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METライブビューイング《ラインの黄金》(2010年11月9日 東劇)

METライブビューイング2010-2011
ワーグナー/ニーベルングの指環〈序夜〉《ラインの黄金(Das Rheingold)》(新演出)
上演日:2010年10月9日

2010年11月9日(火)19:00 東劇(M-7)

指揮:ジェイムズ・レヴァイン(James Levine)
演出:ロベール・ルパージュ(Robert Lepage)

美術:カール・フィリオン
衣装デザイン:フランソワ・サンオーバン
照明:エティエンヌ・ブシェ
映像デザイン:ボリス・フィルケ
インタラクティブ・プロジェクション:ホルガー・フォータラー

ヴォータン(Wotan):ブリン・ターフェル(Bryn Terfel)
フリッカ(Fricka):ステファニー・ブライズ(Stephanie Blythe)
ローゲ(Loge):リチャード・クロフト(Richard Croft)
アルベリヒ(Alberich):エリック・オーウェンズ(Eric Owens)
フライア(Freia):ウェンディ・ブリン・ハーマー(Wendy Bryn Harmer)
ファーゾルト(Fasolt):Franz-Josef Selig
ファフナー(Fafner):Hans-Peter König
フロー(Froh):Adam Diegel
ドンナー(Donner):Dwayne Croft
ミーメ(Mime):Gerhard Siegel
エルダ(Erda):Patricia Bardon
3人のラインの娘(the three Rhinemaidens):Lisette Oropesa; Tamara Mumford; Jennifer Johnson

The Metropolitan Opera

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以前から気になっていたメトロポリタンオペラの公演を映画館で上映するというMETライブビューイングを初めて見に行った。
実は11月6日(土)に新宿ピカデリーという立派なシネコンに出かけたのだが、最新の設備はあまりにも心地よく、最初の特典映像と本編最初の数分以外はぐっすり眠ってしまったため、再度会社帰りに東劇でリベンジ。
仕事疲れでまた眠ってしまうのではという心配もあったが意外や意外、今回は一睡もせずに最後まで映像を楽しむことが出来た。
この東劇という映画館、中に入ると昭和の雰囲気がただよい何とも味がある。
こういう映画館が残っていることは非常に意義深いことであろう。

最初にメットの支配人の挨拶があり、リハーサル風景などが続く。
演出のルパージュという人は、シルク・ドゥ・ソレイユのようなエンターテインメントの演出もこなす人で、今回の演出では大きな板を組み合わせて回転させたり、足場にしたりと、いろいろ工夫されていく。
最初のラインの娘たちが優雅に泳ぐシーンも吊るされながら登場し、この板を徐々に足場にする形をとる。
スタントマンが模範を見せると、ラインの娘の一人は「怖い」と表情を曇らせるが、徐々にコツをつかんでいく。
そのような舞台裏も普段なかなか見ることが出来ないので興味深かった。
引き続き「ワルキューレ」以降に登場予定のデボラ・ヴォイト(ブリュンヒルデ役)が案内人となり、「ラインの黄金」上演への導入役となる。
ヴォイトは公演直前のヴォータン役のターフェルとのインタビューなどもこなすが、並のレポーターも顔負けの手馴れた話術を披露していた。

本編は一見単純な板の組み合わせが多種多様な可能性をうみ、コンピュータもうまく組み合わせ、舞台装置だけでもなかなか壮観だった。
照明も効果的に使い、大団円でのヴァルハルへの橋の場面は美しかった。
少なくとも「ラインの黄金」初心者の私には、現代風読み替えではない、分かりやすく、かつ圧倒されるステージは非常に楽しめた。

3時間弱を通して聴いて、ヴァーグナーという人はやはり凄い作曲家なのだなぁと今さらながら実感することが出来た。
音楽がただ無駄に長大なのではなく、ヴァーグナーの構想を実現するのにおそらく必要な長大さなのだろう。
音楽がドラマと密接に結びついており、多少の予備知識しかなかったライトモティーフもそれほど苦労なく、その意味するところがおおよそ理解できる。
登場人物や心理状態を丁寧に特定のモティーフと結びつけて、それをドラマの展開に応じて対応させていくという手法はその巨大さに反比例して繊細ですらある。
ヴァーグナーにはまる人が多いというのも何となく分かるような気がした。

それから特徴的なのがヴァーグナー自身による台本の言葉。
例えば一般的な歌曲のテキストは脚韻を踏むことが多いが、ヴァーグナーの台本を見ると頭韻が目立つ。
ある種の言葉遊び(似た音の言葉を並べる等)もあるが、やはりこれは口語ではなく、舞台上で歌うための言葉なのだと強く印象付けられた。

ヴァーグナーの音楽は、ヴォルフが彼のオペラを好んでいたという先入観もあり、半音階進行が多いのかと思いきやそうでもなかった。
むしろ、それは彼の音楽語法の一つに過ぎず、オケの機能をフルに使って、ヴァーグナーの構想を表現しているようだ。

歌手の中で圧倒的に素晴らしいと感じたのは、フリッカを歌ったステファニー・ブライズ。
声は常に安定しており、ヴォリュームが豊かでありながら、語り口も最高。
仕草などもちょっとした動きでその心理状態を見事に伝えてしまう。
このような素晴らしい歌手が脇を固めていると主役陣も安心して自分の歌に集中できるにちがいない。

ヴォータンのブリン・ターフェルは、そのレスラーのような体格に似合わず、繊細な語り口が印象的であった。
必ずしも体躯と声のヴォリュームは比例しないのかもしれないが、彼が歌曲も得意にしていることが思い出された。

アルベリヒのエリック・オーウェンズは芸達者で、アルベリヒになりきっていた。
歌も演技もとても良かった(前半から後半へのキャラクターの変貌もうまく表現していた!)。

その他の多くの登場人物(人は「ラインの黄金」には出てこないので「登場者」と言う方がいいか?)もそれぞれ適材適所で良かったように思えた。
特にコミカルで頼りなげなミーメ役のGerhard Siegel、それに出番は少ないが圧倒的な存在感を示したエルダ役のPatricia Bardon、巨人族のファーゾルト、ファフナー役の2人も素晴らしかった。

策略家ローゲを演じたリチャード・クロフトには、カーテンコール時に執拗なブーイングを浴びせられ気の毒だったが、切れの良さよりはコミカルな側面が強調されすぎたことが要因だろうか。
それほど悪いとは思わなかったが。

レヴァイン指揮のオーケストラはヴァーグナーの音楽のうねりをドラマティックに表現していて素晴らしかった。

Met_live_viewing_20102011_chirashi

このライブビューイング、これだけ満足できるのならば今シーズンは出来る限り出かけてみたい(見逃してしまった「ボリス・ゴドゥノフ」はアンコール上映に期待!)。

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