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フォレスター、レーフスの歌う「こどもの不思議な角笛」(キングレコード: VANGUARD: KICC 2051)

マーラー/歌曲集「こどもの不思議な角笛」
キングレコード: VANGUARD: KICC 2051
録音:1958年頃

モーリン・フォレスター(Maureen Forrester)(A)
ハインツ・レーフス(Heinz Rehfuss)(BSBR)
ウィーン交響楽団(Wiener Symphoniker)
フェリックス・プロハスカ(Felix Prohaska)(C)

マーラー(Mahler)/歌曲集「こどもの不思議な角笛(Des Knaben Wunderhorn)」

1.死んだ鼓手(Revelge)(レーフス)
2.浮き世の生活(Das irdische Leben)(フォレスター)
3.高い知性への賛歌(Lob des hohen Verstandes)(レーフス)
4.ラインの伝説(Rheinlegendchen)(フォレスター)
5.番兵の夜の歌(Der Schildwache Nachtlied)(レーフス)
6.だれがこの歌を作ったか(Wer hat dies Liedlein erdacht?)(フォレスター)
7.むだな骨折り(Verlor'ne Müh')(フォレスター)
8.少年鼓手(Der Tamboursg'sell)(レーフス)
9.不幸な時の慰め(Trost im Unglück)(レーフス)
10.トランペットが美しく鳴り響く所(Wo die schönen Trompeten blasen)(フォレスター)
11.魚に説教するパドヴァの聖アントニウス(Des Antonius von Padua Fischpredigt)(フォレスター)
12.塔の中の囚人の歌(Lied des Verfolgten im Turm)(レーフス)
13.原光(Urlicht)(フォレスター)

※上記の演奏者、曲名などの日本語表記はCDでの表記に従った。

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最近中古屋を見ていたら、偶然にも先日亡くなったカナダのコントラルト歌手フォレスターの歌った「こどもの不思議な角笛」のCDを見つけたので、早速購入して聴いてみた。
この録音、1959年にLPで発売された後しばらくして廃盤になり、その後1990年にCD化されるまで長く日の目を見ることがなかったらしい。
その事実が信じられないほど、歌唱もオケも明晰で味わいもあり素晴らしい演奏であった。

フォレスターの声はいぶし銀の光沢をもった低音で、メロディーラインがくっきりと描かれるので、マーラーの民謡の形を借りた歌がストレートに伝わってくる。
マーラーが意図したのはこういう歌い方ではなかっただろうかと思えるほど飾り気のない実直な歌いぶりがしっくりと作品と合っていた。
とりわけ「トランペットが美しく鳴り響く所」や「原光」のような静謐な作品において彼女はしっとりとした味わいを聴き手に感じさせてくれた。

ハインツ・レーフスといえばフランク・マルタンと共演したマルタンの「イェーダンマンからのモノローグ」が思い出されるが、リート歌手として数々の名演を残しているようだ。
ここでも実にめりはりのきいた発音と耳に心地よいハイバリトンが美しく響いていた。

プロハスカ指揮のウィーン交響楽団は実に色彩感豊かに各曲を彩っていく。
マーラーが各楽器に込めた意味合いをすべて丁寧に掬い上げようとしたかのような意欲が漲っていた。

今年はヴォルフと同年生まれのマーラーの生誕150年。
歌曲のリサイタルでも例年以上に選曲されているようだが、まだ「角笛」を生のオケ版で聴いたことがない。
いつか聴いてみたいものである。

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アントニー・ロルフ=ジョンソン(Anthony Rolfe-Johnson)逝去

SNSサイトの方の日記で知ったのだが、イギリスの名テノール、アントニー・ロルフ=ジョンソン(Anthony Rolfe-Johnson)が亡くなったそうだ(1940.11.5, Tackley, Oxfordshire – 2010.7.21)。
長いことアルツハイマーを患っていたそうだが、直接の原因についてはどのサイトにもはっきり記されていないようだ。

