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山崎法子&梅本実/ソプラノ・リサイタル(2010年11月21日 東京文化会館 小ホール)

Yamazaki_umemoto_20101121

演連コンサート225
山崎法子ソプラノ・リサイタル
2010年11月21日(日)14:00 東京文化会館 小ホール

山崎法子(Noriko YAMAZAKI)(Soprano)
梅本実(Minoru UMEMOTO)(Piano)

シューベルト(Franz Schubert)

神は春に(Gott im Frühling)D448
少女(Das Mädchen)D652
ばら(Die Rose)D745
ガニュメート(Ganymed)D544

R.シュトラウス(Richard Strauss)

《乙女の花(Mädchenblumen)》op.22
 矢車菊(Kornblumen)
 けしの花(Mohnblumen)
 きづた(Epheu)
 睡蓮(Wasserrose)

いつもおんなじ(Einerlei)op.69-3
私の想いのすべて(All mein Gedanken)op.21-1
悪いお天気(Schlechtes Wetter)op.69-5

~休憩~

ヴォルフ(Hugo Wolf)

ゲーテ『ファウスト』から"悲しみの聖母像に祈るグレートヒェン(Gretchen vor dem Andachtsbild der Mater Dolorosa)"

《メーリケの詩による歌曲(Gedichte von Eduard Mörike)》より
 飽くことなき恋(Nimmersatte Liebe)
 少年とみつばち(Der Knabe und das Immlein)
 考えてもみよ、ああ心よ(Denk' es, o Seele!)
 捨てられた女中(Das verlassene Mägdlein)
 春なんだ(Er ist's)

《ゲーテ詩集による歌曲(Gedichte von Johann Wolfgang von Goethe)》より
 お澄まし娘(Die Spröde)
 恋に目覚めた娘(Die Bekehrte)
 フィリーネ(Philine)
 あなたの愛の中で(Hoch beglückt in deiner Liebe)

~アンコール~
ヴォルフ/ねずみとりのおまじない(Mausfallen-Sprüchlein)
R.シュトラウス/言いました-それだけでは済みません(Hat gesagt ‑ bleibt's nicht dabei)op.36-3

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上野でフーゴー・ヴォルフの歌曲を含むコンサートがあると知り、出かけてきた。
今年が生誕150年目のアニヴァーサリーイヤーであるヴォルフだが、ショパンやシューマンのようにはやはり盛り上がらない。
ドイツ歌曲創作中心という特殊性がその普及を妨げているのは仕方ないにしても、もう少しメディアでも取り上げられるものだと思っていた。
従って、こうしてコンサートでヴォルフの歌曲を選曲してくれる人がいるのは心強いことこの上ない。

ソプラノの山崎法子という歌手は、私にとってはじめて聴く人だ。
現在国立音大の博士後期課程3年で、ヴォルフ歌曲を研究しているとのこと。
共演のピアニスト、梅本実はご夫人の長島剛子とのシューマンを今年川口で聴き、今回で2度目の実演となる。
山崎の師が長島という関係で梅本との共演となったのかもしれない。

実際に山崎の歌唱を聴き、その意欲的な選曲とともに将来性を感じさせる立派な歌手だった。
愛らしい笑顔は聴き手との壁を取り払っていた。

最初のシューベルトでは「少女」や「ばら」のような繊細でしっとりとした味わいの作品中心の選曲で、細密なリートとの山崎の相性の良さを感じさせた。
最初のブロックを締めくくる「ガニュメート」では壮大な広がりを表現しようという意欲がみなぎった歌唱で、最後の長大なフレーズも見事に聴かせてくれた。

続くR.シュトラウスでは「乙女の花」と題された4曲の作品集がまとめて歌われ、その後にお馴染みの3曲が歌われた。
珍しい作品と親しみやすい作品を両方選曲するセンスも素晴らしい。
シュトラウスの歌曲は外へ外へと広がっていくメロディーの開放が特徴的だ。
従って普段歌曲をあまり歌わない歌手でもシュトラウス歌曲は好んで取り上げる人が多い。
知性派、山崎さんもこれらの歌曲では、歌曲としての律儀さを残しつつも、旋律を伸びやかに歌い上げて、その美声を響かせていた。

休憩後は待望のヴォルフ歌曲。
最初はめったに歌われないヴォルフ初期の作品「悲しみの聖母像に祈るグレートヒェン」である。
確かにその筆致にはまだ若さが顔を覗かせており、歌われる機会が少ないのもやむを得ない面はあるが、すでに和声面で独自の方向を見せ始めており、詩と同化しようとする真摯な音楽作りは聴き手に訴えるものをすでに持っていた。
シューベルトによる名作のある「糸を紡ぐグレートヒェン」には手を出さなかったヴォルフだが、シューベルトが未完のまま残したこのテキストには若きヴォルフのシューベルトを越してやろうと言わんばかりの対抗意識のようなものが感じられ、無視するには惜しい作品であると再確認した。
山崎さんも悲劇的な表情で、しっとりと、そして激しく歌っていて、良かった。

