吉田 恵/J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第12回<最終回>(2010年3月13日 日本大学カザルスホール)
J.S.バッハ オルガン作品全曲演奏会 第12回<最終回>
2010年3月13日(土) 19:00 日本大学カザルスホール (全自由席)
吉田 恵(Megumi Yoshida)(オルガン)
J.S.バッハ/《クラヴィーア練習曲集 第3部》
前奏曲 変ホ長調 BWV552/1
キリエ,とこしえの父なる神よ BWV669
キリストよ,世の人すべての慰め BWV670
キリエ,聖霊なる神よ BWV671
キリエ,とこしえの父なる神よ BWV672
キリストよ,世の人すべての慰め BWV673
キリエ,聖霊なる神よ BWV674
いと高きところでは神にのみ栄光あれ BWV675
いと高きところでは神にのみ栄光あれ BWV676
いと高きところでは神にのみ栄光あれ BWV677
これぞ聖なる十戒 BWV678
これぞ聖なる十戒 BWV679
われらみな唯一なる神を信ず BWV680
~休憩~
われらみな唯一なる神を信ず BWV681
天にましますわれらの父よ BWV682
天にましますわれらの父よ BWV683
われらの主キリスト,ヨルダンの川に来れり BWV684
われらの主キリスト,ヨルダンの川に来れり BWV685
深き淵より,われ汝に呼ばわる BWV686
深き淵より,われ汝に呼ばわる BWV687
われらの救い主なるイエス・キリストは BWV688
われらの救い主なるイエス・キリストは BWV689
4つのデュエット
第1曲 ホ短調 BWV802
第2曲 ヘ長調 BWV803
第3曲 ト長調 BWV804
第4曲 イ短調 BWV805
フーガ 変ホ長調 BWV552/2
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2004年12月に開始された吉田恵によるJ.S.バッハ・オルガン作品全曲演奏会も今回でとうとう最終回である。
私は、この大偉業のシリーズ最後の数回分しか聴くことが出来なかったが、こうして最終回に立ち会えたのは聴衆としても感無量である。
今月いっぱいで閉館されるカザルスホールのオルガンがシリーズ最終回に間に合ったことは演奏者にとっても良かったのではないだろうか
(ちなみにこのアーレントオルガンは閉館後も学内利用のために保管されるようでとりあえず一安心である)。
ところで、今回開場時間の18時半ごろに会場に着いたらすでに長蛇の列で、これまでにこのようなことが無かっただけに驚いた。
ホールに別れを惜しむ人たちが大挙して押し寄せたというところだろうか。
ホール内もほぼ満席で、常にこのぐらいの集客が望めれば閉館ということにもならなかったのかもしれないが、そういうことを言ってみたところでもはや事態が変わるわけでもない。
今回は音楽友達のCさんと2階左側の席で聴いたが、アーレントオルガンの多彩な響きを存分に堪能できたのが良かった。
私はこのオルガンの音色から荘厳さ以上に愛らしさ、温かみを感じる。
謹厳なバッハ先生というよりは教会で信者たちに慈しみをもってオルガンを演奏している印象である。
最終回の演目は大規模な《クラヴィーア練習曲集 第3部》全曲である。
最初と最後に規模の大きめな前奏曲とフーガを配し、それらにコラール編曲と4曲のデュエットが挟まれる形をとる。
私の手元にあるヘルムート・ヴァルヒャの往年の録音では大オルガン用と小オルガン用でコラールを分けて配置してあったが、今回の吉田恵の演奏では同じコラールによる複数の編曲は連続して演奏された(BWV番号の順)。
プログラムノートの金澤正剛氏の解説によれば「本来はそのうちの1曲を選んで弾けば良いことになっている」そうだが、今回は全曲演奏という企画でもあり、すべて演奏された。
前半最初の「前奏曲」は、この長大な曲集の冒頭を飾るにふさわしい華やかさがあり、その後に続くコラール群は時にドラマティックに、時に親密にという多面的な表情が楽しめた。
同じコラールによる編曲が並置されると、編曲次第でまるで別の曲のような表情をもつのが興味深く、それらをちょっとした表情を付けながらもあくまで作品の揺ぎ無い構築性を保ちながら快適なテンポで表現し尽くした吉田さんの演奏はとても魅力的だった。
「4つのデュエット」はヴァルヒャの録音ではチェンバロで演奏されていたが、これらがオルガンで弾かれると全然違った印象を受けたのが面白かった。
ヴァルヒャの時はチェンバロの4曲だけが曲集の別格扱いのような印象を受けたが、吉田さんによるオルガン演奏では曲集内でも違和感なくオルガン曲としての魅力を放っていたと思った。
プログラム締め近くに演奏された「われらの救い主なるイエス・キリストは BWV688」は目まぐるしい音の動きが印象的で、吉田さんの演奏も冴えていた。
最後のドラマティックな「フーガ」ではやはり吉田さんのカザルスホール最後の演奏曲ということもあってか、聴いている私にもその表情豊かな意気込みが伝わってきたように感じ、感慨深いものがあった。
また、今回は前半と後半それぞれ途中の数曲で、鍵盤上方のふたを左右に開けて、内部のパイプをより響かせていたが、曲の特質によって開閉を決めていたのだろうか(前回は壮大な「パッサカリアとフーガ」でふたを開けていたのを覚えている)。
演奏が終わり何度かのカーテンコールを経て、吉田さんとストップ操作の女性が1階のホールに下りてきて、オルガンと共に盛大な拍手を受けていた。
この前人未到の企画をやり遂げた吉田恵さんと関係者の方々には心から拍手を贈りたい。
そして、カザルスホールの魅力的なアーレントオルガンにも・・・。
なお、カザルスホールのオルガンに関して読売新聞に記事があったのでリンクしておきます。
こちら
ちなみにこの日はフーゴ・ヴォルフの150回目の誕生日。
それを記念して韓国のバリトン歌手ロッキー・チョンとピアニストの松川儒による「メーリケ歌曲集」のコンサートが津田ホールで企画されたが、17時開演では両方聴くのは無理そうなので今回は涙を飲んだ。
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