キルヒシュラーガー&ジョンソン/ハイペリオン・ブラームス歌曲全集Vol.1
The Songs of Johannes Brahms~1(ブラームス歌曲全集Vol.1)
Hyperion: CDJ33121
録音:2008年8月18-20日, All Saints, Durham Road, East Finchley, London
Angelika Kirchschlager(アンゲリカ・キルヒシュラーガー)(MS)
Graham Johnson(グレアム・ジョンソン)(P)
1.Scheiden und Meiden(別れ), Op.19-2 (ウーラント:詩)[1'09]
2.In der Ferne(異郷), Op.19-3 (ウーラント:詩)[2'16]
3.Von ewiger Liebe(永遠の愛), Op.43-1 (ファラースレーベン:詩)[4'45]
4.Der Gang zum Liebchen(恋人のもとへ), Op.48-1 (ヴェンツィヒ:詩) [1'19]
5.Der Überläufer(裏切り), Op.48-2 (「子供の不思議な角笛」より) [1'39]
6.Liebesklage des Mädchens(乙女の愛の嘆き), Op.48-3 (「子供の不思議な角笛」より) [1'25]
7.Gold überwiegt die Liebe(黄金は愛にまさる), Op.48-4 (ヴェンツィヒ:詩) [1'22]
8.Trost in Tränen(涙の慰め), Op.48-5 (ゲーテ:詩) [3'08]
9.Vergangen ist mir Glück und Heil(幸福と平和は私から去った), Op.48-6 (民謡) [4'03]
10.Herbstgefühl(秋の気配), Op.48-7 (シャック:詩) [3'20]
11.O komme, holde Sommernacht(おお来たれ、やさしい夏の夜よ), Op.58-4 (グローエ:詩) [1'06]
12.Dämmrung senkte sich von oben(たそがれが降りて来る), Op.59-1 (ゲーテ:詩) [3'53]
13.Auf dem See(湖上にて), Op.59-2 (ズィムロック:詩) [3'08]
14.Junge Lieder I "Meine Liebe ist grün"(わが恋は緑), Op.63-5 (フェーリクス・シューマン:詩) [1'35]
15.Junge Lieder II "Wenn um den Holunder"(にわとこの木に夕風が), Op.63-6 (フェーリクス・シューマン:詩) [2'11]
16.Salome(サロメ), Op.69-8 (ケラー:詩) [1'57]
17.Abendregen(夕べの雨), Op.70-4 (ケラー:詩) [5'09]
18.Therese(テレーゼ), Op.86-1 (ケラー:詩) [1'33]
19.Feldeinsamkeit(野の寂しさ), Op.86-2 (アルメルス:詩) [2'55]
20.Nachtwandler(夢にさまよう人), Op.86-3 (カルベック:詩) [3'11]
21.Über die Heide(荒野を越えて), Op.86-4 (シュトルム:詩) [1'58]
22.Versunken(思いに沈んで), Op.86-5 (フェーリクス・シューマン:詩) [1'57]
23.Bei dir sind meine Gedanken(私の思いはあなたの許で), Op.95-2 (ハルム:詩) [1'40]
24.Beim Abschied(別れの時に), Op.95-3 (ハルム:詩) [1'00]
25.Der Jäger(狩人), Op.95-4 (ハルム:詩) [1'12]
26.Da unten im Tale(あの下の谷の底では) (ドイツ民謡集より)[1'54]
27.Soll sich der Mond nicht heller scheinen(月はこれより輝かないで) (ドイツ民謡集より)[3'05]
28.Feinsliebchen, du sollst mir nicht barfuss gehn(可愛い人) (ドイツ民謡集より)[3'01]
29.Och Moder, ich well en Ding han!(お母さん、ほしいものがある) (ドイツ民謡集より)[2'16]
(上記の日本語訳は輸入会社の帯の表記による)
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英Hyperionレーベルの歌曲全集にあらたなシリーズが加わった。
ヨハネス・ブラームスの歌曲全曲!
