Hermann Prey Liederabend 1963
EDITION SCHWETZINGER SWR FESTSPIELE
ヘルマン・プライ 1963年リーダーアーベント
シュヴェッツィンゲン音楽祭エディション
hänssler CLASSIC: CD 93.713
録音:1963年5月15日, Schwetzinger Schloss (live)
Hermann Prey(ヘルマン・プライ)(バリトン)
Günther Weißenborn(ギュンター・ヴァイセンボルン)(ピアノ)
Peter Cornelius(コルネリウス: 1824-1874)/Neun geistliche Lieder(9つの宗教歌曲) Op.2(抜粋)
Vater unser, der du bist im Himmel(天におられる私たちの父よ) Op.2-1
Zu uns komme dein Reich(あなたの国が私たちへとやって来る) Op.2-3
Führe uns nicht in Versuchung(私たちを誘惑に導かないでください) Op.2-8
Erlöse uns von dem Übel(私たちを災いから救ってください) Op.2-9
Hans Pfitzner(プフィッツナー: 1869-1949)
Im Herbst(秋に) Op.9-3
In Danzig(ダンツィヒにて) Op.22-1
Der Kuhne(勇敢な男) Op.9-4
Der Gärtner(庭師) Op.9-1
Wolfgang Fortner(フォルトナー: 1907-1987)/Vier Gesänge nach Worten von Hölderlin(ヘルダーリンの詞による4つの歌)
An die Parzen(運命の女神に)
Hyperions Schicksalslied(ヒュペーリオンの運命の歌)
Abbitte(謝罪)
Geh unter, schöne Sonne(沈め、美しい太陽よ)
Johannes Brahms(ブラームス: 1833-1897)
Dein blaues Auge(あなたの青い瞳) Op.59-8
Wie Melodien zieht es mir(メロディーのように) Op.105-1
Die Mainacht(五月の夜) Op.43-2
Richard Strauss(R.シュトラウス: 1864-1949)
Morgen(明日) Op.27-4
Befreit(解き放たれて) Op.39-4
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シュヴェッツィンゲン音楽祭のライヴ・シリーズとして、ヘルマン・プライ(1929-1998)の初出音源がhänssler CLASSICから発売された。
共演者がプライ長年の良きパートナーだったギュンター・ヴァイセンボルン(1911-2001)なのも嬉しい。
1963年といえば、プライが初来日した2年後。
初来日時のプログラムに含まれていたフォルトナー作曲の「ヘルダーリンの詩による4つの歌」が聴けるのは貴重である。
当時の実演もこんな風だったかもしれないと想像を巡らせる楽しみ方も出来るだろう。
また、プライは自伝の中でプフィッツナーの歌曲をヴァイセンボルンのおかげで知ったと述べており、それが今回のプログラミングにも反映されているのかもしれない。
プライの来日公演を私は幸いにも1980年代前半から聴くことが出来たが(今となっては懐かしい思い出である)、日本ではもっぱら「冬の旅」や「水車屋の娘」ばかり歌っていて、レパートリー的に若干新鮮味に欠ける印象をもっていた(もちろんプライの意向だけではないだろうが)。
しかし、この1963年のシュヴェッツィンゲン・ライヴのプログラム・ビルディングのなんと魅力的なことか!
コルネリウスもプフィッツナーもフォルトナーも、現代のリーダーアーベントですら決して頻繁に演奏される作曲家ではない。
ドイツ本国とはいえこれらを50年前に立て続けに演奏するということが、興行的にいかに勇気のいることだったかと思わずにはいられない。
しかし、このライヴ録音を聴くと、そういう危惧も無意味なことに思われてくる。
馴染みの薄いレパートリーでさえプライに歌われるとこれほどまでに親しみを増すのである。
当時33歳のプライはあふれるほどの豊潤な美声をもっていた。
惜しげもなく朗々と甘美な声を響かせるここでのプライは、歌を聴くという素朴な喜びを味わわせてくれる。
しかし、20世紀初頭の名歌手たちのような、声をアピールする為の歪曲の類は一切なく、作品への誠実なアプローチがその前提にあるのが素晴らしい。
コルネリウスの4つの歌曲は敬虔な響きながら、プライの歌はどこまでも人の温もりを感じさせる。
一方、プフィッツナーのアイヒェンドルフの詩による名作4曲は、心の深いところをぞくぞくと震わせるような冷たい肌触りの表現が秀逸だった。
フォルトナーの歌曲はヘルダーリンによる愛の表現(愛する対象はディオティーマ(Diotima)と名付けられている)を多彩な音楽で描いていて、なかなか面白い作品がそろっている。
第2曲などはモーツァルトの「トルコ行進曲」付きソナタの1楽章を思い出させるリズムが前半を貫き(アルバン・ベルクにもこのモーツァルトのリズムによる歌曲があったような)、後半は力強く厳格な雰囲気に転じる。
第4曲は非常に美しい作品で、耳に馴染みやすい。
こうした知られざる作品がプライの親しみやすい歌唱でぐっと身近に感じられるのは素晴らしいことだ。
そしてブラームスの旋律美をプライの歌唱で味わえる喜び!
若さゆえの情熱的な盛り上がりもブラームスのラブソングではなかなか聴けないプライならではの魅力である。
「五月の夜」で若干音程があがり切らない箇所があったほかは、絶好調のコンディションと感じられた。
そしてR.シュトラウス「解き放たれて」の最後の長大なフレーズのなんと豊かで素晴らしいことか。
ライヴなので、拍手が完全にカットされているのは惜しい気がする。
拍手が含まれていたならばこの場にいた聴衆の反応も多少は伝わってきただろうに。
ピアニストのギュンター・ヴァイセンボルンは、指揮もこなし、教育者としても優れた後進を生んだ(小林道夫氏もたしかその一人)というから、多才な人だったのだろう。
F=ディースカウやペーター・アンダース、ローテンベルガーなどとの共演でも知られるが、プライ&エルナ・ベルガーと録音したヴォルフの「イタリア歌曲集」はヴァイセンボルンの素晴らしさを味わうことが出来る(YouTubeで聴けます)。
今回のプライとのライヴでも、コルネリウスの単純な和音の連続でさえ繊細な歌心を感じさせるのは豊かな音楽性の証だろう。
プフィッツナーでの聴き手を惹きこむ雰囲気づくりの妙技、ブラームス「五月の夜」での絶妙なテンポの揺らし方、フォルトナーでの多彩な音色など、ヴァイセンボルンのリート解釈の深さとそれを表現する技の見事さをたっぷり堪能した。
このような優れたリートのライヴ録音がさらに発掘されることを願ってやまない。
余談だが、来週はNHK-FMで今年のシュヴェッツィンゲン音楽祭のライヴ録音が放送される予定(19:30~)で、特にソプラノのクリスティーネ・シェーファー・リサイタル(7日)やイモジェン・クーパー等による「ます」五重奏(8日)は楽しみである(音楽祭のサイトで聴ける音源もあるが)。
最近インターネットでも無料でNHKのラジオを聞くことが出来るようになったので、アンテナの具合で雑音が入る心配もなく楽しめるのは有難い。
こちら(らじる★らじる)
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