椎名雄一郎/J.S.バッハ オルガン全曲演奏会 第8回(2010年3月22日 日本大学カザルスホール)
椎名雄一郎
J.S.バッハ オルガン全曲演奏会
第8回 コラールの世界
2010年3月22日(月・祝) 15:00 日本大学カザルスホール(1階A列7番)
椎名雄一郎(Yuichiro Shiina)(オルガン)
石川洋人(Hiroto Ishikawa)(テノール)
ヨハン・セバスティアン・バッハ(J.S.Bach)作曲
幻想曲と模倣曲 ロ短調 BWV563
コラールパルティータ<ああ、罪人なるわれ、何をすべきか>BWV770
<キリストを、われらさやけく頒め讃えうべし>BWV696
<讃美を受けたまえ、汝イエス・キリスト>BWV697
<主キリスト、神の独り子>BWV698
<いざ来ませ、異邦人の救い主よ>BWV699
<高き天よりわれは来たれり>BWV700、701
前奏曲とフーガ ハ長調 BWV545
~休憩~
幻想曲 ハ長調 BWV570
<神の子は来たりたまえり>BWV703
<全能の神に讃美あれ>BWV704
<いと尊きイエスよ、われらはここに集いて>BWV706
<主イエス・キリストよ、われらを顧みて>BWV709
<われは汝に依り頼む、主よ>BWV712
<イエスよ、我が喜び>BWV713
<マニフィカト>(わが魂は主をあがめ)BWV733
前奏曲とフーガ ヘ短調 BWV534
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椎名雄一郎による「バッハ オルガン全曲演奏会」の第8回を日本大学カザルスホールで聴いてきた。
先日の吉田恵が全曲シリーズ最終回をこのカザルスホールで締めくくったのに対して、椎名雄一郎のシリーズは2014年までかけてじっくり進めていくようだ。
しかし、今月いっぱいで閉館するカザルスホールのオルガンを演奏するのは今回が最後になり、それゆえに「さよならカザルスホール オルガン・コンサート第2弾」という副題が付けられている。
今回は1階最前列という席。
席は大方埋まっていたように思う。
まず、2階のオルガン席に椎名雄一郎とストップ操作の助手(奥様?)があらわれ、第1曲を演奏する。
2階で聴く時と比べ、オルガンの音が上方から直に降ってくるような印象があり、オルガンのシャワーを浴びているような迫力を感じた。
椎名が第1曲を弾き終えると、テノールの石川洋人が登場し、1階ステージの向かって右側に位置した。
石川洋人はコラールに基づく各オルガン作品が演奏される前にオリジナルのコラールを無伴奏で歌った。
つまり前半はBWV770からBWV701まで、後半はBWV703からBWV733まで石川の歌が聞けた。
ただし、後半の2曲<いと尊きイエスよ、われらはここに集いて>BWV706と、<イエスよ、我が喜び>BWV713のみは、無伴奏コラールだけではなく、オルガン演奏の途中からも加わり、オルガン伴奏でコラールを歌う形をとっていた。
石川洋人は古楽の歌唱法によるもので、薄いヴィブラートをかけ、清澄に声を伸ばしていく。
最前列で聞いていると、曲が進むにつれて、彼の声のボリュームが明らかに豊かになっていく様をはっきりと実感できた。
こうしてアカペラで響く歌声を聴くと、まさにホール全体が楽器なのだと実感させられる。
コラールをじっくり聴いていると、その独特の節回しによって遠い時代にタイムスリップしたかのようだった。
椎名雄一郎による今回のプログラミングは、コラールに基づく作品を前半と後半の中心に据えてはいるが、それぞれを挟み込む形で最初と最後にオルガンのためのオリジナル作品が演奏された。
コラール作品は小規模なものが多く、愛らしい小品という感じだが、石川氏のオリジナルのコラール唱の後で演奏されると、バッハがコラールをそのまま、あるいは部分的に取り込みながら、いかに巧みな味付けを加味しているかが分かる。
私にとってはプロテスタントの会衆が歌うコラールは馴染みがあるわけではないので、今回、歌とオルガンを一緒に聴くことが出来たのは分かりやすかった。
この夜のコンサートもいずれCD化されるだろうが、ぜひコラール唱も収録してほしいものだ。
椎名の演奏は一貫して弛緩することなく、見事に構築されていて素晴らしかったと思う。
また、コラールによる作品群では、温かい音色が聴いていて気持ち良かった。
効果的なストップ選択も演奏の成功に寄与していることだろう(バッハ自身によって音色が指定されている曲もあるが、殆どは演奏者の決定に任されているのだろう)。
椎名氏の言葉によれば「カザルスホールで一番演奏したかったバッハの作品、それが今回のコラール作品です」とのこと。
このホールのアーレントオルガンにふさわしい作品だということなのだろう。
それが、椎名氏にとって最後のカザルスホールの演奏で実現したのは良かったと思う。
演奏終了後、椎名氏も1階に下りてきて、石川氏と並んで拍手に応じていたが、最後にオルガンの方に手をかざして感謝の念を示していたのが印象的だった。
素晴らしい響きを聞かせてくれたカザルスホールに感謝!
椎名氏のこのシリーズ、次回の演奏は池袋の東京芸術劇場で行われるそうだ。
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