ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2010 ショパンの宇宙(2日目)(2010年5月3日 東京国際フォーラム)
2日目に聴いたのは以下の3公演(すべてガラス棟のホールG402)。
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2010年5月3日(月・祝)
公演番号:266
17:30~18:15
ホールG402(ミツキエヴィチ)(3列10番)
セドリック・ティベルギアン(ピアノ)
ショパン/スケルツォ第1番 ロ短調 op.20
ショパン/マズルカ ホ短調 op.17-2
ショパン/マズルカ イ短調 op.17-4
ショパン/3つのマズルカ op. 59
スクリャービン/マズルカ風即興曲 ハ長調 op.2-3
スクリャービン/マズルカ ホ短調 op.3-7
スクリャービン/マズルカ 嬰ハ短調 op.3-6
スクリャービン/マズルカ ホ短調 op.25-3
タンスマン/マズルカ曲集第1巻より 第3番、第4番
タンスマン/マズルカ曲集第3巻より 第1番、第3番
タンスマン/マズルカ曲集第1巻より 第9番「オベレク」
今回、マズルカを共通項にして、ショパン、スクリャービン、タンスマンといった3人の作曲家のアプローチの違いを比較できるプログラムが組まれていて興味深かった。
最初に「スケルツォ第1番」で大いに盛り上げた後、マズルカのミニアチュールの世界が続く。
ショパンのマズルカはやはりリズム、和声ともに精巧な工芸品のような細やかさが感じられ、どの曲も魅力的である。
スクリャービンは意外と内面的で小規模な作品だった。
タンスマンの珍しいピアノ曲が聴けたのは貴重な機会だったと思う。
ティベルギアンの演奏を聴くのは昨年の上野でのリサイタルに続いて2度目だが、今回も若々しい爽快感が感じられて良かった。
どの曲も手の内に入っていて、よく歌い、しかも弛緩せずにうまく全体に目を行き届かせる。
ただ、演奏しながら結構うなり声が大きく、そちらに気をとられることもあった。
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2010年5月3日(月・祝)
公演番号:267
19:00~19:45
ホールG402(ミツキエヴィチ)(2列35番)
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
ショパン/バラード第4番 ヘ短調 op.52
ショパン/スケルツォ第1番 ロ短調 op.20
ショパン/スケルツォ第2番 変ロ短調 op.31
ショパン/スケルツォ第3番 嬰ハ短調 op.39
リスト/メフィスト・ワルツ第1番
はじめて聴くグルジア出身のカティア・ブニアティシヴィリはまだ20代前半という若さ。
ショパンの技巧的な名作ばかりずらりと並べてどれも堂々と演奏していて素晴らしかったが、リスト「メフィストワルツ」の迫力も見事だった。
彼女の演奏は感情の起伏が大きめで、ゆっくりの箇所と速めの箇所の差が大きい。
よく歌い、テクニックもしっかりしているので、ダイナミックな迫力が感じられるが、若干荒削りなところもあったのが今後の課題だろう。
容姿も美しく、カリスマ性が感じられるので、今後演奏にさらに磨きがかかってくると素晴らしくなるのではないか。
ショパンのスケルツォは第2番が特に有名だが、こうして聴いてみると、第1番も第3番もどこかですでに聴いて馴染んでいる。
知らず知らずのうちに幅広く脳裏に刻み込まれているのがショパンの音楽なのかもしれない。
ところで、ショパンのスケルツォは、聴いているとあまり諧謔曲というか滑稽な感じがしない。
従来のイメージを、ショパンのスケルツォに求めてはいけないのだろう。
重かったり感傷的だったりする中で、時折右手と左手が追いかけっこをしたり、ユニゾンを奏でたりして自由に動こうとして、異質な響きやリズムを加える。
ちょっとしたパッセージの自由な遊びを、深刻な曲調の中に紛れ込ませる感覚こそが、ショパンがスケルツォという曲種に込めたものなのかもしれない。
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2010年5月3日(月・祝)
公演番号:268
20:30~21:15
ホールG402(ミツキエヴィチ)(3列7番)
北村朋幹(ピアノ)
シューマン(リスト編曲)/春の夜(歌曲集「リーダークライス」op.39より第12番)
シューマン/幻想曲 ハ長調 op.17
シューマン(リスト編曲)/献呈(歌曲集「ミルテの花」op.25より第1番)
~アンコール~
シューマン/「謝肉祭」~ショパン
まだ20歳前の北村朋幹のコンサートはオール・シューマンだった。
ショパンの影に隠れているが、もちろんシューマンも今年生誕200年を迎えるのである。
リスト編曲のシューマンの歌曲では、北村のテクニックの冴えが存分に発揮されたが、同時に彼の歌おうという姿勢も明確にあらわれていた。
「春の夜」ではリストはシューマンの曲をまるまる繰り返し、拡大しているが、連打、トレモロ、急速なパッセージなどテクニックの見せ場にも事欠かない。
シューマン「幻想曲」は、先月に北村の演奏を聴いたばかり。
今回、残響の乏しい部屋での演奏ということもあるのか、先月とはまた異なる印象を受けた。
全体的に遅めのテンポで間もたっぷりとるため、演奏者の思い入れは伝わるものの、流れが停滞しがちに感じられた。
とはいえ、この大作を表現しようという意欲は充分伝わってきたので、経験を経て、さらに核心に近づいた演奏をいずれ聴かせてくれることを楽しみにしたい。
LFJの常連ということで固定ファンも増えつつあるのだろう、今回LFJで聴いた演奏会の中で最も熱烈な拍手が続き、何度も呼び戻された北村はアンコールを1曲弾いた。
演奏前に、今の自分にはショパンよりもシューマンの方が親しいが、ショパンを弾かないのも後ろめたいのでというようなコメントの後に、シューマンの「謝肉祭」の中から短い「ショパン」を演奏した。
北村いわく「ショパン」と名付けられていても「どこまでもシューマン的」というのは確かにその通りだろう。
美しい演奏だった。
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今日はNHKで収録が行われていて、FM放送も午後いっぱい生中継されていたが、放送ブースがガラス張りで音声も外に聞こえるようになっており、N響アワーでお馴染みの岩槻さんやリスト研究家の野本さんがブースでDJをしていた。
北村の演奏が終わって、ブースに行ってみると、ケフェレックがゲストで来ていて、ジョルジュ・サンドがショパンにいかに大きな存在だったかを語っていた。
最後にはブースを囲んでいるファンの人たちにも感謝の気持ちを述べるなど、その気さくで優しい人柄にすっかり魅了された。
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