マティアス・ゲルネ&アレクサンダー・シュマルツ/ゲルネ バリトン・リサイタル(2011年10月16日 東京オペラシティ コンサートホール)
マティアス・ゲルネ バリトン・リサイタル
2011年10月16日(日)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階2列11番)
マティアス・ゲルネ(Matthias Goerne)(Baritone)
アレクサンダー・シュマルツ(Alexander Schmalcz)(Piano)
Ⅰ
マーラー(Mahler: 1860-1911)/私はやわらかな香りをかいだ(Ich atmet' einen linden Duft)(「リュッケルトの詩による5つの歌曲」から)
シューマン(Schumann: 1810-1856)/詩人の目覚め(Dichters Genesung, op.36-5)(「6つのリート」op.36から)
シューマン/愛の使い(Liebesbotschaft, op.36-6)(「6つのリート」op.36から)
マーラー/美しいトランペットが鳴りわたるところ(Wo die schönen Trompeten blasen)(「子供の不思議な角笛」から)
シューマン/ぼくの美しい星(Mein schöner Stern, op.101-4)(「愛の相聞歌(ミンネシュピール)」op.101から)
シューマン/隠者(Der Einsiedler, op.83-3)(「3つの歌」op.83から)
マーラー/原光(Urlicht)(「子供の不思議な角笛」から
Ⅱ
シューマン/夜の歌(Nachtlied, op.96-1)(「リートと歌」第4集op.96から)
マーラー/浮き世の暮らし(Das irdische Leben)(「子供の不思議な角笛」から)
マーラー/なぜそのような暗いまなざしで(Nun seh' ich wohl, warum so dunkle Flammen)(「亡き児をしのぶ歌」から)
マーラー/おまえのお母さんが入ってくるとき(Wenn dein Mütterlein tritt zur Tür herein)(「亡き児をしのぶ歌」から)
シューマン/ものうい夕暮れ(Der schwere Abend, op.90-6)(「レーナウの6つの詩」op.90から)
マーラー/私はこの世に忘れられ(Ich bin der Welt abhanden gekommen)(「リュッケルトの詩による5つの歌曲」から)
シューマン/終わりに(Zum Schluß, op.25-26)(「ミルテの花」op.25から)
Ⅲ
シューマン/兵士(Der Soldat, op.40-3)(「5つのリート」op.40から)
マーラー/死んだ鼓手(Revelge)(「子供の不思議な角笛」から)
シューマン/2人のてき弾兵(Die beiden Grenadiere, op.49-1)(「ロマンスとバラード」第2集op.49から)
マーラー/少年鼓手(Der Tamboursg'sell)(「子供の不思議な角笛」から)
~アンコール~
シューマン/献呈(Widmung, op.25-1)(「ミルテの花」op.25から)
※休憩なし
-------
バリトンのマティアス・ゲルネを生で聴くのはこれで何度目だろうか。
彼の歌唱には期待を裏切られることがない。
今回もまたじわじわと染み込んでくるようなリートを聴く醍醐味をたっぷり味わうことが出来た。
当初予定されていたピアニストのマルクス・ヒンターホイザーは、肩の故障のため出演が不可能となり、アレクサンダー・シュマルツに変更された。
ヒンターホイザーは私が歌曲を聴き始めた頃からファスベンダーらの共演者としてよくFM放送などで名前を聞いていたのだが、これまで一度もその姿を見ることはなかった為、今回の来日を期待していたのだが残念だった。
しかし、お馴染みのシュマルツがどのように進化しているかも楽しみである。
休憩なしの三部構成はほぼ1時間半のボリュームながら、先に進むにつれて徐々に悲劇性を増してゆく見事なプログラムビルディングの力でぐいぐい惹きこまれ、あっという間であった。
今年が没後100年にあたるマーラーと、昨年が生誕200年だったシューマンの歌曲を組み合わせたプログラム。
それぞれを分けて歌うのならばごく普通のプログラムビルディングだが、今回は両者の作品をミックスするというもの。
ゲルネの言葉によれば、各ブロックは「愛、人間性」、「死、人との繋がりを失う悲しみ」、「兵士、軍隊」をテーマにしたとのこと(プログラム冊子より)。
こうやってミックスされた時代の異なる作曲家の作品を聴いて感じるのは、並べて聴いても意外と違和感がないということだった。
テーマに共通する雰囲気が時代を超えて1つの共通する土台を築いたのだろう。
今回のプログラム、東京が初披露とのことで、今後各国で演奏していくそうだ。
ゲルネは声の充実とディクションの滑らかさ、そしてヴォリュームの豊かさと自在なコントロールとでまさに脂の乗り切った名唱の数々を繰り広げた。
柔らかくコクのある声の質感は相変わらず素晴らしく、その響きは聴き手を穏やかに包み込むようだった。
いつもの熊さんダンス(無骨でひっきりなしの動き)も健在だったが、歌唱があまりにも見事だった為、その動きは殆ど妨げにはならなかった。
「私はやわらかな香りをかいだ」での絶妙な弱声、「美しいトランペットが鳴りわたるところ」での静かな緊張感、「亡き児をしのぶ歌」からの2曲の悲哀など、それぞれの世界にぐっと惹き込まれる引力をもった名唱だった。
ただ「浮き世の暮らし」の歌唱は声の質のせいか、どうしても飢えた子供の声には聞こえず、彼の歌唱をもってしてもオールマイティではないのだと逆にほっとしたところである。
「おまえのお母さんが入ってくるとき」はピアノのみの箇所をゆっくり演奏し、歌が入ると突然テンポが早くなるのは意図的なのだろうか。
この極端なテンポ設定はおそらくマーラーの指示ではないのではと思われるが(未確認ですみません)、哀しい表情が強く表現されていてなかなか感動的だった。
ヒンターホイザーの代役をつとめたシュマルツは、ピアノの蓋を全開にしながらも、いつもの美音と見事なコントロールを聞かせた。
いつになく歌唱と拮抗するような鋭利さが感じられたのは良かった。
特にシューマン「詩人の目覚め」後奏の歯切れの良さや最後の兵士のブロックの雄弁さが印象に残った。
「少年鼓手」の前奏と後奏で、譜めくりの女性にピアノの中の弦をおさえさせて、乾いた音を出していたのは面白いアイディアであり、確かに効果的だった。
プログラム冊子は今回300円で販売されたが、有料なのだから、シューマン「隠者」の歌詞における第2~3節の脱落は事前にチェックして修正の紙を挿入するなりしてほしいところではあった。
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