イモジェン・クーパー/ピアノリサイタル(2011年10月24日 トッパンホール)
イモージェン・クーパー ピアノリサイタル
2011年10月24日(月)19:00 トッパンホール(TOPPAN HALL)(D列6番)
イモージェン・クーパー(Imogen Cooper)(Piano)
シューベルト(Schubert)/3つの小品D946(3 Klavierstücke)
変ホ短調
変ホ長調
ハ長調
ベートーヴェン(Beethoven)/ピアノ・ソナタ第17番ニ短調Op.31-2《テンペスト》(Sonate für Klavier Nr.17 d-Moll Op.31-2 "Tempest")
Largo - Allegro
Adagio
Allegretto
~休憩~
ブラームス(Brahms)/主題と変奏(弦楽六重奏曲第1番Op.18より第2楽章)(Thema mit Variationen d-Moll nach dem 2. Satz des Streichsextetts Op.18)
シューベルト/ピアノ・ソナタ第19番ハ短調D958(Sonate für Klavier Nr.19 c-Moll D958)
Allegro
Adagio
Menuetto. Allegro
Allegro
~アンコール~
シューベルト/アレグレット ハ短調D915
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私が個人的に大のお気に入りである英国のピアニスト、イモジェン・クーパーのリサイタルを聴いてきた。
今回彼女はワインレッドのシックなジャケットとドレスで登場した。
長身の彼女がステージを出入りする様は実に優雅で、英国淑女のイメージそのもの。
以前に比べると若干ふくよかになったかなという印象は受けるが、自然と醸し出される品の良さは変わらない。
今回は最初と最後にシューベルト、その間にベートーヴェンとブラームスが挟まれるというプログラミング。
彼女が得意なシューベルトだけでなく、ベートーヴェンやブラームスをどのように聴かせてくれるかも楽しみだった。
前半の演奏はどうも疲れていたのか、音の漏れやミスが散見される。
前日も磯子でリサイタルを開いたはずなので、2日連続は体力的にも酷なのではないか(さらにこの翌日には大阪公演も予定されている)。
ツアー日程に関して主催者側の配慮を求めたいところだ。
最初の「3つの小品」もシューベルトの明暗を行き来する美しい響きにどっぷりつかる幸福感は味わえたものの、本来の彼女ならもっと凄いはずと思ってしまう。
クーパーの演奏するベートーヴェンというのも珍しいのではないか。
「テンペスト」のドラマを彼女はドイツ人のようにかっちり、どっしりとは弾かない。
ここでもシューベルトで聴かれるような歌が彼女の演奏の基本にあるようだ。
丁寧で端正なタッチで演奏されることによって、他のピアニストとは異なる彼女らしい演奏となったことは確かである。
ただ、まだ自分の体にしみこんではいない迷いが多少感じられ、さらに弾きこむことでもっと魅力的な演奏になりそうな気がする。
休憩後のブラームスで彼女は本調子を取り戻したようだ。
厳格ながらロマンティックなブラームスの音の動きがクーパーの演奏と相性がいいようだ。
弦楽六重奏曲第1番の哀しくも美しい第2楽章をブラームスはいとしいクラーラのためにピアノ独奏用に編曲した。
私は昔ブレンデルのCDでこの曲をはじめて聴いたのだが、その美しいメロディは強く印象に残ったものだった。
ブレンデルの弟子でもあるクーパーはしかし、師匠とは随分違う演奏をする。
もっと素直でもっと端正だ。
ブレンデルよりもクーパーにより魅力を感じるのは、私自身の好みのピアニスト像に近いからだろう。
好みのピアニスト像というものが何なのかと言葉であらわすのは難しいのだが。
そしてシューベルトのソナタ第19番の演奏は圧巻だった!
最初の一撃からクーパーの思い入れの強さが他の曲を明らかに上回っていた。
早めのテンポで堂々とドラマティックに始まったが、そこにはいささかの迷いもなく、彼女が長年弾きこんで体にしみついている熟成された音楽があった。
歌にあふれた第2楽章では美しいカンタービレを聞かせ、せわしない第3楽章では浮つかないしっかりとした演奏を聴かせたが、長大なタランテラの終楽章をスタミナと集中力を持続させながらじっくりと構築していく彼女には脱帽だった。
やはり彼女の本領はシューベルトなのだとはっきり再確認できた素晴らしい演奏だった。
アンコールで弾かれたのはシューベルトの「アレグレット ハ短調」。
短調と長調の間を行き来する移ろいやすい美をクーパーは実にくっきりと魅力的に表現していた。
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