An Anna II, op. posth. 21 no. 7 (WoO 10, No. 2)
アンナにⅡ
Nicht im Tale der süßen Heimat,
Beim Gemurmel der Silberquelle -
Bleich getragen aus dem Schlachtfeld
Denk' ich dein, du süßes Leben!
甘美な故郷の谷ではなく、
銀色の泉のせせらぎのそばで、
青ざめて戦場から運ばれながら
僕はきみを思っている、かわいいひとよ!
All die Freunde sind gefallen,
Sollt' ich weilen hier der eine?
Nein! schon naht der bleiche Bote,
Der mich leitet zur süßen Heimat.
友はみな死んでしまった、
僕はここで一人でいなければならないのか?
いや!すでに青白い使者が近づいてくる、
彼が僕を甘美な故郷へ連れて行ってくれるのだ。
(省略された第3節)
Flecht ins Haar den Kranz der Hochzeit,
Halt bereit die Brautgewande
Und die vollen, duft'gen Schalen:
Denn wir kehren alle wieder
In das Tal der süßen Heimat.
髪に結婚式の花冠を編み込み、
準備しておくのだよ、花嫁衣裳と
たっぷりとした薄いショールを。
僕らはみんなで再び
甘美な故郷の谷に帰るのだから。
詩:Justinus (Andreas Christian) Kerner (1786-1862): "Episteln" no. 5
曲:Robert Alexander Schumann (1810-1856)
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Hyperionレーベルでピアニストのグレアム・ジョンソン(Graham Johnson)が企画したシューマン歌曲全集は11巻で完結したが、今年に入り、シューマン生誕200年を記念して、組物の形でまとめて再リリースされた。
シューベルト全集の時同様、今回もセット化するにあたり作曲順に並べ替えられているため、年代を追ってシューマンの作風を追える楽しみがある。
その1枚目にはシューマン初期のめったに聴くことの出来ない歌曲が「ミルテの花」とともに収められている。
シューマンと言えば1840年のいわゆる「歌の年」に怒涛のように歌曲創作に集中したことで有名だが、それ以前数年はピアノ曲作曲に集中していた為、初期の歌曲は1827年から1828年に作曲されたものがあるのみらしい。
Hyperionの全集に収録された初期歌曲は以下の11曲。
1.憧れ(Sehnsucht)(Schumann:詩)(1827年2月28日作曲)
2.泣く娘(Die Weinende)(Byron/Körner:詩)(1827年7月作曲)
3.XXXのための歌(Lied für XXX)(Schumann:詩)(1827年7月作曲)
4.短い目覚め(Kurzes Erwachen)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)
5.歌の目覚め(Gesanges Erwachen)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)
6.釣り人(Der Fischer)(Goethe:詩)(1828年6~7月作曲)
7.秋に(Im Herbste)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)
8.アンナにⅠ(An Anna I)(Kerner:詩)(1828年6~7月作曲)
9.アンナにⅡ(An Anna II)(Kerner:詩)(1828年7月31日作曲)
10.羊飼いの少年(Hirtenknabe)(Schumann:詩)(1828年8月16日以前作曲)
11.思い出(Erinnerung)(Jacobi:詩)(1828年8月16日以前作曲)
最初のシューマン自身の詩による「憧れ」からすでに音楽作品としての魅力を備えているのは驚きだ。
後年のようなシューマン特有の二面性はまだ見られず、美しい旋律と詩の言葉に対するデリカシーのある扱いが特徴的と感じられた。
その中でとりわけ興味を惹いたのは「アンナにⅡ」という作品。
1828年7月31日作曲でシューマン18歳の時の作品ということになる。
ユスティーヌス・ケルナーの「書簡集」という6編からなる短い詩のシリーズの中をテキストにして「アンナに」と題する2曲を作った。
ちなみにこの曲名は詩人の付けたタイトルではないものの、女性が「アンナ」という名前である設定はケルナーによるものである。
「アンナにⅡ」のオリジナル詩は3節からなるが、シューマンは作曲に際して最後の3節目を削除して、最初の2節を使っている。
しかし、最後に第1節が回帰する作曲法をとっているので、原詩の第3節の削除はシューマンの強い考えがあってのことと推測される。
非常に優しい響きの短い作品だが、聴き手を惹きつけるものを持っている。
この初期歌曲の中心テーマをシューマンは彼のピアノ・ソナタ第1番嬰ヘ短調作品11(1832年から1835年作曲)の第2楽章Ariaにほぼそのまま引用しているのが興味深い。
現在のところCDで聴けるのは、トマス・ハンプソン(BR)&ジェフリー・パーソンズ(P)のケルナー&アンデルセン歌曲集と、ハイペリオンのシューマン歌曲全集第8巻でのマーク・パドモア(T)&グレアム・ジョンソン(P)の2種類と思われる(F=ディースカウは彼の全集で「アンナにⅠ」は録音したが、Ⅱは録音しなかった)。
しかし、いずれは現在進行中のナクソスレーベルのシューマン歌曲全集でも録音されて聴けるようになるだろう。
以下のサイトで「アンナにⅡ」の演奏を聴くことが出来る。
トマス・ハンプソン(BR)&ジェフリー・パーソンズ(P)
ハンプソンがとろけるような甘美な歌を聞かせ、パーソンズは優しい音色でサポートする。
歌唱部をヴァイオリンで演奏した映像
「アンナにⅡ」を主題に使ったピアノ・ソナタ第1番嬰ヘ短調作品11の第2楽章(Klára Würtzの演奏)
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