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R.シュトラウス/「サロメ」(2011年2月26日 東京文化会館 大ホール)

リヒャルト・シュトラウス/「サロメ」
オペラ全1幕
字幕付き原語(ドイツ語)上演

オランダ/ネザーランド・オペラ及び
スウェーデン/エーテボリ・オペラとの共同制作
東京二期会オペラ劇場

2011年2月26日(土)14:00 東京文化会館 大ホール(3階R2列30番)

原作:オスカー・ワイルド
ドイツ語台本:ヘドヴィッヒ・ラッハマン
作曲:リヒャルト・シュトラウス

演出:ペーター・コンヴィチュニー

大隅智佳子(サロメ)
片寄純也(ヘロデ)
山下牧子(ヘロディアス)
友清 崇(ヨカナーン)
大川信之(ナラボート)
田村由貴絵(ヘロディアスの小姓)
髙田正人(ユダヤ人1)
菅野 敦(ユダヤ人2)
新津耕平(ユダヤ人3)
加茂下 稔(ユダヤ人4)
畠山 茂(ユダヤ人5)
北川辰彦(ナザレ人1)
櫻井 淳(ナザレ人2)
井上雅人(兵士1)
倉本晋児(兵士2)
千葉裕一(カッパドキア人)

東京都交響楽団
指揮:シュテファン・ゾルテス

舞台美術・衣裳:ヨハネス・ライアカー
照明:マンフレット・フォス
演出助手:ロッテ・デ・ビール、澤田康子、太田麻衣子
       
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:多田羅迪夫

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これはすごかった。
「サロメ」のあらすじとコンヴィチュニーの演出についてはあらかじめ予習して出かけたのだが、予想以上の酒池肉林の世界が文化会館のステージの上(密室内のいかがわしいパーティーといった趣)で繰り広げられ、日本人歌手がよくぞここまでとそのプロ意識に拍手を贈りたいと思った。
オペラ歌手はリート歌手とは異なり、役者も兼ねているのだということを改めて気付かせてくれた。

シュトラウス作曲の「サロメ」は1幕からなり、この日は1時間40分ほどだった。
もともとシュトラウスの音楽に若干苦手意識のある私だが、「サロメ」については官能美とドラマ性で抵抗なく聴くことが出来た。

舞台は、外に出られない密室内に登場人物が勢揃いし、最後の晩餐のような長テーブルに一列に座ったり、両脇のソファではサロメが寝転んだり、ナザレ人が薬を打ったりしている。
ヘロデ王は最初のうちテーブルの右脇でヘッドホンをつけて音楽を聴いており、リズムをとって体を動かして周りに一切関心を向けない。
しかし、そのうち「暑い」といって着ていたシャツを破き上半身裸になってふらふら動き回ったり、ドラッグにうつつを抜かしたりする。
また左奥では5人のユダヤ人たちが喧々諤々と論争している。
井戸に監禁されているはずのヨハナーンは頭からすっぽり袋をかぶって長テーブル中央に腰を下ろしている。
袋をかぶったままヘロデやヘロディアスを非難する言葉を吐き続け、それにユダヤ人たちがあざ笑うかのような喝采をあげる。
テーブルクロスの下で情事に耽ったり、ソファで口淫にいそしんだり、男連中で寄ってたかって女性の体を愛撫したり、最初の方で一度殺されたサロメを登場者全員でむしゃむしゃ食したり(その後すぐに生き返るが)、ヘロデ王に銃殺されたナラボートの尻をむき出しにしてユダヤ人たちが次々と輪姦したりといった「常軌を逸したアヴァンギャルドな表現」(二期会のチラシの表現)がてんこ盛りであった。
乱痴気騒ぎとは距離をとり続けていたヨハナーンですら最後の方ではヘロディアスに食われてしまう(ヘロディアスの山下さんの吹っ切れたような熱演!)。

ヘロデ王に所望されて褒美と引き換えに引き受けるサロメの「7つのヴェールの踊り」では、サロメ自身の踊りは最初のわずかな時間だけで、後は上着を登場人物に次々かけて、一人一人踊らせてしまうという魔術師のような役割になっていた。
しかし、ヨハナーンだけはサロメの魔法にかからず踊らないのは象徴的である。

サロメは突然壁にドアを書き、そこから脱出しようと試みる。それを見ていた他の人たちも一斉にドアを書き夢中で外に出ようとするが、誰も出ることは出来ない。閉じられた空間から出られないという諦めが何か社会風刺のように聴衆に訴えかける。

最後にサロメが褒美として望んだヨハナーンの首は一応出てくるものの、今回の演出ではそれはあくまで人形として出てくるだけで、ヨハナーンは首を切られることはなく生きている(シュトラウスの音楽の首を切る音はここでは別の意味を帯びることになるのだろう)。
そして、サロメとヨハナーンは「愛」を知り、閉じられた空間から外に脱出することに成功するのである。

最後の方にテーブルの下から純白の服を着た女の子が飛び出してくる。
これについてもコンヴィチュニーなりの解釈があるのだろうが、サロメの純粋さの象徴ということだろうか。

締めはヘロデ王のセリフ「あの女を殺せ」だが、これを今回は客席から一人の客(サクラだが)が日本語で舞台に向けて発するという方法をとっていた。

歌手ではサロメ役の大隅智佳子のどこまでもよく通る美声と完璧な表現力、そして主役としての演技、ともに魅力的であった。
他の歌手たちも過激な演技をこなしながら、充分満足のいく歌唱だった。

ゾルテス指揮、東京都交響楽団は、丁寧に表情豊かに演奏していて素晴らしかった。

Salome_201102_chirashi_1

内容が内容なだけにチケットを購入するのにためらわれた方も多かったのだろうか。
1階両サイドがほとんど空席だったのには驚いた。
2階席より上はよく入っていたようだが。

今回は音楽以上に演出に意識が向いてしまったが、音楽のみで一度じっくり聴いてみようと思った。

Salome_201102_chirashi_2

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