ワーグナー/「神々の黄昏」(2010年3月27日 新国立劇場 オペラパレス)
楽劇「ニーべルングの指環」第3日
神々の黄昏
【序幕付全3幕】(ドイツ語上演/字幕付)
2010年3月27日(土) 14:00 新国立劇場 オペラパレス (4階4列16番)
ワーグナー(Richard Wagner)/「神々の黄昏(Götterdämmerung)」
ジークフリート:クリスティアン・フランツ(Christian Franz)(T)
ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン(Iréne Theorin)(S)
アルベリヒ:島村武男(Shimamura Takeo)(BR)
グンター:アレクサンダー・マルコ=ブルメスター(Alexander Marco-Buhrmester)(BR)
ハーゲン:ダニエル・スメギ(Daniel Sumegi)(BS)
グートルーネ:横山恵子(Yokoyama Keiko)(S)
ヴァルトラウテ:カティア・リッティング(Katja Lytting)(MS)
ヴォークリンデ:平井香織(Hirai Kaori)(S)
ヴェルグンデ:池田香織(Ikeda Kaori)(MS)
フロスヒルデ:大林智子(Obayashi Tomoko)(MS)
第一のノルン:竹本節子(Takemoto Setsuko)(MS)
第二のノルン:清水華澄(Shimizu Kasumi)(MS)
第三のノルン:緑川まり(Midorikawa Mari)(S)
合唱:新国立劇場合唱団(New National Theatre Chorus)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
指揮:ダン・エッティンガー(Dan Ettinger)
<初演スタッフ>
演出:キース・ウォーナー(Keith Warner)
装置・衣裳:デヴィッド・フィールディング(David Fielding)
照明:ヴォルフガング・ゲッベル(Wolfgang Göbbel)
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以下ネタバレがありますので、これからご覧になる方はご注意ください。
ヴァーグナーの長大な楽劇「ニーべルングの指環」の最終演目「神々の黄昏」を初めて聴いてきた。
キース・ウォーナー演出の新国立劇場での「指環」、私は「ラインの黄金」と「ヴァルキューレ」は見逃してしまったのだが、「ジークフリート」は聴けたので、今回もチャレンジしてみた。
序幕+第1幕が2時間10分、第2幕が1時間10分、第3幕が1時間25分、それに幕間の休憩時間がそれぞれ45分あった。
序幕では3人のノルンが運命の綱をたぐりながら、順に過去、現在、未来について語る。
ヴォータンがトネリコの枝から杖を作り、それによって自然破壊がもたらされたというような内容。
3人とも爆発後のような白髪をしていて、ボーダー柄の衣裳も同じで、最後列の私の席からは全く区別がつかなかった。
歌手は、3人ともよく声が出ていて、それぞれ魅力的な歌唱だった。
場面が変わるとジークフリートとブリュンヒルデの愛の巣があらわれ、ジークフリートの旅立ちをブリュンヒルデが見送る。
その際、ジークフリートのはめていた指環をブリュンヒルデに贈る。
例のスーパーマンのようなTシャツをジークフリートだけでなくブリュンヒルデも着ていたのは、ブリュンヒルデがジークフリートにつき従う女性となったことを暗示しているのだろうか。
第1幕では名家ギービヒ家に、グンター、グートルーネの兄妹と、彼らの異父兄弟であるハーゲン(父親は指環騒動の発端となったニーベルング族アルベリヒ)がいる。
ハーゲンの策略によって、訪問したジークフリートにほれ薬を飲ませ、グートルーネを愛させ、さらにグンターの嫁にとブリュンヒルデを連れてくることを約束させられる。
ジークフリートとグンターはお互いの血を混ぜて飲み干し、誓いを立てる。
ハーゲンは真っ黒の衣裳、一方グンターは対照的に真っ白の衣裳、グートルーネはピンクの近未来的なイメージ(?)の衣裳(SF映画によくありそうな感じ)。
ハーゲン役は迫力ある低音でアクの強い役を見事に歌っていて素晴らしかった。
一方のグンター役もバリトンの美声と舞台栄えする容姿でハーゲンに利用される頼りない感じをよく演じていたと思う。
グートルーネを歌った横山恵子もコケティッシュで、よく健闘していたといえるのではないか。
その後、ブリュンヒルデのもとを、ヴァルキューレの1人ヴァルトラウテが訪れ、指環をラインの娘たちに返すように言うが、ジークフリートからの愛の証をブリュンヒルデは手放さない。
そして、隠れ頭巾でグンターの姿になりすましたジークフリートがブリュンヒルデのもとを訪れ、強引に指環を奪い、グンターのものになるように迫り、愛の巣に入って幕が下りる。
第2幕はすっかり弱っているアルベリヒとその息子ハーゲンが向かいあう形の対話で始まり、指環奪還を諭すアルベリヒと、つれないハーゲンのかみあわない対話の後、ハーゲンは父親の首を絞めて殺す(これはヴァーグナーの台本にはない?)。
なお、その後ろに何故か3人のノルンと、ラインの娘たちと思われる3人組の計6人が左右後方で黙ってちょこんと座っているのは、何か演出上の意図があってのことなのだろう。
ジークフリートが昨夜の武勇伝をハーゲンに言って聞かせた後、ハーゲンは緊急事態だと家来たちを召集する。
そこで家来たち(薬の研究者みたいな衣裳)の合唱がコミカルな演技を伴って、長大なオペラのちょっとした息抜きとなる。
