フランチェスコ・トリスターノ/バッハ×ケージ(2011年6月30日 津田ホール)
BACH × CAGE (bachCage)
2011年6月30日(木)19:00 津田ホール(D列4番)
フランチェスコ・トリスターノ(Francesco Tristano)(ピアノ)
フランチェスコ・トリスターノ/イントロイト(インプロヴィゼイション)
Francesco Tristano (1981-) / Introit (Improvisation)
J.S.バッハ/パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825
J.S.Bach / Partita n. 1 in Bb major, BWV825
ジョン・ケージ/ある風景の中で
John Cage (1912-1992) / In a landscape (1948)
J.S.バッハ/
デュエット 第1番 ホ短調 BWV802
J.S.Bach / Duet n.1 in E minor BWV802
デュエット 第2番 へ長調 BWV803
Duet n. 2 in F major BWV803
デュエット 第3番 ト長調 BWV804
Duet n.3 in G major BWV804
デュエット 第4番 イ短調 BWV805
Duet n. 4 in a minor BWV805
~休憩~
ジョン・ケージ/四季
John Cage / The Seasons (1947)
J.S.バッハ/パルティータ 第6番 ホ短調 BWV830
J.S.Bach / Partita n. 6 in E minor, BWV830
フランチェスコ・トリスターノ/グラウンドベース
Francesco Tristano / Ground Bass (2004)
~アンコール~
フランチェスコ・トリスターノ/メロディ
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ルクセンブルク出身の若いピアニスト、フランチェスコ・トリスターノをはじめて聴いた。
彼はクラシックピアニストとしてだけでなく、テクノ音楽のグループAufgangの一員としての顔も持ち、作曲も手掛けるという多才な人だ。
今回のプログラミングは、フランチェスコ・トリスターノの自作を最初と最後に置き、その間にバッハとジョン・ケイジを交互に並べたもの。
ジョン・ケイジの作品といっても現代ものに疎い私は「4分33秒」ぐらいしか知らなかったので、そういう意味でも楽しみだった。
津田ホールは久しぶりだが、このこじんまりとした空間はいつ来てもほっとする。
今回は舞台上に照明機材が複数置かれ、ライティングも駆使することを予感させる。
登場したトリスターノは長身のモデルのような容姿で、いつになく若い女性の多い客層が納得できるほどだった。
演奏は前半は作品ごとの拍手はなく、最後まで通して弾かれたが、こうして弾かれることによって、「自作‐バッハ‐ケイジ‐バッハ」が一貫した流れの中に置かれ、時代の違いを超越していた。
冒頭に弾かれたトリスターノ自作の「イントロイト」は「インプロヴィゼイション」という副題の通り即興的な作品のようだが、彼は時折立ち上がりピアノの内部の弦をかすめたりなでたりはじいたりして、現代音楽的な響きを加えるかと思うと、内側から板を打楽器のように叩いたりもする。
叩く場所によって微妙に音が違うように感じられたのは、もともとの作りなのか、それともトリスターノの叩き方に関係があるのか。
いずれにせよ、普通のピアノリサイタルではまず触れない場所から様々な音をたてて、可能性を広げていたのはなかなか興味深かったし、結構効果的でもあったように感じられた。
自作の後、間をあけずにバッハの「パルティータ 第1番」に移ったが、この違和感のなさは逆に驚きだった。
トリスターノよりも音の粒が揃い、タッチが明瞭で、美しいバッハを弾くピアニストはいるだろうが、こういう流れで違和感なくバッハにつなげられる人はなかなかいないのではないか。
そういう意味でアイディアが一人歩きせず、しっかり効果をあげているのは、このピアニストのセルフプロデュースの上手さを示しているといっていいのではないか。
続くケイジの「ある風景の中で」という作品がまた非常に美しく、海の中のような薄暗い照明も相まって、分散和音の静かな繰り返しの中で徐々に沈潜していく気分になっていった。
そして前半最後はバッハのデュエットを4曲。
短い作品だが、前半の流れを締めくくるのに相応しい作品群と感じられた。
後半はケイジの「四季」といういわば組曲でスタートするが、「ある風景の中で」とは全く異なる前衛色の強い小品の連続は、これまでのプログラムの流れに新しいアクセントを効かせたのではないか。
その後、再びバッハに回帰し、一旦袖にはけた後、最後の自作「グラウンドベース」で締めくくられた。
聴衆への挨拶の後にアンコールとして演奏された「メロディ」はノリの良い作品だった。
舞台でのライティングは基本的にほの暗い中、時折ライトがピアニストに当てられたり、ケイジの「ある風景の中で」では青い照明、さらに後半では赤い照明で音楽に応じて静かに変わっていく。
おそらくこの照明のプランについてもトリスターノのアイディアなのではないか。
ほとんどクラシックしか知らない私には、このコンサートの真意を正しく把握することが出来たとはとても言えない。
しかし、バッハと現代のある種の近さを実演を通じて感じさせてくれたトリスターノの世界にどっぷりひたることが出来たのは心地よい時間であった。
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コメント
面白いアーティストが出てきましたね。以前、FMで彼のリサイタルを楽しく聴きました。
彼の録音がドイツ・グラモフォンから出る事に驚いています。
投稿: 田中文人 | 2011年7月 4日 (月曜日) 21時31分
田中さん、こんばんは、
FMで以前にお聴きになったのですね。
相当個性的な活動をしている人のようですが、そうかと思うと、「展覧会の絵」やドビュッシーなど普通のクラシックレパートリーも演奏しているようで、今後どのような活動をしていくのか目がはなせないところです。
DGの録音、私も最近入手して聴いてみました。バッハにさえ(一部ですが)音を加工したりしていますが、これはこれで確かに面白い試みでした。
投稿: フランツ | 2011年7月 5日 (火曜日) 03時53分