レーゼル&S.ザンデルリング/ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲ツィクルス I(2010年10月9日 紀尾井ホール)
ペーター・レーゼル
シュテファン・ザンデルリング&紀尾井シンフォニエッタ東京
ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲ツィクルス I
2010年10月9日(土)14:00 紀尾井ホール(1階4列2番)
ペーター・レーゼル(Peter Rösel)(ピアノ)
紀尾井シンフォニエッタ東京(Kioi Sinfonietta Tokyo)
シュテファン・ザンデルリング(Stefan Sanderling)(指揮)
ベートーヴェン(Beethoven: 1770-1827)
ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op. 19
Allegro con brio
Adagio
Rondo: Allegro molto
ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op. 37
Allegro con brio
Largo
Rondo: Allegro
~休憩~
ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op. 58
Allegro moderato
Andante con moto
Rondo: Vivace
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現在ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲シリーズを4年がかりで継続中のペーター・レーゼルが今年から同時進行でピアノ協奏曲の全曲シリーズも始めた。
今年は第2~4番まで。
そして来年は第1番と第5番「皇帝」が予定されている。
つまり来年でベートーヴェンのソナタシリーズと協奏曲シリーズが同時完結することになるのである。
雨の中、四谷の紀尾井ホールに出かけてきたが、セディナ誕生一周年記念という冠が付けられ、関係者らしき人たちの姿がロビーに見られ、開演前のロビーやホール内を撮影している人もいた(スポンサー関係者だったのだろう)。
最初に演奏されたのは第2番。
第1番より出版されたのが後になったため2番と付けられているが、作曲はこちらが先とのこと(プログラム解説:原口啓太氏)。
どの楽章も軽快な明るさが聴く者を楽しい気分にさせる。
ベートーヴェンの優しい一面があらわれた作品と感じられた。
続いて演奏された第3番は第2番とは対照的に重厚でドラマティックな短調の作品(緩徐楽章は穏やかな長調だが)。
こうした悲壮な曲調であってもレーゼルの演奏はやり過ぎることがなく、節度が感じられるのが私には好ましい(より激しいほうが好みの方もおられるかもしれない)。
休憩後の第4番は冒頭からいきなりピアノソロで始まるのが特徴的な作品。
こちらはまた優美な曲調になり、気品すら感じられる。
しかし、ただ穏やかなだけではなく、ドラマティックな感情の起伏も表現されていて、精神的な味わい深さも感じさせてくれる名作といえるだろう。
第2楽章では激しく力強いオケと静かで穏やかなピアノソロが交代して、対比の妙が興味深い。
こうして立て続けに聴いてみると、やはりベートーヴェンというのはケタ違いに偉大な作曲家なのだなと感じずにはいられなかった。
貪欲に新しい技法を取り入れながら、決してルーティンに流されずに細やかにモティーフを展開させていく様は、単なる一愛好家の私ですら眩しいほどの格の違いを見せ付けられたような気がした。
何度も校正の手を入れて妥協せずに作品をつくりあげていくこの作曲家にあらためて畏敬の念を感じた時間だった。
レーゼルの演奏はソロの時と本質的には同様である。
がっちりとした構築感を土台にして、そこで作品とまっすぐに向き合うのだが、高度なテクニックを誇示することは決してなく、どれほど激しい箇所でもがんがん叩きつけることなく、コントロールの行き届いたタッチがマイルドな温かさを醸し出す。
ソリストと伴奏者という関係ではなく、アンサンブルの一員として互いの音を聴き合った良質な室内楽のようなやりとりが素晴らしかった。
右手だけで弾く時には左手を指揮をするかのようにひらりとさせるなど、ソロの時には見られなかった演奏する楽しみを自然に表にあらわすような場面も見られた。
またオケだけで演奏される箇所ではオケの演奏する方を向いてじっと音楽に耳を傾ける場面も多く、お互いの信頼関係がうかがえた。
また、作品それぞれの性格の違いを鮮やかに描き分けていたのは熟練のなせる技なのだろう。
とにかくレーゼルの奏でる極上の音の連なりに気持ちよく身を預けて聴いていた。
指揮はシュテファン・ザンデルリング。
往年の名指揮者クルト・ザンデルリングの息子である(レーゼルは親子2代と共演したことになる)。
女性の多い弦楽器群と男性の多い管楽器群からみずみずしく積極的な音楽を引き出していたように感じた。
紀尾井シンフォニエッタ東京のゲスト・コンサートマスターはスラヴァ・シェスティグラーゾフ(Slava Chestiglazov)。
レーゼルは何度も飛んだブラヴォーの掛け声と拍手喝采に幾度となくステージに呼び戻されていた。
なお、今日のコンサートはマイクが立てられ、ピアノソナタシリーズ同様CD化されるそうなので楽しみである。
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