これまでローデシア生まれの英国ピアニストのグレアム・ジョンソン(Graham Johnson: 1950-)が、このレーベルでシューベルト(全37巻)とシューマン(全11巻)の全歌曲録音という偉業を成し遂げ、それだけでも後世にまで残る優れた録音となったが、これからさらにブラームス全曲シリーズをスタートさせたのは楽しみだ。
シューベルト全集をスタートさせた当初は30代後半だったジョンソンも今年で60歳。
いまやベテランの域に達し、ますます磨きのかかった演奏を聴かせてくれるに違いない(余談だが、来年にはロットやボストリッジと共に来日してくれるようだ。生ジョンソンがとうとう聴ける!)。
シューベルトやシューマンとは異なり、ブラームス歌曲はこれまでにも他レーベルで全曲録音がされてきた。
DGでのノーマン&F=ディースカウ&バレンボイム(P)盤、そしてcpoでのバンゼ&フェアミリオン&アンドレアス・シュミット&ドイチュ(P)盤。
今回のHyperion盤はおそらく1枚ごとに歌手が代わるのだろうから、DGやcpoの全集とは違った趣の録音になるのだろう。
そのブラームス歌曲集の第1巻がリリースされたので、早速購入して聴いてみた。
歌手はリート歌手として旬の時期を迎えたオーストリアのメゾ、アンゲーリカ・キルヒシュラーガー。
全29曲が一見無造作に並べられているように感じられるが、作品48と作品86は出版された番号順にまとめて演奏され、そのほかの曲も作品番号の若い方から順に並べてあり、最後のブロックを簡素で美しい「ドイツ民謡集」の編曲からの抜粋で締めくくる。
メゾで歌うにふさわしい深みのある作品を、ブラームスの創作の流れに沿って体感できる、良く練られたプログラミングといえるだろう。
最初に「別れ」作品19-2と「異郷」作品19-3が演奏されるが、この2曲、共通の音楽的テーマが用いられた一対の作品群と位置づけられよう。
ブラームスはほかにも「雨の歌」と「残響」、「夏の夕べ」と「月の光」など、共通のテーマを用いた作品を歌曲集で連続して配置することがあり、まとめて演奏することを意識しているのであろう。
この巻にはブラームスの代表曲と言えるほど著名な作品も含まれている。
「永遠の愛」「恋人のもとへ」「わが恋は緑」「野の寂しさ」「あの下の谷の底では」などはブラームス歌曲初心者の方にはまず最初に聴いてみていただきたい名作である。
一方、あまり馴染みのない作品もここには多いが、そのどれもが心にしみる味わいを感じることが出来る。
ゲーテの詩による「たそがれが降りて来る」などはブラームスでなければ書けないような染み渡ってくる作品である。
もともと私はブラームス歌曲は大好きで、シューベルトに次いで好きなぐらい(ヴォルフと同じぐらい)なのである。
様々な歌手とピアニストがこれまで多くのブラームスの歌曲集を実演や録音で聴かせてくれたが、余程未熟でない限りはそれぞれの演奏を楽しんできたつもりだ。
今回のキルヒシュラーガーとジョンソンによる新たなブラームス歌曲集も、あらゆる方に堂々とお勧めしたくなる素晴らしく魅力的な演奏だった。
まず彼女の声が、これまでソプラノ寄りに感じられたのが、今回、メゾの深みを充分に味わわせてくれたこと。
これは彼女の声の成熟によるのだろう。
さらにこまやかさを増した表現力が、どんな小品にも生き生きとした息吹を与えている。
ピアノのジョンソンは相変わらず作品を知り尽くした演奏を聴かせてくれた。
彼の演奏は詩の言葉に反応した細やかさが特徴的で、それが作品に奥行きを与える場合と、「木を見て森を見ず」的な全体の流れを停滞させてしまう場合もあるが、今回は概して効果的な演奏になっていたように感じた。
このシリーズも、シューベルトやシューマンの時と同様にピアノのジョンソンが解説を執筆しているが、そこで新しい事実を知ることが出来た。
有名な「永遠の愛」の詩は、従来ヨーゼフ・ヴェンツィヒによるものとされてきたが、実際はファラースレーベンによるようだ。
