内藤明美&平島誠也/メゾソプラノリサイタル(2010年11月8日 東京オペラシティ リサイタルホール)
内藤明美メゾソプラノリサイタル
アイヒェンドルフの詩による歌曲(Lieder nach Gedichten von J. v. Eichendorff)
~シューマン生誕200年に因んで~
2010年11月8日(月)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール(全席自由)
内藤 明美(Akemi Naito)(メゾソプラノ)
平島誠也(Seiya Hirashima)(ピアノ)
R.シューマン(Schumann: 1810-1856)
リーダークライス(Liederkreis)Op.39
異郷にて(In der Fremde)
間奏曲(Intermezzo)
森の対話(Waldesgespräch)
静けさ(Die Stille)
月の夜(Mondnacht)
美しき異郷(Schöne Fremde)
古城にて(Auf einer Burg)
異郷にて(In der Fremde)
悲しみ(Wehmut)
たそがれ(Zwielicht)
森の中で(Im Walde)
春の夜(Frühlingsnacht)
~休憩~
O.シェック(Schoeck: 1886-1957)
森の孤独(Waldeinsamkeit)Op.30-1
帰依(Ergebung)Op.30-6
余韻(Nachklang)Op.30-7
夜の挨拶(Nachtgruss)Op.51-1
座右銘(Motto)Op.51-2
慰め(Trost)Op.51-3
思い出(Erinnerung)Op.10-1
別れ(Abschied)Op.20-7
夕暮れの風景(Abendlandschaft)Op.20-10
病める人(Der Kranke)Op.20-9
回心(Umkehr)Op.20-12
追悼(Nachruf)Op.20-14
~アンコール~
F.グルダ(Gulda)/夜の挨拶(Nachtgruss)
メンデルスゾーン(Mendelssohn)/夜の歌(Nachtlied)
島原の子守唄
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毎年意欲的なプログラムを組む内藤明美と平島誠也による今年のコンサートはアイヒェンドルフの詩による作品集だった。
前半は生誕200年のシューマン作曲の有名な「リーダークライス」、そして後半は多くのアイヒェンドルフ歌曲を作ったオトマール・シェックによる歌曲から12曲が歌われた。
シューマンの「リーダークライス」ではアイヒェンドルフの常套句にあふれたテキストが多い。
故郷、雲、森の孤独、夜、空、風、梢、星、月、ナイチンゲール・・・。
解説の山崎裕視氏が的確に述べておられるように「さまざまな光景は詩の中では、どことも知れぬ場所、いつとも知れぬ時として現れてくる。その不分明さは、読む人にかえって自己の中に抱える原風景を思い起こさせる」。
つまり、ドイツの風景として描かれながら、ドイツに限定されない誰もが抱く自然のイメージが喚起されるのである。
それゆえに、この作品はシューマンの代表的な歌曲の一つとして普遍的な魅力を放っているのであろう。
シェックの歌曲は清冽な抒情性と濃密さを合わせもったような作風が印象的だ。
決して声高でなく、また前衛的な要素を取り入れたものでもなく、一見地味だが、過去の伝統に連なった作風は、詩に傾斜しがちだったヴォルフから再び音楽とのバランスを回復してみせたかのようだ。
内藤明美は今夜も作品のイメージを反映したかのような美しいドレスを前後半で変えて登場した。
そしてメゾソプラノの深みをもって聴く「リーダークライス」もまた格別だった。
普段ソプラノやテノールで聴き慣れたこれらの作品が、内藤の深みのある声と表現によって一層自然の神秘感や詩人の内面を際立たせていたように感じられた。
「静けさ」では愛らしく、「月の夜」では翼を羽ばたかせるかのような広がりをもって、「悲しみ」では内に秘めた悲しみをそっと滲ませて、「春の夜」では解放感を押し出して、各曲の魅力を描き出していた。
後半のシェックは内藤が力を入れている作曲家の一人。
アイヒェンドルフの詩という共通項でくくりながら、シェックの様々な時期の作品を作品番号ごとにまとめて歌った。
彼女の歌はいつもながら素直に作品の中に入って、そっと魅力を引き出すという歌唱。
最後の「追悼」では簡素だが印象的なメロディーに温かく寄り添って、シェックの慎ましやかな魅力を伝えてくれた。
平島誠也は、かなり低く移調された「リーダークライス」でも、響きの明晰さを失わないように演奏していたのはさすがだった。
テンポを揺らすこと以上に、音色やダイナミクスによってシューマンの響きを追求していたように感じられた。
シェックの歌曲でもその透徹した音色を魅力的に響かせていた。
アンコールのメンデルスゾーン「夜の歌」では、内藤さんの歌が最後に盛り上がるところで平島さんは一緒になって和音を大音量で叩くことはせず、その後に歌が落ち着いてからようやくピアノで歌ってみせ、前へ出たり引っ込んだりの的確さがいつもながら絶妙だった。
アンコールの1曲目では、ピアニストとして著名だったフリードリヒ・グルダによる珍しいアイヒェンドルフ歌曲が聴けたのが良かった。
ピアノの分散和音が印象的な、ほの暗い作品であった。
アンコール最後の「島原の子守唄」はもう彼女の十八番といってよいもので、ドイツリートの時とは全く別人のように濃密な情念を吐き出す。
今回もまた胸をえぐられるような絶唱だった。
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コメント
フランツさん、こんにちは。
内藤さんと平島さんのコンサートにいらっしゃったのですね。
私は、チェック不足で、今回も聞き逃して本当に残念!
3年前に、やはりオトマール・シェックの歌を中心にした内藤さんのコンサートで、はじめて素晴らしい歌唱と、平島さんのピアノに接し、感動したことを思い出します。
フランツさんと、ほかのクラシック音楽関係の方々にもお目に掛かり、いいコンサートでした。
その時のアンコールにも「島原の歌」が入っていましたね。
日本人の歌手の日本の歌が、一曲でも入ると、また別の良さがあっていいですね。
以前の記事も読ませていただき、懐かしい気持ちになりました。
投稿: Clara | 2010年11月11日 (木曜日) 13時31分
Claraさん、こんばんは。
コメントを有難うございます!
Claraさんと初めてお目にかかったのは3年前の内藤さん、平島さんのコンサートでしたね。
私もいまだにあの時受けた感銘の大きさを覚えています。
今回もまた内藤さんたちならではの素敵なコンサートでした。
Claraさんにもお声をかければ良かったですね。
「島原の子守歌」は演奏者お二人のトレードマークのようなものでしょうか。平島さんも楽譜なしで内藤さんの慟哭とひとつになっていました。
このような地道なコンサートを続けておられることはとても貴重なことだなぁと感じました。
投稿: フランツ | 2010年11月12日 (金曜日) 02時53分