オペラや宗教曲で多くの名演を残していることはよく知られているだろうが、私にとってロルフ=ジョンソンというと、Hyperionのシューベルト歌曲全集第6巻で夜に因んだ作品を歌っていたCDが最も印象深い。
また、この全集の最終巻でも再び登場して歌曲集「白鳥の歌」の中のハイネ&ザイドル歌曲を担当していたのも思い出される。
先日のラングリッジといい、今回のロルフ=ジョンソンといい、シューベルト歌曲全集で知った歌い手が続々と去っていくのは寂しいことだ。

合掌

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シューベルト歌曲全集6(The Hyperion Schubert Edition - 6)
「夜のシューベルト(Schubert & the Nocturne I)」

ミュージック東京: Hyperion: NSC156 (CDJ33006)
録音:1989年9月29-30日, Rosslyn Hill Unitarian Chapel, Hampstead, London, United Kingdom

アントニー・ロルフ・ジョンスン(Anthony Rolfe-Johnson)(テノール)
グレアム・ジョンスン(Graham Johnson)(ピアノ)

3&16
with Alan Armstrong(T) Jason Balla(T) Mark Hammond(T) Philip Lawford(T) Arthur Linley(T) Richard Edgar-Wilson(T)
David Barnard(BR or BS) David Beezer (BR or BS) Duncan Perkins(BR or BS) James Pitman(BR or BS) Christopher Vigar(BR or BS)

シューベルト作曲
1~2.夜(Die Nacht)D534('Ossian' translated by Harold)(completed by Anton Diabelli)(8'28/4'58)
3.狩の歌(Jagdlied)D521(Werner:詩)(1'34)
4.夕星(Abendstern)D806(Mayrhofer:詩)(2'45)
5.夕暮れにぼだい樹の木の下で(Abends unter der Linde)(第1作)D235(Kosegarten:詩)(2'41)
6.夕暮れにぼだい樹の木の下で(Abends unter der Linde)(第2作)D237(Kosegarten:詩)(4'37)
7.揺りかごのなかの子供(Der Knabe in der Wiege 'Wiegenlied')(第1稿)D579(Ottenwalt:詩)(3'50)
8.はるかな恋人に寄す夕べの歌(Abendlied für die Entfernte)D856(August Wilhelm von Schlegel:詩)(8'23)
9.逢瀬と別れ(Willkommen und Abschied)(第1稿)D769(Goethe:詩)(3'31)
10.これがわたしの揺りかごだった(Vor meiner Wiege)D927(Leitner:詩)(5'31)
11.子供を抱く父(Der Vater mit dem Kind)D906(Bauernfeld:詩)(4'34)
12.漁夫の愛の幸せ(Des Fischers Liebesglück)D933(Leitner:詩)(7'19)
13.星(Die Sterne)D939(Leitner:詩)(3'30)
14.アリンデ(Alinde)D904(Rochlitz:詩)(4'44)
15.リュートに寄す(An die Laute)D905(Rochlitz:詩)(1'35)
16.お休みの挨拶(Zur guten Nacht)D903(Rochlitz:詩)(3'52)

(日本語表記はCD付属の日本語帯に従った)

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ロルフ・ジョンソンの歌は基本的に言葉の内容を丁寧なディクションで、細やかな声色、表情を加えて表現していくというものである。
絞り込んだ弱声や声の粘りの使用など、ネイティヴの人とは異なる視点から詩を表現していく。
また、聴くほどに味わいを増していく人間味あふれた歌でもあった。
イギリス歌曲も含めて、彼の遺してくれた録音にこれからも耳を傾けてみようと思う。

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アルミンク&新日本フィル/第464回定期演奏会(2010年7月24日 サントリーホール)

新日本フィルハーモニー交響楽団
第464回定期演奏会
2010年7月24日(土)14:00 サントリーホール(2階RD5列9番)

イルディコ・ライモンディ(Ildiko Raimondi)(ソプラノ)
小山由美(Yumi Koyama)(アルト)
ベルンハルト・ベルヒトルト(Bernhard Berchtold)(テノール)
初鹿野 剛(Takeshi Hatsukano)(バス)

栗友会合唱団(Ritsuyukai Choir)
栗山文昭(Fumiaki Kuriyama)(合唱指揮)

新日本フィルハーモニー交響楽団(New Japan Philharmonic)
クリスティアン・アルミンク(Christian Arming)(指揮)