そして、ブリュンヒルデが連れてこられ、その場にいたジークフリート(ほれ薬の効果でブリュンヒルデとの関係は忘れている)がグートルーネと結婚しようとするのを裏切りととって怒り狂う。
この時のブリュンヒルデの剣幕は物凄い。
聴いていて引いてしまうほどである。
そして、ブリュンヒルデとハーゲン、グンターがジークフリート殺害を決意して幕が下りる。
最終幕はまずラインの娘たちが登場する。
白い水着のような衣裳の上にコートをはおった形で現れるが、3人とも同じ衣裳なので、やはり遠目には全く区別がつかない。
ライン川はライトで演出し、実際に水は使っていなかったので、その中で泳ぐ演技をさせられる3人の娘たちがちょっと間の抜けた感じに見えるのは仕方ないか。
彼女たちは、通りかかったジークフリートをたぶらかしながらも、指環を手放さないと殺されると忠告する。
ハーゲンやグンターらの狩の一行に出会ったジークフリートは過去の話(小鳥の声が分かるようになったいきさつ等)をする。
その時に「ジークフリート」の中の森の小鳥の歌を模して同じように歌う場面があったが、ジークフリート役のフランツは若干声の疲れを感じさせながらも巧みに聞かせていた。
その後、折を見てハーゲンがジークフリートの弱点である背中を槍で突いて殺害する。
ジークフリートが刺されてから絶命するまで、随分長いこと歌っていられるのは、オペラなのだから特に目くじら立てることではないのかもしれないが、ちょっと不思議な気もする。
ただ、血を流しながら舞台奥に向けてよろめきながら歩いていく様は、何故か感動的だった(最後の場面はスーパーマンTシャツではなく、スーツで決めていたが、やはりこの方がいい)。
最後を締めくくるブリュンヒルデの自己犠牲がこのオペラ最大の聴きものだろう(少なくとも私のような初心者にとっては)。
事情を把握し、ジークフリートの亡骸とともに炎に飛び込むというその激しい情念が彼女の高域での歌にこめられていた。
このブリュンヒルデの独白、長大という先入観があったのだが、実際に聴いてみたら全く長さを感じなかった。
むしろブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリンのドラマティックだが決して金切り声にならない表情豊かな絶唱に惹き付けられっぱなしだった。
神々の世界が滅び、火災と洪水が人々を飲み込む様を映像を組み込みながら表現していたが、最後に後世の人と思われる人物たちがあらわれたのは、新しい世界の誕生をあらわしていたのだろうか。
最後のカーテンコール時に、歌手にではなくオケに対して大きなブーイングをする人が一人いた。
していけないというものでもないのだろうが、何度も執拗にブーイングするほどの演奏だったようには私には思えなかった。
後方右側のブーイング男性に対して、後方左側の女性(多分)がそれを打ち消すようにブラボーを連呼していたが(その女性に「ブラボー」と言いたい)、オペラの習慣とはいえやはりブーイングはあまり気持ちいいものではないなと思った。
なお、ところどころで背景に映し出された羊(山羊?)の頭部は何を示しているのだろうか(台詞の中に「羊」が出てきたのは覚えているが)。
まだヴァーグナー歴の浅い私だが、それでも今回の「黄昏」には以前に聴いた記憶のあるフレーズが出てきて(とはいえ「ヴァルキューレ」のテーマが一番分かりやすいが)、ヴァーグナーの緻密に張り巡らされた示導動機の一端を実感することが出来た。
これは深みにはまる人がいても不思議ではないと感じさせられたヴァーグナー体験であった。
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コメント
フランツさん、土曜日にご覧になったのですね。
わかりやすい記事、有り難うございます。
私は明日30日ですが、最終公演日なので、楽しみにしております。
2年にわたって、リング全部を見ることになりますが、予備知識も無く、全くはじめて見る舞台は、それだけで、わくわくしながら(時には夢の中で)見ていますので、一度ストーリーを読んだだけでは、飲み込めないでしょうから、ネタバレは、私には大丈夫です。(笑)
ブーイングとかブラボー、結構「業界の人」が率先してやることがあるらしいですが、一般のお客には、邪魔になることもありますね。
オペラも、アリアを歌ったあとの後奏を、ちゃんと聞いて欲しいと言っている人もいますね。
30日は、ヘンな反応がないことを願っています。
「ジークフリート」も長丁場でしたが、「黄昏」も長いので、エネルギーの元を仕込んでいった方が良さそうですね。
投稿: Clara | 2010年3月29日 (月曜日) 10時50分
Claraさん、こんばんは。
火曜日にご覧になるのに先入観を植え付けていなければよいのですが、当日は私の書いたことはすっかり忘れて、存分に楽しんできてください。
序幕&第1幕が映画1本分ぐらいの長さで私もかなりうとうとしてしまったのですが、後半の第2、3幕はそれほど長さを感じずに目覚めていることが出来ました。エネルギーとなるものを持参されると万全ですね。
結構話はバラエティに富んでいるので、楽しめるのではないかと思います。
それにしても、あれほどはっきりとブーイングを聞いたのははじめてだったのでびっくりしました(普段はもっと拍手に紛れて目立たないような印象があったので)。オケもところどころ綻びはあったかもしれませんが、そんなにむきになって貶めるようなひどい演奏ではなかったと思います。最後に団員が退場する際に「オーケストラにブラボー」という観客の声がかかり、拍手がおきていたのでほっとしました。
30日の公演、満喫してきてくださいね。
投稿: フランツ | 2010年3月29日 (月曜日) 20時23分