フォーレ全歌曲連続演奏会Ⅲ(2010年5月26日 東京文化会館 小ホール)
日本フォーレ協会創立20周年記念 フォーレ全歌曲連続演奏会Ⅲ
-日本フォーレ協会第ⅩⅩⅡ回演奏会-
2010年5月26日(水) 19:00 東京文化会館 小ホール(全自由席)
フォーレ(Fauré: 1845-1924)作曲
ヴォカリーズ(Vocalise étude)
贈物(Les présents) Op.46-1
月の光(Clair de lune) Op.46-2
口づけをしたから(Puisque j'ai mis)(未出版曲)
三林輝夫(Teruo Sanbayashi)(T)、井上二葉(Futaba Inoue)(Pf)
涙(Larmes) Op.51-1
墓地で(Au cimetière) Op.51-2
憂鬱(Spleen) Op.51-3
ばら(La rose) Op. 51-4
坂本知亜紀(Chiaki Sakamoto)(S)、ローラン・テシュネ(Laurent Teycheney)(Pf)
「シャイロック(Shylock)」より
歌(Chanson) Op.57-1
マドリガル(Madrigal) Op.57-3
根岸一郎(Ichiro Negishi)(Br)、柴田美穂(Miho Shibata)(Pf)
「ヴェネチアの5つの歌(Cinq mélodies "De Venise")」 Op.58
マンドリン(Mandoline) Op.58-1
ひそやかに(En sourdine) Op.58-2
グリーン(Green) Op.58-3
クリメーヌに(A Clymène) Op.58-4
やるせない夢見心地(C'est l'extase langoureuse) Op.58-5
小宮順子(Yoriko Komiya)(S)、井上二葉(Pf)
不滅の香り(Le parfum inpérissable) Op.76-1
アルペジオ(Arpège) Op.76-2
牢獄(Prison) Op.83-1
夕べ(Soir) Op.83-2
石井惠子(Keiko Ishii)(S)、柴田美穂(Pf)
~休憩~
金色の涙(Pleurs d'or) Op.72
石井惠子(S)、根岸一郎(Br)、柴田美穂(Pf)
シシリエンヌ(Sicilienne) Op.78
幻想曲(Fantaisie) Op.79
三上明子(Akiko Mikami)(Fl)、ローラン・テシュネ(Pf)
「閉ざされた庭(Le jardin clos)」 Op.106(全8曲)
Ⅰ.願いの聞き入れられんことを
Ⅱ.あなたに目を見つめられると
Ⅲ.春を告げる使い
Ⅳ.あなたの心に身を委ねましょう
Ⅴ.ニンフの神殿で
Ⅵ.薄明のなかで
Ⅶ.愛の神よ、私にとって大切なもの、それは目隠し
Ⅷ.砂の上の墓碑銘
林裕美子(Yumiko Hayashi)(S)、井上二葉(Pf)
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昨年7月よりスタートしたフォーレ全歌曲連続演奏会も今回で3回目。
今回もベテランから若手まで様々な世代、様々な個性の歌手、ピアニストたちによってフォーレ中期の歌曲を中心に演奏された。
考えてみると、普段フォーレの歌曲をステージで聴く機会というのはかなり少ない。
そういう意味で、この連続演奏会は貴重な機会であると同時に、フォーレの音楽の素晴らしさを堪能させてくれるまたとないチャンスである。
そして、今回もまた最初から最後まで一貫して素晴らしい音楽と演奏を心ゆくまで楽しむことが出来て大満足だった。
特に未出版曲の「口づけをしたから(Puisque j'ai mis)」というヴィクトル・ユゴーの詩による作品をはじめて聴くことが出来たのは貴重だった。
1862年作曲というからごく初期の作品であり、実際に演奏を聴いてみても細かいピアノ音型の上を素朴な歌が流れていくという印象である。
フォーレが出版しなかったのもなんとなく分かる気もするが、なにはともあれ珍しい作品に接することが出来て良かった。
今回配布された歌詞の日本語訳付きパンフレットの土屋良二氏作成のフォーレ歌曲リストの分類によると、この日に演奏された作品は全4期中第3期の作品が中心で、それに第4期の歌曲集「閉ざされた庭」が加わっている。
若かりし頃の流麗で親しみやすい旋律に比べると、旋法的な独特な旋律の流れと、最低限の簡素なピアノパートによって徐々に渋みを増してきた。
特に歌曲集「閉ざされた庭」は何度か聴いて、こちらから歩み寄って行かないと、なかなかその良さが分からない晦渋さがある。
しかし、そういう歩み寄りの結果、きっと晩年のフォーレが心を開いてくれるような予感がする。
やはり「月の光」は際立って美しい作品である。
ピアノ曲に歌声のオブリガートが乗っかっているというようなことが良く言われるが、ヴェルレーヌのテキストがそのような音楽を求めているようにも思える。
なお、こういう機会でもないとなかなか聴くことの出来ない二重唱曲「金色の涙」が歌われたのも良かった。
おのおのの演奏に対する私の所感は以下のとおり(演奏順)。
三林輝夫(T)、井上二葉(Pf)
歌はリリカルな美しい声で真摯な表現が素晴らしかった。
ピアノは大ベテランだが、妥協のない引き締まった音楽と、衰えを知らぬテクニックの冴えは驚くほどで、大変感銘を受けた。
坂本知亜紀(S)、ローラン・テシュネ(Laurent Teycheney)(Pf)
歌は非常に素直で清潔感のある声だが、「涙」のようなドラマティックな曲にもよく同化していて良かった。
ピアノは音の濁りもものともせず骨太な演奏だった。日本人のピアニストとの個性の違いが印象的だった。
根岸一郎(Br)、柴田美穂(Pf)
歌はヴィブラートの少ないユニークな声で洒脱な登場人物になりきって歌っていたと思う。
北とぴあのオペラで何度か聴いたが、歌曲もとても合っていると感じた。
柴田さんのピアノは非常に安定していて、音色もまろやかで美しく粒が揃っていて、非の打ちどころがなかった。
優れた歌曲ピアニストとして名前を覚えておこう。
小宮順子(S)、井上二葉(Pf)
声量が豊かで、ソプラノだが厚みもあり、様々なタイプの曲に対応できる歌手だと思った。
ピアノは変幻自在な音色にまたまた驚かされ、特に「クリメーヌに」での演奏はピアノに耳を奪われっぱなしだった。
石井惠子(S)、柴田美穂(Pf)
この歌手は今晩の出演者の中でもとりわけ優れていたと思った。
どの声域でもかすれたり弱くなったりすることが一切なく、常に熟達した豊かな音楽が表現されていて、素晴らしい歌手だった。
三上明子(Fl)、ローラン・テシュネ(Pf)
フルートの音色は高く澄んでいるのだが、若干ハスキーな響きも混ざっている。
その響きは人の声を想起させる気がした。
ピアノは歌手との共演の時よりも自在さが増し、より対等に主張していた。
フォーレの名作2曲を素晴らしい演奏で堪能した。
それにしても「シシリエンヌ」は何度聴いてもノスタルジックな感傷にひたってしまうような美しい作品である。
林裕美子(S)、井上二葉(Pf)
林さんは素直でリリカルな声と表現力で、この一見晦渋な作品に生き生きとした生命感を与えていた。
井上さんは最後まで隙のない完成された演奏を聴かせてくれた。
井上二葉さんの実演を聴けたというだけでも素晴らしい体験だった。
この全歌曲シリーズ最終回は11月2日の予定。
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