ブラームス(Brahms)/悲歌(Nänie) op.82

R.シュトラウス(R.Strauss)/4つの最後の歌(Vier letzte Lieder)
 春
 九月
 眠りにつこうとして
 夕映えの中で

~休憩~

ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲(Variationen über ein Thema von Joseph Haydn) op.56a

ブルックナー(Bruckner)/テ・デウム ハ長調(Te deum)

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猛暑の中、サントリーホールでアルミング指揮新日本フィルの定期演奏会を聴いてきた。
声楽曲が大半を占め、オケ曲も2台ピアノ版で馴染み深いブラームスの「ハイドン変奏曲」だったので、プログラムに惹かれてチケットをあらかじめ買っていた。
ソリストは当初予定されていたソプラノのインガー・ダム=イェンセンが来日できず、イルディコ・ライモンディが代役をつとめた(素晴らしい歌唱だった!)。

最初のブラームス「悲歌」では合唱団も喪服のような黒い衣装で舞台後方に並んだ。
サントリーホールはやはり響きがよいのだろう、2階の最後列で聴いていても、ドイツ語特有の摩擦音がはっきりと聞こえてくる。
シラーの詩は"Auch das Schöne muss sterben!(美しきものも滅びねばならぬ!)"ではじまるが、この"Schöne"や"sterben"の「シュ」という音がはっきりと全面に出て聴こえてきたのは、ライヴならではと感じた。
ブラームス親友の画家の死を悼んで書かれた作品とのことだが、暗さよりも、むしろ安らかな眠りを祈るような曲調であり、演奏も美しかった。

その後にソプラノのライモンディが登場してR.シュトラウスの「4つの最後の歌」が歌われたが、私は年を重ねるにつれてますますこの歌曲集が大好きになってきた。
普段はシュトラウスの音楽と相性が悪い私なのだが、この歌曲集と「ティル・オイレンシュピーゲル」だけは本当に素晴らしいと感じるのだ。
ライモンディは細くて美しい声をもち、非常に細やかな表現を聞かせ、まさにリート向きの歌を聴かせる。
時にその声がオケに埋もれてしまうことはあっても、音楽の流れは決して途切れず、非常に胸を打つ歌唱だった。
より著名な歌手でもこれほど感銘を受けることはそうないかもしれない。
アルミングは最初の「春」で楽天的なあっけらかんとした響きを出していたので、ちょっと曲のイメージと違うなと思っていたら、後の曲ではテキストに合わせた深みを込めていて、良くなってきた。
「眠りにつこうとして」でのヴァイオリンソロ、「夕映えの中で」でのフルートによるヒバリの鳴き声なども素晴らしかった。

後半のブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」は、ハイドンのディヴェルティメント第6番からその主題がとられたが、これはハイドンのオリジナルではなく、賛美歌なのだそうだ。
主題と9つの変奏がブラームスらしい重厚な書法で多彩に展開していく。
各変奏をアルミングはちょっとした合間をあけて続けていくが、新しい変奏のスタートで必ずアルミングの鼻息が聞こえるのは、これも指揮のテクニックの一つなのだろうか。

最後のブルックナー「テ・デウム」はさきほどのライモンディ、栗友会合唱団のほかに、アルトの小山由美、テノールのベルヒトルト、バスの初鹿野剛が加わり、コンパクトながら印象的な音楽が紡がれていく。
合唱は前半の「悲歌」とは対照的に力強さを全面に押し出したもので素晴らしかった。
独唱陣もそれぞれ見事な歌いぶりを示した。
ライモンディは声も温まってきたのだろう、シュトラウスの時よりもより声が通るようになっていたし、ベルヒトルトはちょっとくすんだ声ながらテノールパートを美しく表現していた。
アルトの小山は縁の下の力持ちとして美しく支えていたし、バスの初鹿野は特にアンサンブルにおいて重厚感のある恵まれた低音で魅了した。

様々な名曲をまとめて聴くことが出来て充実したコンサートだった。
アルミングの選曲の妙にも拍手を贈りたい。

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ヴォルフ/俺たちゃみんな酔っ払わなくちゃ!(Trunken müssen wir alle sein!)

Trunken müssen wir alle sein!
 俺たちゃみんな酔っ払わなくちゃ!

