オピッツ/シューベルト連続演奏会 第1回&第2回(2010年12月14日&21日 東京オペラシティ コンサートホール)
ゲルハルト・オピッツ シューベルト連続演奏会(SCHUBERT ZYKLUS)(全8回)
2010年12月14日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列7番)
2010年12月21日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(1階4列7番)
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)(piano)
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【第1回】(12月14日)
シューベルト(Schubert)作曲
楽興の時(Moments musicaux)D780
1. Moderato
2. Andantino
3. Allegretto moderato
4. Moderato
5. Allegro vivace
6. Allegretto mit Trio
ピアノ・ソナタ ロ長調(Sonate H-Dur)D575
I. Allegro ma non troppo
II. Andante
III. Scherzo: Allegretto
IV. Allegro giusto
~休憩~
10の変奏曲(Variationen über ein eigenes Thema)D156
ピアノ・ソナタ イ短調(Sonate a-moll)D784
I. Allegro giusto
II. Andante
III. Allegro vivace
~アンコール~
シューベルト/3つのピアノ曲~第1番変ホ短調 D946-1
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【第2回】(12月21日)
シューベルト(Schubert)作曲
ピアノ・ソナタ イ短調(Sonate a-moll)D537
I. Allegro ma non troppo
II. Allegretto quasi Andantino
III. Allegro vivace
「さすらい人幻想曲(Wanderer-Fantasie)」D760
I. Allegro con fuoco ma non troppo
II. Adagio
III. Presto
IV. Allegro
~休憩~
ピアノ・ソナタ イ長調(Sonate A-Dur)D959
I. Allegro
II. Andantino
III. Scherzo: Allegro vivace
IV. Rondo: Allegretto
~アンコール~
シューベルト/即興曲D935-2
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ゲアハルト・オピッツによるシューベルト・ツィクルスが東京でスタートした。
録音ではすでにシューベルトシリーズを完結している彼の実演シリーズは4年かけて全8回で完結する予定とのこと。
今年はその第1回と第2回だった。
第1回はまずその空席の多さに驚いた。
私は1階左側ブロックの4列目だったのだが、私の前方に誰もいない(おかげでオピッツの手の動きが完全に見えたのは良かったが)。
前方は真ん中のブロックにしか客がおらず、オピッツほどの著名人でも東京オペラシティは広すぎたか。
オピッツは比較的テンポを自由に動かしながらコントロールした音色でよく歌う。
テンポ設定は時に前のめり気味になる箇所もあるが、即興的な判断ではなく、あくまでオピッツの意図によるものであるのは、繰り返し箇所でも同様のテンポ設定が聞かれたことがその証となっている。
あまり刺激的な強音を使わず、弱音主体で演奏していたのは、シューベルトの演奏に対するオピッツの思いの反映なのではないか。
彼がケンプの弟子であることを思い起こさせる瞬間もしばしばあった。
決して構築感をおろそかにしているわけではないのだが、現代の洗練された演奏とは対極にあるようなある種の土臭さがシューベルトの音楽にえもいわれぬ趣を与えていた。
「楽興の時」全6曲をまとめて聴ける機会はありそうでなかなか無い。
こうしてあらためて聴いてみると有名な第3曲に限らず佳曲ぞろいである。
シューベルトの良い面だけが抽出されたかのような魅力全開の音楽。
これらはどう考えてもシューベルトにしか書けない音楽にちがいない。
イ短調ソナタD784は地味であまり知られていないが、不思議な暗さを帯びて非常に魅力的である。
特に第3楽章は右手と左手が追いかけっこをしているようにくっついたり離れたりする。
その様をオピッツの優れた演奏で実際に見るのは興味深かった。
今回若干ミスもあったが、全体的にはシューベルトらしいシューベルトを聴けたという満足感でいっぱいであった。
1週間後の第2回目は有名なソナタD959が含まれているせいか、前回よりもかなり多くの聴衆が入っていた。
前半最初のソナタD537はベネデッティ=ミケランジェリも録音していて、通し番号では第4番とされている。
特に第2楽章のテーマは後半の最晩年のソナタD959の終楽章にも使われており、同じ主題を使ってシューベルトがどのように進化した作品をつくったか比較する楽しみも与えてくれるプログラミングだった。
オピッツはドイツ人としては小柄な方で、手もそれほど大きくないように思われる。
しかし、そのことは演奏するうえで全く障害になっていない。
「さすらい人」幻想曲はシューベルトの作品の中では例外的といってもいいほど超絶技巧が求められるが、右に左にせわしなく鍵盤上を移動しながらもしっかりと安定した音楽を築いていたのはオピッツの高い技術を証明していた。
だがこの日の白眉はなんといっても後半のソナタD959だった。
よくシューベルト晩年のソナタ3曲D958~D960はソナタ形式という構造を意識した作品とみなされ、特にD958のハ短調ソナタはベートーヴェン的と形容されたりするが、今回のオピッツの弾くD959はまさにシューベルトのソナタの形式的な面を意識させるものだった。
オピッツは天高く屹立する建造物のように堂々とこのソナタを演奏した。
そこに甘い感傷を込めずにあくまで冷静な目の行き届いた演奏だった。
そして、こうして演奏されたD959のソナタは、部分部分であらわれる美しい音楽の羅列が有機的なつながりをもっているように感じられた。
これはオピッツの演奏によってはじめて感じた感覚かもしれない。
アンコールで弾かれた即興曲D935-2の何と美しかったことか。
一つ一つの音を慈しむように演奏するオピッツの響きは限りない包容力にあふれていた。
せわしない現代に、時間がゆったりと流れていくようなシューベルトの音楽にひたることがどれほど素敵なことか、あらためて感じさせられた2夜であった。
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