今後のラインナップがどうなっているのか気になるが、それは楽しみに待つことにしよう。
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コメント
ベルクホーフでお名前を拝見しておりますが、こちらからは初の書き込みをさせて頂きます。ハイペリオンのブラームス全集! 楽しみですね。対訳が気になりますが…。
投稿: 田中文人 | 2010年9月 7日 (火曜日) 05時59分
私はこの夏、初めて、グラハムジョンソンのピアノと、彼のSchumann.Shubertをテーマとした講習会を聴講しました。かれのリートにおける見識はすばらしく、演奏してくださると、まるで時間が止まってしまうくらい、心を奪われるすばらしい演奏です。なにがすばらしいか、一言で言い尽くしませんが、長い間に愛情を込めて歌曲を弾き、その文学的背景、歴史的背景をまるで学者さんのように、たくさんの本を読んで研究して、しかも、作曲家がその歌曲に曲をつけたときに手にしていた、詩集もご自分で探して手にいられて、コレクションにされているとのことでした。そのかれの今までにかけてきている情熱が、音にでてきていて、作品が、生き生きとしてきます。人柄は、おだやかで、ちょっとばかり、ちゃめっけがあって、歌手とのコンサートや、リハーサルでのエピソードを語ってくださいますが、いたって自然な感じでした。チョコレートが大好きと、私が差し上げたプレゼントのチョコを受け取ってくださいました。
投稿: Morgenkind | 2010年9月 8日 (水曜日) 00時19分
田中様、はじめまして。
旅行中のため、コメントが遅れましてすみません(木曜日に帰宅予定です)。
今後ともよろしくお願いいたします。
ハイペリオンのブラームス、対訳はつかないようです(残念!)。
投稿: フランツ | 2010年9月 8日 (水曜日) 16時55分
Morgenkind様、はじめまして。
貴重なお話を有難うございます!
個人的にお知り合いとはすばらしいですね。
ジョンソンさんは甘党なのですね。
茶目っ気があるというお人柄、なんとなく演奏からもうかがえる気がします。
学者さん顔負けの博学さがこれみよがしにならず、自然な音楽になっているのが彼のすばらしいところだと感じています。
解説書によく掲載されている詩集の写真は、ジョンソンのコレクションなのかもしれませんね。
来年、フェリシティ・ロットと来日するようですので今から楽しみです。
投稿: フランツ | 2010年9月 8日 (水曜日) 16時59分
はじめまして。プライを検索していてこちらに辿り着きました。宜しくお願いしました。
キルヒシュラーガーのこのディスク魅力的ですよね。
有名曲も割と入っているし!
この3月のドイチュとのリサイタル今から楽しみです。
ジョンソンのシリーズはR・シュトラウスとF・リストが同時進行中で、先日ブラームスのVol.2はC.シェーファーとのインフォメーションが届いてます。
ジョンソンシリーズではあとはイタリア近代歌曲(レスピーギ、ピツェッティあたり)とりあげてくれないかなあと期待してます。
投稿: jin | 2011年2月23日 (水曜日) 09時49分
jinさん、はじめまして。
コメントを有難うございます。
キルヒシュラーガーは正統的なリート歌手として良い録音を続々出していますね。私ももうすぐ初めての実演を聴くのを楽しみにしています(ドイチュの演奏も久しぶりです)。
ジョンソンはハイペリオンの膨大な歌曲アンソロジーの録音でファンを大いに楽しませてくれましたね。もうすぐボストリッジと来日するのでこちらも楽しみです。そういえばイタリア物をジョンソンはあまり手がけていないようですね。個人的にはヴォルフ全集をつくってほしいです。
投稿: フランツ | 2011年2月23日 (水曜日) 20時52分