Trunken müssen wir alle sein!
Jugend ist Trunkenheit ohne Wein;
Trinkt sich das Alter wieder zu Jugend,
So ist es wundervolle Tugend.
Für Sorgen sorgt das liebe Leben,
Und Sorgenbrecher sind die Reben.
 俺たちゃみんな酔っ払わなくちゃ!
 若さとはワインなしで酩酊すること。
 老いたら若返るために酒を飲む。
 このように素敵な効能があるのだ。
 人生では心配事に気を揉んでは、
 憂さ晴らしにワインを飲むというわけ。

Da wird nicht mehr nachgefragt!
Wein ist ernstlich untersagt.
Soll denn doch getrunken sein,
Trinke nur vom besten Wein!
Doppelt wärest du ein Ketzer
In Verdammnis um den Krätzer.
 それならもう聞かないでくれ!
 ワインは厳格に禁止されているのだ。
 それでも飲みたいというのなら
 最高級のワインだけを飲め!
 さもないと二重の意味で劫罰を受ける異端者となってしまうぞ、
 安物のワインを飲んだかどで。

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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ヴォルフ作曲の歌曲集「ゲーテの詩」の第35曲。
1889年1月18日夕方, Döbling作曲。

ゲーテの「西東詩集(West-östlicher Divan)」の"Schenkenbuch"に含まれる詩による。

この歌曲をはじめて聴いたのは、F=ディースカウとバレンボイムによる録音だったが、私にとっては本当に衝撃的だった。
歌もピアノも乱痴気騒ぎに徹して、最初から聴き手を興奮の渦に巻き込んでしまう。
こういうタイプの歌曲はヴォルフによってはじめて聴くことの出来るタイプの作品だった。
瞬発力とリズムの切れが歌手にもピアニストにも求められるため、そう頻繁に聴くことが出来ないのが残念である。

Bacchantisch(酔っ払って)
8分の6拍子 - 4分の2拍子 - 8分の6拍子
嬰ヘ短調
全82小節
歌声部の最高音:2点嬰ヘ音
歌声部の最低音:1点嬰ホ音

動画サイトでは今のところ以下の1件のみ見つかった。

Reina Boelens & Vaughan Schlepp
この曲の女声による歌唱は珍しい。
歌の入りを間違えてはいるが、全体的に魅力的な演奏。

シュライアーとサヴァリッシュによる録音がかなり良かったので機会があればぜひ!

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ベルリオーズ/ファウストの劫罰(2010年7月17日 東京文化会館)

東京二期会オペラ劇場
ベルリオーズ(Berlioz: 1803-69)/「ファウストの劫罰(La damnation de Faust)」

4部からなる劇的物語
字幕付原語(フランス語)上演
原作:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ「ファウスト」
台本:エクトール・ベルリオーズ、アルミール・ガンドニエール、ジェラール・ドゥ・ネルヴァル
作曲:エクトール・ベルリオーズ

2010年7月17日(土)14:00 東京文化会館(5階L1列14番)

ファウスト:福井敬(FUKUI, Kei)(T)
マルグリート:小泉詠子(KOIZUMI, Eiko)(MS)
メフィストフェレス:小森輝彦(KOMORI, Teruhiko)(BR)
ブランデル:佐藤泰弘(SATO, Yasuhiro)(BS)

メインダンサー:白河直子(SHIRAKAWA, Naoko)
ダンサー:木戸紫乃、斉木香里、泉水利枝、池成愛、野村真弓

合唱:二期会合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:ミシェル・プラッソン(Michel PLASSON)

演出・振付:大島早紀子(OSHIMA, Sakiko)
装置:松井るみ
衣裳:太田雅公
照明:沢田祐二

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ベルリオーズの「ファウストの劫罰」をオペラ化して上演した二期会公演を聴いてきた。
なお、当初マルグリート役に出演予定だった林美智子は体調不良のため、小泉詠子に変更された。