続いてメーリケ歌曲集からの5曲。
比較的知られている作品が選曲されていたが、それぞれが異なった性格をもっており、同じ詩人のテキストからヴォルフがいかに多様な音楽を作り上げたかがあらためて伝わってきた。
「考えてもみよ、ああ心よ」のような重いテーマの作品はソプラノ歌手にとって必ずしも歌いやすい曲ではないと思われるが、テキストに寄り添った山崎さんの歌はこの死を扱った作品でも見事な歌いぶりだった。
「春なんだ」はピアノパートが非常に華やかで、特に長い後奏はピアニストの腕の見せ所だが、梅本さんは雄弁に主張していて、聴き応えがあった。

最後のゲーテ歌曲集からは4曲。
こちらはすべて「愛」がテーマになっているように感じられる。
自分に気持ちを寄せる男性どもをあざ笑い、恋など興味のない娘を歌った「お澄まし娘」。
ある男性(ダーモン)の笛の音に引かれ、ついに恋を知った娘を歌った「恋に目覚めた娘」。
この2曲はヴォルフも対の作品と考えていたのだろう、歌曲集の中でも連続の順番を与えている。
2曲を続けることで、娘の気持ちの変化を印象づけることが出来るだろう。
山崎さんも抑えた声なども使いながら、よく表現していたと感じた。
「フィリーネ」では人生の楽しみは夜にあると快活に歌われ、最後の「あなたの愛の中で」は相聞歌となっているゲーテの原詩をテキストに、愛が私たちを豊かにしてくれると堂々たる愛の賛歌を歌い上げる。
この作品はかなりドラマティックな歌とピアノの表現を要求される為か、なかなか実演で聴く機会に恵まれないが、山崎さんも梅本さんもそれぞれ迫力をもって、この作品の力強さを表現していて感銘を受けた。

山崎さんの声は高音が非常によく伸びて美しい。
若干硬質の響きを伴って、芯のある充実した高音を自在に響かせて素晴らしかった。
一方、低声では不安定になる箇所も見られ、今後さらに良くなる余地があるように感じたが、これは経験の積み重ねが解決してくれるかもしれない。
ドイツ語の発音は非常に明瞭で、例えば語頭の"k"や"t"の響きもネイティヴのようにしっかり発音されていた。

梅本さんは非常に繊細でみずみずしい感覚をもってピアノを歌わせる。
歌との阿吽の呼吸はさすがで、歌手が安心して身を委ねられるであろう包容力のある演奏だったと思う。

アンコールの最初にヴォルフの「ねずみとりのおまじない」が歌われたが、このテキストには最初に
"Das Kind geht dreimal um die Falle und spricht:(子供がわなの周りを三回まわってとなえる)"
という文言が付いており、山崎さんはドイツ語でこの文言を語ってから歌に入った。
外国人歌手の録音などではたまに聞かれるが、実際の舞台でこの文言が日本人によって「ドイツ語」で語られるというのは珍しい。
愛らしい山崎さんの声と表現にはぴったりの作品だった。

最後のシュトラウス「言いました-それだけでは済みません」はコミカルな作品。

お父さんが子供をあやしてくれたら卵を3つゆでてくれると言ったけど、どうせお父さんが2つ食べちゃうんでしょ。
お母さんが女中さんのことを教えてくれたら3羽鳥を焼いてくれると言ったけど、どうせお母さんが2羽食べちゃうんでしょ。
たった1つのご褒美のために子守りをしたり、秘密をちくったりしたくないわ。
私のいとしい人が「ぼくのことを思ってくれたら晩に3回キスしてあげる」と言ったけど、3回じゃ済まないわ。

3節からなる作品だが、最初の2節が終わったところで、ピアノが派手に和音を打ち鳴らすと、曲が終わったと思った何人かの聴衆が拍手をして、山崎さんが手で拍手を抑えるような合図をして演奏が続けられた。
この曲も「舞踏への勧誘」みたいな要素があるのだなぁと、コンサートならではのハプニングを楽しんだ(演奏者は焦ったかもしれないが)。

Yamazaki_umemoto_20101121_chirashi

まだ若いソプラノだが魅力的な歌を聴かせてくれた。
今後さらに研鑽を積まれることだろう。
これからのますますの活躍を楽しみにしたい。

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コメント

詳細なレポート、大変参考&勉強になりました。東京はたくさんコンサートがあって羨ましい限りです。

投稿: 田中文人 | 2010年11月30日 (火曜日) 06時47分

田中文人さん、こんばんは。
コメントを有難うございました。
文章は単なる備忘録なのであまりお役に立てないかもしれませんが、こういう曲があるとか、こういう演奏家がいると伝えることが出来るとしたら少しは意味のあることなのかなと思いながら続けています。
東京のコンサートの多さは確かに恵まれているなぁと感じています。どういうコンサートだったかを少しでも記録に残していけたらと思います。

投稿: フランツ | 2010年11月30日 (火曜日) 20時15分

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