは最後にしようと思っていたのだが、その後も毎年秋に来日を重ね、気にはなっていた。
今年の12月で80歳を迎える偉大な歌曲ピアニストにもう一度だけ接したくなり、サントリーホール 小ホールに出かけてきた。
ロビーがやけに賑わっているなと思ったら、お隣の大ホールはベルリン・フィル公演だった。

メゾソプラノの本多厚美のリサイタルを生で聴くのは今回が初めて。
大ホールとの同時公演でこれほどのお客さんを呼べるのは、彼女がそれだけ信奉者を得ている証だろう。
前半は黒、後半は赤と衣裳を替えて登場した本多さんはメゾとしてはかなり透明度の高い声である。
細かいヴィブラートが特徴的である。
その声はソプラノとしても全く違和感のない澄んだ響きだが、時折その声にメゾらしいコクのある深みが感じられる。
リサイタルの最初のうちは声があたたまっていない感もあったが、それはどの声楽家でも同じこと。
徐々に調子をあげて、芯のある響きが聴かれるようになってきた。

今回のリサイタル、私の疎い分野であるイタリア歌曲が中心。
半分以上は未知の作品だったが、その選曲はどれも非常に魅力的で、プログラミングを担当したボールドウィンのセンスが光る。
中でもレスピーギは歌曲作曲家としても素晴らしく、ピアノパートも含めて、非常に魅力的な作品であった。
本邦初演とうたわれた「恋の悩み」は原題が"Soupir"なので「ため息」が直訳であり、デュパルクの有名な歌曲と同じシュリ・プリュドムのテキストによる。
聴いていると、デュパルクの「悲しい歌」と近い雰囲気が感じられた。

プッチーニの歌曲など珍しい作品も含まれ、レイナルド・アーンの「ヴェネツィアの小舟」という曲も本邦初演らしい。
「帰れソレントへ」と「勿忘草」はメドレーで続けて演奏されたが、最後の3曲は馴染みのメロディーが楽しく、日本語によった「フニクリ・フニクラ」は聴衆も巻き込んで(お弟子さんたちが多いのだろうか、美しいソプラノコーラスが客席から聴かれる)盛り上がった。
アンコールで歌われた「カタリ・カタリ」は、女声では珍しいのではないか。
随分昔のフランシスコ・アライサとアーウィン・ゲイジの実演での感銘が忘れがたく記憶に残っており、久しぶりにこの作品を懐かしく聴いた。

さて、お目当てのボールドウィンの演奏であるが、年齢による衰えは目立ったと言わざるをえない。
しばしば演奏している場所が曖昧になったり、違うバス音が大きめに響くのを聴くのは、全盛期の彼の完璧な録音を知る者にとっては辛いものがある。
だが、それを脇に置いてその音楽性のみに耳を向けると、なんともいえない彼独自の魅力あふれる豊かな響きが依然維持されていることに驚かされる。
太くくっきりとしたマルカートの音が歌と見事なデュエットを奏でているのは、他のピアニストからはなかなか味わえないボールドウィンならではの素晴らしさであった。
演奏の完璧さを求めるか、それとも音楽性の魅力を求めるかで、彼の現在の演奏に対する評価は二分されるであろう。
演奏家の引き際というのは難しい問題かもしれないが、円熟味を増すと同時に多くの場合技術の衰えは避けられない。
昔100歳近くでみずみずしい音楽を奏でたホルショフシキーのようなタイプのピアニストがいかに例外的な存在だったのかをあらためて感じさせられた一夜であった。

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