オペラをコンサート形式で上演するというのはよくあるが、逆にコンサート作品をオペラとして上演するというのは珍しいのではないか。
確かにゲーテの「ファウスト」の仏訳を基にしたこのベルリオーズの作品は各登場人物に歌が割り当てられ、要所要所でストーリーを追えるようにはなっている。
ただ、オペラ的な発想で作られていないため、登場人物同士のやりとりによるドラマの展開といった点ではどうしても限界がある。
今回、二期会が「ファウストの劫罰」をオペラとして上演するために考えたのが、ダンスを大幅に取り入れるということだった。
確かにドラマの展開を歌手によって伝える箇所が限られているこの作品において、その隙間を埋めると同時にさらに上演の説得力を増す意味でダンスは大きな役割を果たしていた。
演出に女性ダンスカンパニー、H・アール・カオス主催の大島早紀子を起用したのも、この作品のオペラとしての上演にとって意味のあることだったと感じた。

休憩25分をはさんで、第1、2幕で1時間弱、第3、4幕で1時間強という長大な規模の作品が、視覚的な要素を加えることによってその長さを意識させなかったのは確かだった。

ダンサーたちは階段を転げ落ちたり、椅子を使ったりしながら、きびきびとしたダンスで状況や心理状態を表現する。
長い裾を引き摺りながらのダンスは大変だったにちがいない。
宙吊りになったり、張られた糸の上を急速に渡るといったアクロバティックな見せ場もあり、その身体能力にまず驚かされるが、それだけでなく、伝えようという意思が感じられるのが素晴らしかった。
時にそのきびきびした動きが必ずしも場面に合っていないかなと感じるところもあったが、総じて、このオペラ化作品の成功に大きく寄与していたと言っていいだろう。

歌手では、まずファウスト役の福井敬が素晴らしい。
伸びやかな声といい、感情表現の力強さといい、ベルリオーズの魅力をしっかり伝えてくれた。
ただ、福井さんはフランス語で歌っているはずなのに、イタリアオペラを聴いているような印象を受けたのは、彼の声質によるのだろうか。

メフィストフェレス役の小森輝彦の悪役ぶりも実に巧妙で見事の一言。
歌も演技も素晴らしかった。

急遽マルグリートという大役をつとめることになった小泉詠子はメゾソプラノとしての深みがありつつ、それが決して重くならず、清澄さすら感じさせたのは聴いていて気持ちよかった。
声はどの音域もよく通り、歌の内容もしっかり把握していて、カヴァーとしてしっかり準備していたことを感じさせた。
演技は今後場数を踏むことでさらに磨かれていくことだろう。

ミシェル・プラッソン指揮の東京フィルは、ベルリオーズの音楽の色彩感や劇性の表出よりも、丁寧に情景を描くことを目指していたように感じた。
合唱は時にオケとずれることもあったが、総じてよく歌っており、特にアウエルバッハの酒場の場面は細かい演技もこなし、楽しかった。

聴き終わってベルリオーズの音楽の素晴らしさを感じることが出来て、よい体験となった。

最後のマルグリートが昇天する場面は視覚的に非常に美しく印象に残るものとなった。
大島早紀子の感性のなせる技だろうか。

Berlioz_la_damnation_de_faust_2010

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長島剛子&梅本実&國土潤一/生誕200年のシューマン(2010年7月16日 川口リリア 催し広場)

リリア歌の花束 第1夜 生誕200年のシューマン
2010年7月16日(金)19:00 川口リリア 催し広場(自由席)

國土潤一(お話)
長島剛子(S)
梅本実(P)

シューマン作曲

ミルテの花 作品25より(Aus "Myrten")
 1.献呈
 3.くるみの木
 4.ある人
 7.はすの花
 9.ズライカの歌

 11.花嫁の歌(1)
 12.花嫁の歌(2)
 21.孤独な涙
 23.西の方に
 24.きみは花さながらに
 26.エピローグ

~休憩~

女の愛と生涯 作品42(Frauenliebe und Leben)
 あの方にお会いしてから
 だれよりもすてきなあの方
 わたしにはわからない、信じられない
 わたしの指にはまった指輪よ
 妹たちよ、手伝ってね
 あなた、ごらんになって
 わたしの胸に抱かれている
 今初めての苦痛をお与えになって

~アンコール~
シューマン/春だ(Er ist's)

