ゲルネ&シュマルツ/ゲルネ・シューベルト・エディション第5巻「夜と夢」(harmonia mundi)
Nacht und Träume: MATTHIAS GOERNE SCHUBERT EDITION 5
(夜と夢:マティアス・ゲルネ・シューベルト・エディション第5巻)
harmonia mundi: HMC 902063
録音:2008年9月, Teldex Studio Berlin
Matthias Goerne(マティアス・ゲルネ)(baritone)
Alexander Schmalcz(アレクサンダー・シュマルツ)(piano)
1. Nacht und Träume(夜と夢), D827 (Matthäus von Collin) [4:08]
2. Der blinde Knabe(盲目の少年), Op. 101, No. 2, D833 (Jakob Nikolaus Craigher de Jachelutta (nach "Colley Cibber")) [3:19]
3. Hoffnung(希望), Op. 82, No. 2, D637 (Johann Christoph Friedrich von Schiller) [3:37]
4. Totengräber-Weise(墓掘人の歌), D869 (Franz Xaver Freiherr von Schlechta) [4:24]
5. Tiefes Leid(深い苦悩), D876 (Ernst Konrad Friedrich Schulze) [3:22]
6. Greisengesang(老人の歌), Op. 60, No. 1, D778b (Friedrich Rückert) [6:11]
7. Totengräbers Heimweh(墓掘人の郷愁), D842 (Jakob Nikolaus Craigher de Jachelutta) [7:00]
8. An den Mond "Geuss, lieber Mond"(月に寄せて), D193 (Ludwig Christoph Heinrich Hölty) [3:29]
9. Die Mainacht(五月の夜), D194 (Ludwig Christoph Heinrich Hölty) [1:53]
10. An Sylvia(シルヴィアに), Op. 106, No. 4, D891 (William Shakespeare (aus "Two Gentlemen of Verona"); Deutsche Übersetzung: Eduard von Bauernfeld) [3:03]
11. Ständchen "Horch, horch! die Lerch"(セレナード“聞け、聞け!ひばりを”), D889 (Strophe 1 von William Shakespeare (aus "Cymbeline"); Deutsche Übersetzung: August Wilhelm Schlegel. Strophen 2 und 3 von Friedrich Reil) [4:47]
12. Der Schäfer und der Reiter(羊飼いと馬に乗った男), Op. 13, No. 1 D517 (Friedrich Heinrich Karl, Freiherr de la Motte-Fouqué) [3:26]
13. Die Sommernacht(夏の夜), D289 (Friedrich Gottlieb Klopstock) [3:17]
14. Erntelied(収穫の歌), D434 (Ludwig Christoph Heinrich Hölty) [1:57]
15. Herbstlied(秋の歌), D502 (Johann Gaudenz Freiherr von Salis-Seewis) [1:27]
16. Der liebliche Stern(愛らしい星), D861 (Ernst Konrad Friedrich Schulze) [3:01]
17. An die Geliebte(恋人に寄せて), D303 (Josef Ludwig Stoll) [2:10]
----------------------
ドイツのバリトン、マティアス・ゲルネによるharmonia mundiレーベルへのシューベルト歌曲シリーズも第5巻を迎えた。
今回は「夜と夢」というタイトルのもとに17曲が歌われている。
毎回変わるピアニスト、今回は頻繁に来日もしているドイツのアレクサンダー・シュマルツである。
横を向いたゲルネが影になって写っているジャケット写真が暗示しているように、今回は「夜」「死」といった重めのテーマを中心にした選曲がなされている。
例えば「夜と夢」「墓掘人の歌」「墓掘人の郷愁」といった死、眠りを暗示させるようなモノトーンな響きは、シューベルト歌曲の中でも重要な意味を占めているであろう。
それに対応するのが“希望”を歌った「希望」「深い苦悩」といった作品で、前者ではシラーらしい理想主義的発想で“内なる声が語るものを希望の心が裏切ることはない”と歌う一方、シュルツェの詩による後者では“いつわりの希望は決して退こうとはしない”と希望が恐怖や苦労を追い払ってはくれないことを悲観的に語る。
しかし、その一方で「五月の夜」「夏の夜」「秋の歌」のような季節感を盛り込んだり、「シルヴィアに」「セレナード(聞け、聞け!ひばりを)」のようなシューベルトの快活な側面を代表する曲を加えたりもしており、ただ沈潜した雰囲気だけで統一しようとはしていないようだ。
だからこそ、重みをもった作品の存在感が際立ってくるともいえるだろうが。
ゲルネのベルベットのようなまろやかな響きはますます磨きがかかり、「夜と夢」などどこまでも心地よく響くレガートのなんと素晴らしいことか。
彼にしかなしえないであろう「夜と夢」の新しい名演の誕生である!
