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北村朋幹/ピアノ・リサイタル(2011年10月29日 かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール)

北村朋幹 ピアノ・リサイタル
2011年10月29日(土)14:00 かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール(B列9番)

北村朋幹(Tomoki Kitamura)(Piano)

M.トロヤーン(Manfred Trojahn)/夜想曲「春の夕暮れはもう此処に!」(Nocturne – déja là, printanier crépuscule)(12の前奏曲より第1曲)

ハイドン(Haydn)/ソナタ第42番ニ長調Hob.XVI.42
 Andante con espressione
 Vivace assai

ベートーヴェン(Beethoven)/ソナタ第16番ト長調Op.31-1
 Allegro vivace
 Adagio grazioso
 Rondo: Allegretto

~休憩~

ドビュッシー(Debussy)/12の前奏曲第2巻(Préludes deuxième livre)より
 ヒースの荒野(Bruyères)(第5曲)
 枯葉(Feuilles mortes)(第2曲)

ブラームス(Brahms)/6つの小品(Sechs Klavierstücke)Op.118
 Intermezzo a moll
 Intermezzo A dur
 Ballade g moll
 Intermezzo f moll
 Romance F dur
 Intermezzo Es dur

リスト(Liszt)/孤独の中の神の祝福(Bénédiction de Dieu dans la solitude)(「詩的で宗教的な調べ(Harmonies poétiques et religieuses)」第3曲)

~アンコール~
ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女

(上記の欧文表記は配布プログラムには書かれておらず、個人的に追記しました)

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京成線青砥(あおと)駅から徒歩5分のところにあるかつしかシンフォニーヒルズへ初めて出かけてきた。
日暮里駅から特急で1駅目の青砥駅まで約10分。
青砥駅前にはなぜかヨハン・シュトラウスの像が立っていて、シンフォニーヒルズへ通じる道はシンフォニー通りと名付けられた気持ちのいい道だった。

北村朋幹は毎回異なるプログラムで聴き手に新しい体験をさせてくれる。
今回は「春と秋、2つの季節」をモチーフにしており、前半が春、後半が秋のイメージとのこと。
プログラムノートも彼自身が書いており、文筆の才能も披露している。

北村は去年から東京芸術大学に通っているが、プロフィールを見ると、2011年からベルリン芸術大学に在学とある。
海外の空気を吸ってさらに見聞を広めるのはよいことだろう。

楽譜をもって登場した北村は相変わらず華奢な印象。
さっと鍵盤をハンカチでぬぐうと演奏を始める。

最初はマンフレート・トロヤーンという作曲家の作品。
ネットで調べてみると1949年生まれの現役の作曲家とのこと。
音数が少なく、静かな響きがホールを満たす感じは、以前北村のコンサートの冒頭で聴いたアルヴォ・ペルトの作品を思い出させる。
こういう作品で音に耳を澄ませながら作品の世界に没入する北村はなかなかいい演奏をする。
馴染みがないことを意識させない選曲の良さもあるだろう。

トロヤーンの作品から間をあけずにすぐにハイドンのソナタに移る。
ちなみに楽譜を見ながら演奏したのはトロヤーンとハイドンのみで、その他は暗譜だった。
ハイドンの才気と軽快さは北村の若さが生きた新鮮な演奏だった。

前半最後のベートーヴェン「ソナタ第16番ト長調」は、レーゼルの演奏で印象に残っているユーモアを感じさせる作品。
北村はベートーヴェンということを意識したのか、かなり振幅の大きい演奏。
ダイナミクスが大きく、感情の幅も大きい。
そのことが良くも悪くも若さを感じさせた。
だが、今だからこそ出来る演奏という意味では、生硬さは残るもののベテランにはないみずみずしい生命力がそこには確かにあったといえるだろう。

休憩を挟み、後半最初はドビュッシーの「前奏曲集」から2曲。
これらは彼によく合っているレパートリーなのではないか。
とてもみずみずしく美しい演奏だった。

続くブラームスの小品集Op.118は以前ラ・フォル・ジュルネでも聴いた作品。
だが、国際フォーラムの会議室とは響きが違うせいもあるのか、今回の演奏の方が格段に素晴らしかった。
彼の作品への没入ぶりはそのままに、余分なものを削ぎ落としたような洗練さが感じられたのである。
各小品の異なる性格も見事に描き分けていたし、何よりも若い北村が晩年の作曲家の心境をここまで理解し、共感しているのが素晴らしい。
第6曲の後に間を置かずすぐにリストの大曲へとつなげていたのも、彼なりの考えあってのことだろう。

リストといえば絢爛豪華なテクニックばかりに注目が集まりがちだが、晩年の宗教色の強い作品にも味わい深い作品が多くあるようだ。
今回の「孤独の中の神の祝福」も比較的長い曲だが、非常に美しく、身を委ねてじっくりと聴けた作品だった。
いくらでもテクニックを誇示する作品があるのにあえてこういう選曲をする北村のプログラミングも興味深い。
一音一音の響きを大切にしているのが感じられるいい演奏だったと思う。

そして、アンコールではお馴染みの「亜麻色の髪の乙女」を素敵に演奏して終わった。

土曜日の午後ということでお子さん連れの方も見られたが、2000円ほどの価格でこれだけいい音楽と演奏を聴けるのだから、もっと多くの方に聴いてもらいたいコンサートであった。

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