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「リリア歌の花束」というシリーズはこの数年毎年リリアで企画されているそうだが、私は今回はじめて聴いた。
川口リリアは普段は音楽ホールやメインホールのコンサートを聴いてきたが、「催し広場」ははじめて。
段差のつけられた小さな空間で、ステージは最前列以外は客席から見下ろす形となる。
音響は必ずしも良いとは言えず、本当にイベントのための小空間といった感じである。
しかし、歌曲のコンサートにおいて、このこじんまりとしたスペースはある意味理想的と言えるだろう。
シューマンの歌曲などはもともとサロンなどで歌われていた作品なので、本来に近い形で聴けたということになるのだろう。

さて、この催しは音楽評論でよく名前を見かけ、声楽家でもある國土潤一氏によるレクチャーコンサートの形をとっていた。
最初に國土氏が登場して、今年の「リリア歌の花束」の全3回のシリーズのテーマを記念年の作曲家の作品でまとめたという話にはじまり、ローベルトとクラーラのシューマン夫妻の結婚前後の恋文をいくつか朗読しながら、分かりやすくかみくだいてシューマン歌曲について解説していた。
その話術は巧みで場慣れしているように感じられた。
ユーモアをまじえながらリラックスした雰囲気で語られる話の内容は充実していながら初心者にも配慮したものだった。
欲を言えば若干早口になる傾向があったので、固有名詞などはもっとゆっくり話した方があまり馴染みのない人にも親切だったかもしれない。

話の後に演奏を担当したのはソプラノの長島剛子とピアニストの梅本実で、ご夫婦だそうである。
「リートデュオ」という看板で数多くのコンサートを行ってきたそうで、19世紀後半から20世紀の作品を得意にされているようなので、シューマンの歌曲は彼らにとってむしろレアなレパートリーということになるのかもしれない。
ソプラノの長島さんはリリカルな清澄さをもっていながら深みも兼ね備えた奥行きのある歌唱をしていた。
この日は体調があまり良くなかったそうで、確かに弱声では不安定さが感じられたが、強く響かせると魅力的な歌声が会場を満たした。
また、ピアノの梅本さんが細やかな表情をもってテンポ感もよく、実に素晴らしい演奏を聴かせてくれた。

「ミルテの花」にしても「女の愛と生涯」にしても、クラーラの父親と裁判沙汰になりながらもようやく結婚を勝ち取った1840年、いわゆる「歌の年」に作られただけに、シューマン自身のプライベートな心情が反映されていると見て間違いないだろう。
クラーラへの熱烈な愛がローベルトの歌曲創作の原動力になって、これらの愛の歌の数々が生み出された。
幸せな将来への期待感と、立ちはだかる障害に対する不安感がないまぜになって、これらの歌曲に独特の奥行きを与えたのだろう。
シューマネスクなピアノパートも含めて、シューマン歌曲の美しいメロディーの絡み合いを満喫できた一夜となった。

Lilia_uta_no_hanataba_2010

このシリーズの第2回はヴォルフとマーラーが予定されている。
こちらも都合がつけば出かけたいと思う。

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カウネ&ケーリング/シューマン歌曲集(Berlin Classics: 0115202BC)

Robert Schumann Lieder(ローベルト・シューマン歌曲集)

Kaune_kehring_schumann

BERLIN Classics: 0115202BC
録音:2005年8月26-30日, Deutschlandfunk Sendesaal

Michaela Kaune(ミヒャエラ・カウネ)(S)
Burkhard Kehring(ブルクハルト・ケーリング)(P)

シューマン(Robert Schumann: 1810-1856)作曲

Frühlingslust, Op.125-5(春の楽しみ)

"Lieder der Mignon,  Op.98a"(ミニョン歌曲群)
Kennst du das Land? Op.98a-1(あの国を御存知ですか)
Nur wer die Sehnsucht kennt, Op.98a-3(ただ憧れを知る人だけが)
Heiß mich nicht reden, Op.98a-5(語らなくてよいとおっしゃって下さい)
So laßt mich scheinen, Op.98a-9(このままの姿でいさせて下さい)

