夏の音楽浴II 北村朋幹ピアノリサイタル(2010年8月1日 東京文化会館 小ホール)
夏の音楽浴II 北村朋幹ピアノリサイタル
2010年8月1日(日)14:00 東京文化会館 小ホール
北村朋幹(ピアノ)
武満徹/子どものためのピアノ小品(I.微風 II.雲)
武満徹/雨の樹素描 II ~オリヴィエ・メシアンの追憶に~
J.S.バッハ/イギリス組曲第3 番ト短調BWV.808
J.S.バッハ(F.ブゾーニ編)/シャコンヌ(ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV.1004より第5曲)
~休憩~
R.シューマン/子どもの情景Op.15
R.シューマン/幻想曲ハ長調Op.17
~アンコール~
R.シューマン/「3つのロマンス」より第2番Op.28-2
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東京文化会館の「夏の音楽浴」という2回にわたるシリーズの第2回を聞いた(第1回はチェリストの宮田大だが完売だったとのこと)。
北村を聴くのは3度目。
才能豊かなピアニストの演奏がどのように成長していくのかを体験するのは実に興味深い。
トッパンホールでのリサイタルと今回のプログラム構成は近く感じられた。
現代音楽ではじまり(武満は今年生誕80年の記念年)、バッハにさかのぼり、休憩後は生誕200年のシューマンを2曲。
「幻想曲ハ長調」は彼のリサイタルのプログラムに組まれることが多い。
今最も力を入れている作品なのだろう。
北村は、演奏前にハンカチで鍵盤を拭き、その後に若干気持ちを整えてから弾く。
曲のつながりも考慮しているようで、前半は武満から、バッハのイギリス組曲までを一気に演奏した。
その後に拍手を受けてから、長大な傑作「シャコンヌ」を演奏して前半を締めくくった。
最初の武満徹の「子どものためのピアノ小品」は本当にあっという間に終わる短い曲2曲から成る。
確かに分かりやすい音の運びと可愛らしい雰囲気は子供の教材を意識していると思われるが、ところどころに現代作曲家ならではのこだわりを感じさせた。
一方の「雨の樹素描 II」は音の色とタッチで細やかな味わいのある作品となっていた。
これらを北村は全くの余裕をもってしっかりと演奏していたと思う。
続くバッハの「イギリス組曲第3 番」は、よく動く指がポリフォニーの流れを見事に浮き立たせていて素晴らしかった。
いったん舞台裏にひっこんでから前半最後に弾かれた「シャコンヌ」は、その規模の壮大さから演奏者にも聴衆にもエネルギーを要求する。
印象的なテーマから、次々に展開されていく変奏を力強く表現した演奏にはただただ拍手をおくりたい。
後半はシューマンの2作品。
「子どもの情景」は昔から私にとって随分馴染みのある作品だが、実演でまとめて聴いたのははじめてかもしれない。
若者が等身大で弾くという趣の演奏はこれはこれで新鮮だった。
最後の「幻想曲」は北村の作品への愛情がひしひしと伝わってくるものだった。
北村は相変わらずテクニック的には全く危なげがないどころか、どんな難所も平然とこなす。
そして、その華奢な体に反して、音は肉付きがよく、非常に豊かに響く。
演奏は過去に聞いた印象と同様、「若さ」全開だった。
特に「間」のとり方は彼の感性の豊かさを感じる時と、流れの停滞を感じる時とが共存しているように感じた。
もちろんまだ二十歳にも満たないピアニストに完成を求めるつもりはない。
今だからこそのまっすぐな感性が生かされている演奏はとても貴重であり、その場に立ち会えて幸運ですらある。
これから経験を積むに従い、彼自身が感じたままの素直な発露から、自然と聴衆の心とも共感する演奏をする時がくれば、きっとさらに素晴らしくなるのであろう。
アンコールではシューマンの「3つのロマンス」より第2番が演奏された。
このような歌心に満ちた作品をレパートリーに選ぶ彼の今後にますます期待したいところである。
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