ツィメルマン/ピアノ・リサイタル(2010年6月3日 サントリーホール)
クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル
2010年6月3日(木) 19:00 サントリーホール(P2列11番)
クリスチャン・ツィメルマン(Krystian Zimerman)(ピアノ)
ショパン/ノクターン第5番 嬰ヘ長調 Op.15-2
Chopin / Nocturne in F-sharp major, Op.15-2
ショパン/ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 「葬送」
Chopin / Piano Sonata No.2 in B-flat minor, Op.35
ショパン/スケルツォ第2番 変ロ短調 Op.31
Chopin / Scherzo No.2 in B-flat minor, Op.31
~休憩~
ショパン/ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
Chopin / Piano Sonata No.3 in B minor, Op.58
ショパン/舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
Chopin / Barcarolle in F-sharp major, Op.60
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「葬送行進曲」の中間部のなんと美しいカンタービレ!
楽器がいいのか、演奏者がいいのか、ホールがいいのか、おそらくそのすべてだろうが、こんなに美しい音がピアノから出るのかと感動しながら息をひそめて聞き入ってしまった。
ポーランドの名手ツィメルマンの実演をはじめて聴いてきた。
ショパンイヤーに合わせて、プログラムもオール・ショパン。
しかも様々なジャンルから最もよく知られた作品ばかりを並べた堂々たる選曲。
余程自信がないと組めないようなポピュラリティのあるプログラミングである。
サントリーホールのP席(ステージの後ろ側)に久しぶりに座ったが、歌ものと違ってピアノの場合はそれほど音響的に不自由さを感じなかった。
手元は見えないが、足がよく見える席だったので、ペダリングがはっきり分かり、時に右足のかかとを浮かしたままペダルを踏む様子などなかなか興味深かった。
Op.9-2に次いで人気のあるノクターン第5番ではじまったが、姿勢よく、端正な演奏で、早くもほぼ満席の聴衆の心をつかんだように思った。
音がきつ過ぎず、フォルテでもまろやかさをもって芯のある響きを聞かせる。
その音づくりの魅力がツィメルマンの美質の一つであるように感じた。
続くソナタ第2番も端正な中に豊かな音楽を響かせる。
極端に走らず、自己陶酔することもなく、適度なコントロールをしながらもしっかり歌わせる。
実際、ツィメルマンのもらす声が低く聴こえてくることさえあったが、最近は演奏者自身が弾きながらもらす声も特に珍しいものではなくなった。
第3楽章の「葬送行進曲」と第4楽章は間をおかずに続けて演奏されたが、第4楽章がこれほど説得力をもって聴けたのはなかなか無いことだった。
適度なペダルの使用で不可思議なユニゾンのスケールに息吹が吹き込まれた感じだった。
前半最後の有名な「スケルツォ第2番」は、早めのテンポでスケルツォらしい戯れの感じられる演奏だった。
後半の「ソナタ第3番」はもはや安心してツィメルマンの演奏に身をゆだねて聴けた。
「舟歌」の穏やかな始まりから徐々に盛り上がっていく様も良かった。
ものすごい熱烈な拍手とブラボーの嵐で何度もステージに呼び戻されたが、スターピアニストのコンサートというのはこういう雰囲気なのだろう。
アンコールはなかったが、「スケルツォ第2番」と「舟歌」が前後半それぞれのアンコール代わりと見ることも出来そうだ。
タッチの美しさが印象に残り、ショパンの音楽をじっくり堪能できた一夜だった。
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コメント
素敵な記事をありがとうございました。ツィメルマンがショパンコンクールで優勝した頃から,私も大ファンのひとりでした。非の打ち所のないショパン演奏ができるひとりだと思います。今回のフランツさんのブログは,プログラム編成やペダルの踏み方,音の美しさまで伝わる生きたレポートだったと思います。
投稿: goethe-schubert | 2010年6月 6日 (日曜日) 22時00分
goethe-schubertさん、こんばんは。
こちらこそコメントを有難うございました。
当日の様子が少しでもお伝えできたとしたら嬉しいです。
ショパンコンクールというのはピアニストにとっても愛好家にとっても特別な位置を占めているようですね。ブーニンや小山実稚恵の入賞の頃の盛り上がりを思い出しました。
ツィメルマンもショパンコンクールの覇者とのことですでにベテランの域に達しようとしている感じですが、スターとしてのオーラを感じつつも誠実に作品に接していたのが何とも好印象でした。
投稿: フランツ | 2010年6月 6日 (日曜日) 22時22分