"Sieben Lieder von Elisabeth Kulmann, Op.104"(「エリーザベト・クールマンの詩による7つの歌」)
Mond, meiner Seele Liebling(月、わが魂のお気に入りよ)
Viel Glück zur Reise, Schwalben!(よい旅を、つばめたち!)
Du nennst mich armes Mädchen(私を貧しい娘だと言うのね)
Der Zeisig(まひわ)
Reich mir die Hand, O Wolke(私に手をのばして、おお雲よ)
Die letzten Blumen starben(最後の花々が枯れてしまった)
Gekämpft hat meine Barke(わが小舟は奮闘した)

"Gedichte von Der Königin Maria Stuart, Op.135"(「メアリー・ステュアート女王の詩」)
Abschied von Frankreich(フランスからの別れ)
Nach der Geburt ihres Sohnes(御子の生誕後)
An die Königin Elisabeth(エリザベス女王に)
Abschied von der Welt(この世からの別れ)
Gebet(祈り)

Blume der Ergebung, Op.83-2(忍従の花)

"Frauenliebe und -leben, Op.42"(「女の愛と生涯」)
Seit ich ihn gesehen(あなたとお会いしてからというもの)
Er, der Herrlichste von allen(彼は、あらゆる中で一番素敵な方)
Ich kann's nicht fassen, nicht glauben(私には分からない、信じられない)
Du Ring an meinem Finger(私の指にはめた指環よ)
Helft mir, ihr Schwestern(手伝って、姉妹たち)
Süßer Freund, du blickest(素敵な友よ、あなたはご覧になります)
An meinem Herzen, an meiner Brust(わが心に、わが胸に)
Nun hast du mir den ersten Schmerz getan(今あなたは私にはじめて苦痛をお与えになりました)

Schneeglöckchen, Op.79-26(ゆきのはな)

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馴染みの薄い若い歌手の新譜CDが出た時、余程ほかに惹き付けられる要素(例えば選曲やピアニスト)がない限りなかなか手が出なくなってしまった。
そんなわけで最近の歌手にはすっかり疎くなってしまったが、たまたま中古屋を物色していて安価で売られていると、そういう類にも手が伸びる。
そのようにして手にしたこのCDは私にとって「大当たり」であった。

ハンブルク出身のソプラノ、ミヒャエラ・カウネという歌手がピアニストのブルクハルト・ケーリングと組んで録音したシューマン歌曲集。
女声にふさわしい選曲というだけにとどまらず、珍しい作品(冒頭の「春の楽しみ」や、夭折した女性クールマンの詩による7曲)も織り交ぜた意欲的な内容になっている。

カウネの声はリートを歌うのにふさわしい語り口の細やかさと色合いの豊かさが感じられる。
それがシューマンの内面性を理想的に描き出すことに成功しているように思った。
そしてリリカルな声は繊細で美しい。
ミニョン歌曲群やメアリー・ステュアート歌曲集での悲痛な感情表現、エリーザベト・クールマン歌曲集でのバラエティに富んだ曲調へのぴったり寄り添った対応力、そして「女の愛と生涯」での噛んでふくめるような語り口の見事さなど、カウネのリート歌手としての適性が充分に感じられる録音となっていた。

なお、彼女は今年新国立劇場の「アラベッラ」でタイトルロールを歌うようだ。
実はチケットを買ったのだが、先に買っておいたほかの公演とダブルブッキングしてしまったので残念だがあきらめることにした。

ブルクハルト・ケーリングはおそらくまだ中堅の入り口に立ったところといったピアニスト。
ラルフ・ゴトーニ、ゲアノート・カール、ハルトムート・ヘル、マーティン・カッツといった錚々たる歌曲ピアニストたちのもとで学んでいる。
F=ディースカウがDGに録音した朗読とピアノのためのメロドラマ集(シューマンやリスト、R.シュトラウス「イノック・アーデン」など)で共演していたのが印象に残っている。
この録音でも安定したテクニックと快適なテンポ感でカウネとの緊密なアンサンブルを築いていた。
特にある声部を浮き立たせて面白い効果をあげている箇所もあり印象的だった。

シューマンイヤーにじっくり聴くのにふさわしい素敵なCDだった。
なお、私が入手したCDは実は再発されたもののようで、オリジナルではローベルトとクラーラ夫妻の手紙のやりとりも朗読されているようだ。

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