シーララ&マリナー指揮N響/シューマン「ピアノ協奏曲」ほか(2010年9月26日 NHKホール)
NHK交響楽団第1681回定期公演 Aプログラム2日目
~シューマン生誕200年~
2010年9月26日(日)15:00 NHKホール(1階L2列3番)
アンティ・シーララ(Antti Siirala)(ピアノ)
NHK交響楽団(NHK Symphony Orchestra)
ネヴィル・マリナー(Neville Marriner)(指揮)
シューマン(Schumann)/序曲、スケルツォとフィナーレ 作品52
シューマン/ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
~休憩~
シューマン/交響曲 第3番 変ホ長調 作品97「ライン」
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昨夜、FMラジオでN響の生中継放送を聴いて、アンティ・シーララの弾くシューマンのコンチェルトがあまりにも素晴らしかったので、今日当日券で聴いてきた(土日2回公演の2回目)。
席は2列目のほとんど左端で、第1バイオリン奏者を背中から見る位置だが、NHKホールの1階席ははじめてで、間近に見られたのは非常に興味深かった。
指揮はイギリスの巨匠ネヴィル・マリナー。
すでに86歳とは驚きだが、指揮者は比較的高齢になってもこうして活動が出来るのが素晴らしい。
最後まで立ちっぱなしで積極的に指揮していたが、高齢の指揮者にありがちなほとんど直立不動で手も動かさずというのとは全く対照的で、いまだ現役ばりばりのスマートな指揮ぶりを披露していたのは心強い。
私の席からだとマリナーの指揮ぶりを左側から見ることが出来て、貴重な体験だった。
今年31歳の北欧人シーララのシューマンは、詩人が言葉を紡いでいるかのようだった。
とてもデリケートにメロディーを歌わせる箇所では息吹を吹き込まれた音が心にしっとりとしみこんでくる。
そうかと思うと、技巧的な箇所ではなんの苦もなくさらりと弾きこなしてしまう。
シューマンの音楽に外向的なフロレスターンと、内面に沈潜するオイゼービウスの両極端が交互にあるいは同時にあらわれるとすると、シーララはフロレスターン的な箇所もクールな表情のままはじける。
だからといって紡ぎだされる音楽に情熱が不足しているというわけではなく、充分に音は鳴らすが、それが派手になりきらず、どことなく冷静な第三者の視点が残っているという感じだろうか。
フロレスターンはあくまで忘我的にというのが好みの人には物足りないかもしれないが、私はシーララの叙情的な表情の美しさに惚れこんでしまっているので、非常に心に響いた演奏だった。
第1楽章の美しさは言わずもがなだが、今回マリナー指揮のN響の演奏に接して、「間奏曲」と位置付けられている第2楽章の弦の響きの陶酔するような美しさにあらためて感銘を受けた。
そこに溶け込むシーララのピアノももちろん素晴らしい。
そして、第3楽章のはねるような主題から上下にうねるような箇所まではったりもごまかしもなく、ごく自然に聴かせてくれたシーララの演奏はやはり第一級のものだったと感じられた。
それにしてもシューマンのコンチェルト、せっかくソリストが弾いていてもオケの響きにかき消されてしまう箇所があるのは惜しい気がする。
これは演奏者の問題ではなく、おそらくシューマンの作曲上の問題なのだろう。
最初に演奏された「序曲、スケルツォとフィナーレ」は小規模な交響曲的な作品。
親しみやすく、演奏も素敵だった。
後半の交響曲「ライン」では、マリナーのすっきりとした指示のもと、シューマンのロマンティックな側面と古典的な側面の両者が美しく共存しているように感じた。
滔滔と流れるライン川のような流麗な響きは、この曲の明朗さと共に聴き手を惹きつける要素だろう。
生誕200年のシューマンを管弦楽作品で堪能した時間だった。
なお、コンサートマスターは篠崎史紀氏だった。
余談だが、休憩時間のトイレの行列が女性だけでなく、男性もほかのホールでは見たことがないほど長くなっていたのは、トイレの数が少ないということだろうか。
あまりNHKホールに来なかったのでこれまで気付かなかったが、客席数のわりにトイレが足りていないのではないだろうか。
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