大萩康司/ギター・リサイタル(2010年12月18日 東京文化会館 小ホール)
大萩康司 ギター・リサイタル ~10th Anniversary~
2010年12月18日(土)14:00 東京文化会館 小ホール(J列14番)
大萩康司(Yasuji Ohagi)(guitar)
金子仁美/フェリタシオン!(Félicitations)
フェデリコ・モンポウ/コンポステラ組曲(Suite Compostelana)
プレリュード
コラール
ゆりかご
レチタティーヴォ
歌
ムニェイラ(水車小屋の踊り)
マヌエル・マリア・ポンセ/ソナタ第3番(Sonata III)
アレグロ・モデラート
<シャンソン>アンダンテ
アレグロ・ノン・トロッポ
~休憩~
アグスティン・バリオス/大聖堂(La Catedral)
前奏曲(サウダーデ)
宗教的アンダンテ
荘重なアレグロ
小出稚子/マートル(MYRTLE)(世界初演)
レイ・ゲーラ/12月の太陽(Sol de Diciembre)
マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ/ソナタ“ボッケリーニ讃”(Sonata "Omaggio a Boccherini")
アレグロ・コン・スピーリト
アンダンティーノ、クアジ・カンツォーネ
テンポ・ディ・ミヌエット
ヴィヴォ・エド・エネルジコ
~アンコール~
ニコ・ロハス/母に捧げるグアヒーラ
レイ・ゲーラ/そのあくる日
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大萩康司のギター・リサイタルを上野で聴いてきた。
日本のクラシック・ギター奏者の層の厚さは頼もしい限りだが、その中でも若い世代の中で抜きん出ている一人が大萩ではないだろうか。
彼の弾く「そのあくる日」という曲の録音をかつて聴いてその静謐な美しさに感銘を受けたことがある。
そんなこともあり、初めての実演を楽しみに出かけてきた。
黒のシャツで登場した大萩は腰掛けるとチューニングを始めてまず1曲演奏。
金子仁美という作曲家の非常に優しい雰囲気の曲だった。
その演奏が終わるとマイクを持ち、CDデビューから10周年という節目のコンサートに寄せる思いを訥々と話し出した。
後半でも1曲目の後、同様にトークがあったので、大萩さんのコンサートはこういうスタイルが普通なのかもしれない。
ちょっとした楽曲解説もあって、ギター曲に馴染みの薄い私のような初心者には有難かった。
例えばバリオスの「大聖堂」は出版譜だけでなく、自筆譜も参照したので、普段演奏されているのと異なる箇所もあるとのことだった。
小出稚子によって作曲された新作の「マートル」は調弦が独特との大萩自身の解説があり、時々乾いた琴のような響きがして興味深かった。
ちなみにこの「マートル」という言葉、「Myrtle」という綴りであり、もしかしたらと思い帰宅後ネットで調べてみたら案の定、ドイツ語でいう「ミルテ(Myrthe)」であった。
大萩さんの演奏は繊細で細やかな表情があり、心の琴線に触れるような音色である。
演奏中は彼の息を吸い込む音が頻繁に聞こえ、それが最初のうちは気になったが、演奏に没入しているということなのだろう。
徐々に音楽の一部と化していた(ギターの演奏時に時折聞こえる弦のきしむ(?)ような音も私は何故か好きである)。
慈しむように楽器と接する姿勢は「詩人」と例えられるのが納得できるほどだ。
こういう歌心を感じさせるギタリストの共演で例えばシューベルトの歌曲集「美しい水車屋の娘」などを聴いてみたいと思った。
全体的にギターという一台の楽器からこれほど多彩な音色、リズム、奏法(楽器の胴体をたたいてリズムを出す曲もあった)、そして曲調を表現できるというのは新鮮な体験だった。
大萩は古典作品だけでなく、国を問わず現代の作曲家たちに多くの作品を委嘱しているようだが、とりわけ中南米の音楽への愛着が強いように感じた。
前述した「そのあくる日」という曲を彼はアンコールで演奏してくれて個人的にはとても感銘を受けたが、この作曲家レイ・ゲーラもキューバ出身であり、20世紀前半の作曲家ポンセもメキシコ出身とのこと。
パラグアイ出身のバリオスの「大聖堂」という3曲からなる作品は、とりわけ第1曲の「サウダーデ」という作品のあまりにも古色蒼然とした繊細な美しさが素晴らしかったが、これも作曲家がかつて訪れたハバナの大聖堂をイメージして作られた作品らしい。
普段私はコンサートの記事の中に動画を載せることはしないのだが、とても素晴らしい動画を見つけたので、大萩の演奏ではないのだが、曲を聴いていただきたいという意味でご紹介したい。
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