フォーレ全歌曲連続演奏会IV(2010年11月2日 東京文化会館 小ホール)
日本フォーレ協会創立20周年記念 フォーレ全歌曲連続演奏会IV
-日本フォーレ協会第XXIII回演奏会-
2010年11月2日(火)19:00 東京文化会館 小ホール(全自由席)
フォーレ(Fauré: 1845-1924)作曲
Op.85-1 九月の森で Dans la forêt de septembre
Op.85-2 水の上を行く花 La fleur qui va sur l'eau
Op.85-3 同行 Accompagnement
土屋雅子(ソプラノ)、伊藤明子(ピアノ)
Op.87-1 もっとも甘美な道 La plus doux chemin
Op.87-2 山鳩 Le ramier
Op.92 静かな贈物 Le don silencieux
美山節子(ソプラノ)、堀江真理子(ピアノ)
Op.94 歌 Chanson
Op.114 平和になった C'est la paix
--- 朝焼け L'aurore
加納里美(メゾソプラノ)、高木由雅(ピアノ)
Op.113 《まぼろし Mirages》(全4曲)
水の上の白鳥
水に映る影
夜の庭
踊り子
立木稠子(メゾソプラノ)、堀江真理子(ピアノ)
Op.118 《幻想の水平線 L'horison chimérique》(全4曲)
海は果てしなく
私は船に乗った
ディアーヌよ、セレネよ
船よ、私たちはおまえたちを愛したことだろう
佐野正一(バリトン)、高木由雅(ピアノ)
~休憩~
Op.68bis アポロン賛歌 Hymne à Apollon
野々下由香里(ソプラノ)、木村茉莉(ハープ)、アンサンブル・コンセールC(4人の合唱)
Op.86 即興曲 Impromptu
Op.110 塔の奥方Une chatelaine en sa tour
木村茉莉(ハープ)
Op.65-1 アヴェ・ヴェルム・コルプス Ave verum corpus
Op.47-2 マリア、恩寵の聖母 Maria, Mater gratiae
野々下由香里(ソプラノ)、中村優子(メゾソプラノ)、高木由雅(ピアノ)
Op.65-2 タントゥム・エルゴ Tantum ergo
Op.22 小川 Ruisseau
野々下由香里(ソプラノ:Op.22)、アンサンブル・コンセールC(12人の合唱)、伊藤明子(ピアノ)
Op.35 マドリガル Madrigal
Op.50 パヴァーヌ Pavane
Op.11 ジャン・ラシーヌの雅歌 Cantique de Jean Racine
野々下由香里(ソプラノ)、中村優子(メゾソプラノ)、安冨泰一郎(テノール)、佐野正一(バリトン)、高木由雅(ピアノ)
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昨年7月よりスタートしたフォーレ全歌曲連続演奏会も今回でとうとう最終回を迎えた。
東京文化会館の小ホールもなかなか無いほどの盛況であった。
今回は最終回ということで、フォーレ最晩年の渋みあふれる歌曲が集まった。
Op.85-1の「九月の森で」にはじまる個々の歌曲たちは、教会旋法の使用が目立ち、分かりやすさとは無縁な作品ばかりだが、虚飾のないフォーレの晩年の心境を反映しているのだろう。
音楽の方が私たちに接近してくれるわけではないので、聴き手が何度も耳を傾けることによって、ようやく心を開いてくれるような感じだ。
それらの中に何故か初期作品の「朝焼け」(作品番号なし)が混ざっていたが、この作品の分かりやすさが際立つ結果となった(本来ならばシリーズ1回目で演奏されるべきだったと思うが、何か意図があるのだろうか)。
フォーレ最後の歌曲集「まぼろし」と「幻想の水平線」は、余計なものを一切削ぎ落とした詩のエキスだけを抽出したような音楽であり、それゆえにこれ以上ないほど簡素なピアノパートは決して二次的な「伴奏」とみなしてはならない。
フォーレは初期の「蝶と花」のようなロマンスから随分遠い境地に達したことになる。
率直に言うと私もいまだフォーレの歌曲は初期作品を聴くことが多いのだが、以前よりも少しは晩年の作品に近づいていけたような気がする。
休憩後は合唱曲や重唱曲をまとめてとりあげており、珍しいハープの独奏(木村茉莉の演奏)なども演奏された。
ハープの独奏を生で聴くことはこれまでほとんどなかったと思うが、同じ弦から様々な音色が響き、グリッサンドもあれば指でぽつぽつはじく手法もあり、一台で多様な響きが可能なのだとあらためて感じた。
それにしてもやはりこの楽器は独自の美しい響きをもっていた。
その場の空気が浄化されるような感じであった。
ただ、木村さんの演奏を見ていると、そんな気品にあふれたこの楽器もきっと相当な力仕事なのだろうなという印象は受けた。
なお、「パヴァーヌ」という曲、私はてっきりオーケストラ曲だとばかり思っていたのだが、どうやら後に合唱パートが付け加えられたようだ。
この典雅なたたずまいの音楽に、こんなに俗っぽいテキストというのがなんともミスマッチで面白いが、ルネッサンス以前の声楽作品などは案外このタイプのテキストが多かったりするので、フォーレもそれに倣ったのだろうか。
今回は晩年の歌曲ということで、演奏される方々もベテラン勢が多かったようだ。
声のコンディションに苦心するところがあったとしても、厳しい訓練を経てこれまで長いこと歌いこんできたであろう歌の数々はやはり背筋を伸ばして聴くに値するものであった。
とりわけ「幻想の水平線」を歌ったバリトンの佐野正一は心技バランスのとれた名唱だったと感じた。
後半はハープ伴奏の作品など珍しい歌を満喫したが、バッハコレギウムジャパンでも活躍しているソプラノの野々下由香里はずば抜けた素晴らしさだった。
生ではおそらくはじめて聴いたと思うが、透明でどこまでもよく伸びる美声と明瞭な語り口は、古楽だけでなく、19世紀の作品にも見事にはまっていた。
ステージでの所作も魅力的で、さらにいろいろと聴いてみたいと思わせられた。
今回登場した3人のピアニストたちもそれぞれ皆素晴らしく、フォーレの音楽を見事に表現していたことは特筆しておきたい。
この意義深い企画にかかわったすべての方々にシリーズ完結のお祝いを申し上げたい。
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