「盲目の少年」では慰撫するような穏やかな響きで、盲目の少年のけなげなたくましさを表現する。
ゲルネの歌唱は情景をイメージさせる。
例えば彼の師匠であったF=ディースカウはその巧みな語り口によって、語り部のように情景を説明したものだが、ゲルネは声自体の中に情景や心理状況を織り込んで表現する。
決して饒舌な表現に向かうことはなく、あくまで歌声で勝負する彼の歌唱は、師の影響からの完全な決別を実感させられる。
シュマルツの演奏はゲルネの包み込むような声の特質に合った温かい音色を聴かせる。
「夏の夜」の前奏のニュアンスに富んだ演奏などは彼の良さが出ている。
「墓堀人の郷愁」の"Im Leben, da ist's ach! so schwül(人生は、ああ!なんと苦しいものなのか。)"という箇所では隣り合った低音をあえてペダルを踏みっぱなしにして濁らせるといった斬新な解釈もみせる。
また「羊飼いと馬に乗った男」の後半のようにいつになく雄弁な切れ味を聴かせる箇所もあり、彼の共演ピアニストとしての持ち味の広がりもこのディスクを聴く楽しみの一つといえるだろう。
この第5巻まででゲルネは114曲を歌ってきたことになる。
全部で10巻ほどを予定している筈だから、この倍の作品をゲルネの歌唱で楽しめることになる。
今後のリリースが今から待ち遠しい。
なお、これまでの作品リストは以下のとおり(Excel)
こちら(Excelファイル)
| 固定リンク | 0
「音楽」カテゴリの記事
- エリー・アーメリングの歌うモーツァルトのコンサートアリア2曲のライヴ音源(1968年1月23日, アムステルダム)(2023.11.05)
- ブラームス/「こうして僕らは立っている、僕と僕の喜びである彼女は(So stehn wir, ich und meine Weide, Op. 32, No. 8)」を聞く(2023.11.25)
- ブラームス/「きみは言う、僕が思い違いをしていたと(Du sprichst, daß ich mich täuschte, Op. 32, No. 6)」を聞く(2023.11.11)
- ブラームス/「辛辣なことを言ってやろうときみは思っている(Bitteres zu sagen denkst du, Op. 32, No. 7)」を聞く(2023.11.18)
「CD」カテゴリの記事
- エリー・アーメリング/バッハ・エディション&フィリップス・リサイタル(Elly Ameling: Bach Edition; The Philips Recitals)(2023.03.18)
- 【朗報】アーメリングのPhilipsリサイタル盤、Decca・Philipsのバッハ録音盤の2種類のボックス2023年に発売!(2022.12.29)
- ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)のDeutsche Grammophon全歌曲録音発売予定(2022.04.10)
- クリスティアン・ゲルハーエル&ゲロルト・フーバー/シューマン歌曲全集スタート(2018.10.26)
- マティス、ファスベンダーらによる重唱曲集発売(ORFEOレーベル: 1974年8月25日ザルツブルク音楽祭ライヴ)(2018.10.12)
「ピアニスト」カテゴリの記事
- 江崎皓介ピアノリサイタル「ラフマニノフ生誕150周年プログラム」(2023年5月28日 大泉学園ゆめりあホール)(2023.06.03)
- エリー・アーメリング、パーセル&フランク・マルタンを歌う(1965年11月26日, De Kleine Zaal om de Hoek)(2023.03.06)
- エリー・アーメリング/ブラームス歌曲集&シューマン『リーダークライス Op. 39』(公式チャンネル)(2023.02.17)
- エリー・アーメリング&フェーリクス・ドゥ・ノーブル:グリーグ&メンデルスゾーン歌曲(2023.02.08)
- マーク・パドモア&内田光子 デュオリサイタル(2022年11月24日 東京オペラシティ コンサートホール)(2022.11.25)
「シューベルト」カテゴリの記事
- シューベルト/子守歌(Schubert: Wiegenlied, D 498)を聞く(2023.09.02)
- シューベルト/ムーサの息子(ミューズの子)(Der Musensohn, D 764)(2023.07.01)
「マティアス・ゲルネ」カテゴリの記事
- マティアス・ゲルネ&アレクサンダー・シュマルツ/シューベルト三大歌曲連続演奏会【第2夜&第3夜】(2014年5月14日&15日 紀尾井ホール)(2014.05.17)
- マティアス・ゲルネ&アレクサンダー・シュマルツ/ゲルネ バリトン・リサイタル(2011年10月16日 東京オペラシティ コンサートホール)(2011.10.23)
- ゲルネ&シュマルツ/ゲルネ・シューベルト・エディション第5巻「夜と夢」(harmonia mundi)(2011.01.30)
- ゲルネ&エマール/リサイタル(2009年10月11日 東京オペラシティ コンサートホール)(2009.10.12)
- ゲルネのシューベルト・エディション(2009.07.26)
コメント