カークビー&ロンドン・バロック/シェイクスピア・イン・ラヴ(2010年5月12日 津田ホール)
エマ・カークビー&ロンドン・バロック
シェイクスピア・イン・ラヴ(SHAKESPEARE IN L♡VE)
2010年5月12日(水) 19:00 津田ホール(B列2番)
エマ・カークビー(Emma Kirkby)(ソプラノ)(1)
ロンドン・バロック(London Baroque)
イングリット・ザイフェルト(Ingrid Seifert)(ヴァイオリン)(2)
リチャード・クヴィルト(Richard Gwilt)(ヴァイオリン)(3)
チャールズ・メドラム(Charles Medlam)(ヴィオラ・ダ・ガンバ)(4)
スティーヴン・デヴィーン(Steven Devine)(チェンバロ)(5)
ローズ(William Lawes: 1602-1645)/2つのヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、オルガンのための組曲第1番ト短調(2,3,4,5)
Fantazia - [Almaine] - [Galliard]
パーセル(Henry Purcell: 1659-1695)/音楽はしばしのあいだ(Music for a while)(1,5)
パーセル/音楽が恋の糧なら(If music be the food of Love)(1,5)
パーセル/バラよりもやさしく(Sweeter than roses)(1,5)
パーセル/ソナタ第6番ト短調Z807(4声のソナタ集より)(2,3,4,5)
パーセル/『妖精の女王』による組曲(「夏の夜の夢」)(1,2,3,4,5)
ごらん、夜の闇がみずからここで(See, even Night herself is here)
愛が甘い情熱なら(If love's a sweet passion)
嘆き(The Plaint)
お聴き、風がこだまを返しながら(Hark the echoing air)
~休憩~
J.S.バッハ(J.S.Bach: 1685-1750)(編曲:クヴィルト)/トリオ・ソナタ第6番ト長調(オルガン・ソナタBWV530による)(2,3,4,5)
Vivace - Lento - Allegro
マレ(Marin Marais: 1656-1728)/サント・コロンブ氏のためのトンボー(Tombeau pour Monsieur de Ste. Colombe)(4,5)
マレ/ギター(La Guitare)(4,5)
アーン(Thomas Arne: 1710-1778)/シェイクスピアの作品より 4つの歌曲(1,2,3,4,5)
来てくれ、死よ(Come away, death)(「十二夜」)
もう怖れることはない(Fear no more)(「シンベリン」)
教えて、気まぐれはどこで生まれるの?(Tell me where is fancy bred?)(「ヴェニスの商人」)
エアリエルの歌(Ariel's song)(「テンペスト」)
~アンコール(1,2,3,4,5)~
1.パーセル(Purcell)/『妖精の女王』~娘たちがよく愚痴を言っていた(When I have often heard young maids complaining)
2.ヘンデル(Handel)/「おお、天からの声のごとく(O qualis de caelo sonus)」HWV239~アレルヤ(Alleluia)
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ソプラノのエマ・カークビーとロンドン・バロックによる「シェイクスピア・イン・ラヴ」と題されたコンサートに出かけた。
カークビー&ロンドン・バロックを生で聴くのは今回がはじめて。
当日券で聴いたのだが、選択できる席はごく僅かで、ほぼ満席といっていいだろう。
カークビーの声はいい意味であまりクラシック歌手らしさを感じさせない。
声楽特有の発声を意識させない自然体の歌唱という感じだ。
とはいえ、もちろん細かいメリスマ歌唱など高度な技巧を備えていることは言うまでもない。
すでに還暦を過ぎたとは思えないほど純度の高い透明で美しい声はなにげなく発せられ、それが豊かにふくらんだり、絞り込まれたりする。
時に語るように歌われる箇所では、美声にちょっとした表情を付け加えることすらあった。
私は前から2列目という席で聴けたのだが、それでもささやくように弱く聞こえた箇所もあり、後方の席まで彼女の声がすべて届いたかどうかは分からない。
しかし無理に大きな声を出そうという力みがなく、常に語るように自然に歌っていたように感じられた。
また歩み、腕、顔の表情など、わずかな動きだが全身で曲の内容を表現しようとする。
あたかもシェイクスピアの芝居の一場面を演じているかのようだった。
ロンドン・バロックはバイオリン2人、ヴィオラ・ダ・ガンバ1人、チェンバロ1人の4人編成。
バイオリン2人は常に立って演奏する。
ステージ左の客席側がオーストリア出身のイングリット・ザイフェルトという女性、その奥にリチャード・クヴィルトという男性が立つ。
ステージ右側にヴィオラ・ダ・ガンバのチャールズ・メドラムが座り、中央奥にチェンバロのスティーヴン・デヴィーンが位置する。
そのチェンバロの前あたりでカークビーが歌っていた。
ウィリアム・ローズやパーセルの器楽曲、それにバッハのオルガン曲を編曲した作品ではロンドン・バロックの全員が演奏するのだが、やはりどうしてもヴァイオリンの2人が中心で、ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロは通奏低音に甘んじている印象を受ける。
そのせいだろうか、マラン・マレの2曲の器楽曲ではヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロの二重奏となり、この2つの楽器の音色をたっぷり満喫できる選曲になっていた。
器楽曲でみせる気の合う者同士のあうんの呼吸による演奏は聴いていて心地よく、リラックスして聴ける演奏だった。
エマ・カークビーの歌ったパーセルやトマス・アーンの歌曲は、様々な表情の作品が選ばれ、古楽的な装飾をつけつつも、メロディーの明暗の響きは時代を感じさせない普遍的な魅力をもっていたように感じた。
アーンの「エアリエルの歌(蜂が蜜を吸うところで)」だけはシュヴァルツコプフの歌で知っていたが、ほかはパーセルの「音楽はしばしのあいだ」以外私にとって馴染みの薄い作品ばかりだった。
しかし、そのどれもが生き生きとした存在意義を発揮していて、とりわけパーセルの「妖精の女王」からの「嘆き(おお、わたしを永遠に泣かせてください)」は下降する伴奏音型もあいまって痛切な悲しみが表現されて素晴らしかった。
アンコールは盛大な拍手に応えて2曲。
シェイクスピアの詩という共通項の中で実に多彩な音楽が清澄な歌唱と味わい深い演奏で楽しめた至福の時間だった。
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