ポップ&ゲイジ/1984年ミュンヒェン・ライヴ(ORFEO: C 789 101 B)
Schubert, Schonberg, Strauss Lieder(シューベルト、シェーンベルク、シュトラウス歌曲集)
ORFEO: C 789 101 B
録音:1984年7月25日, Cuvilliés-Theater
Lucia Popp(ルチア・ポップ)(soprano)
Irwin Gage(アーウィン・ゲイジ)(piano)
Schubert(シューベルト)作曲
Der Knabe(少年), D692
Die Gebüsche(茂み), D646
Der Fluss(流れ), D693
Der Schmetterling(蝶), D633
Die Rose(ばら), D745
Fülle der Liebe(愛の充溢), D854
An mein Herz(わが心に), D860
Der Jüngling an der Quelle(泉のほとりの若者), D300
Die Liebende schreibt(恋する女が手紙を書く), D673
Der Einsame(孤独な男), D800
Schönberg(シェーンベルク)作曲
"Vier Lieder(四つの歌)", Op.2
Erwartung(期待)
Schenk mir deinen goldenen Kamm(私にあなたの金の櫛をください)
Erhebung(高揚)
Waldsonne(森の太陽)
R.Strauss(シュトラウス)作曲
"Drei Lieder der Ophelia (aus Hamlet)(ハムレットのオフィーリアの三つの歌)", Op. 67
Wie erkenn ich mein Treulieb(まことの恋人をどうして見分けよう)
Guten Morgen, 's ist Sankt Valentinstag(おはよう、今日は聖ヴァレンタインの日)
Sie trugen ihn auf der Bahre bloß(彼女はあらわに棺にのせられ)
Mein Auge(私の目), Op.37/4
Meinem Kinde(わが子に), Op.37/3
Die Zeitlose(さふらん), Op.10/7
Die Verschwiegenen(もの言わぬものたち), Op.10/6
Hat gesagt - bleibt's nicht dabei(言いました、それだけでは済みません), Op.36/3
Zugaben(アンコール)
R.Strauss / Allerseelen(万霊節), Op.10/8
Schubert / An Silvia(シルヴィアに), D891
Schubert / Seligkeit(幸福), D433
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ルチア・ポップの透明で張りのある美声を録音で聴くと、なんとなく未だに現役で活動しているような錯覚に陥ってしまう。
彼女は東京でリサイタルを開いた翌年に病気でこの世を去ってしまったのだが、そのリサイタルでピアノを弾いていた井上直幸氏も亡くなり、無常を感じずにはいられない。
今回バイエルン・シュターツオーパーでの彼女の1984年のライヴが発売されたが、これなども過去の人の記録というよりは、同時代人の歌唱を楽しむような気持ちで聴いた。
彼女はパーソンズ、サヴァリッシュ、ゲオルク・フィッシャーなどのピアニストと共演してきたが、今回の新譜で共演しているアーウィン・ゲイジも最も緊密なパートナー関係を築いた一人であろう。
このCDではポップの声とゲイジのピアノがほぼ対等に入っており、そのため、ピアノの音の粒だちまでかなり明瞭に聴き取れる。
だが、そういう録音においてもゲイジの音がポップを妨げることは決してなく、「対等」であることと「対決」することは全く別物であることが感じられる。
ゲイジは一貫して作品の核心をついた演奏をする名手ぶりをここでも発揮していた。
ポップが録音した歌曲レパートリーはそれほど多くはなかったが、じっくりと一つの作品を熟成させていくタイプだったのかもしれない。
ここで最初に演奏されるシューベルトの歌曲は「恋する女が手紙を書く」を除き、ゲイジとEMIにスタジオ録音した曲ばかりが集められ、当時の彼女が力を入れていたレパートリーといえるだろう。
これらの歌曲は可憐で茶目っ気があったり、軽快に飛翔するかと思えば、内面を激しく吐露したりする。
そういう様々なタイプの作品を並べて、リートのもつ多彩な感情を魅力的に伝達することを、当時のポップは見事に実現していた。
「少年」では違和感なく子供の無邪気さを表現し、ガラス細工のように繊細な「ばら」では温かい包容力でばらを見守るように歌う。
歌もピアノも大きな孤を描く「流れ」では、シューベルト特有の伸びやかなメロディーの美しさを気品に満ちて表現し、「わが心に」では焦燥感をあふれさせる。
なかでも「泉のほとりの若者」での抑制された魔法のような美しさに引き込まれた。
シェーンベルクの「4つの歌曲」は、東京でのリサイタルでも披露されたのが思い出される。
スタジオ録音もゲイジとしており、彼女の核となるレパートリーの一つだろう。
シェーンベルクの妖しい官能性に、ポップの涼やかな声が新たな魅力を加えていたように感じた。
R.シュトラウスの歌曲もポップ十八番の作品。
ハムレットからの「オフィーリアの三つの歌」も各曲の心理の変化を鮮やかに表現していたし、「わが子に」などを含む個々の歌曲でも伸びやかに開放された声が心地よい。
アンコールでは馴染み深い三曲が、会場の聴衆を喜ばせたことだろう。
最後の曲の後にわきおこった拍手がその雰囲気を伝えている。
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