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映画「海の沈黙」を見る(2010年2月27日 岩波ホール)

岩波ホールセレクションVol.1[抵抗と人間]

Silence_de_la_mer映画「海の沈黙-デジタルリマスター版-」(Le Silence de la mer)
2010年2月27日(土)14:30の回 岩波ホール

監督:ジャン=ピエール・メルヴィル(Jean-Pierre Melville: 1917-1973)
撮影:アンリ・ドカ(Henri Decae: 1915-1987)
原作:ヴェルコール(Vercors: 1902-1991)(岩波文庫)

ヴェルナー・フォン・エブルナック(Werner von Ebrennac):ハワード・ヴァーノン(Howard Vernon: 1914-1996) 
姪(le nièce):ニコール・ステファーヌ(Nicole Stéphane: 1923-2007)
伯父(l'oncle):ジャン=マリー・ロバン(Jean-Marie Robain: 1913-2004)

1947年/86分/モノクロ/フランス/デジタル上映

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先週の土曜日に再び岩波ホールに出かけ、「海の沈黙」という映画を見てきた。
前から6列目の左のブロックに腰を下ろす。
すぐ右側が通路なので、前の人の頭に画面が遮られずにすむ。

ヴェルコールの小説をメルヴィル監督が映画化した作品である。
今回が本邦初公開とのことだ。

ナチス・ドイツ占領下の1941年フランスが舞台。
突然あらわれて家に同居することになったドイツ人将校ヴェルナーに対し、フランス人の老人とその姪の2人は普段の生活を変えずにひたすら押し黙る。
ヴェルナーは毎日のように2人の前にあらわれ、反応を求めないまま、敬愛するフランス文学のこと、自分が作曲をすること、そしてドイツとフランスが手を組むようになるであろう未来などを熱く語る。
ヴェルナーはナチス・ドイツの正義を信じて疑わなかったのだ。
しかし、ヴェルナーにも真実を知る時が来る。
その時に彼はどうするのか。
そして、沈黙の抵抗を貫いてきた伯父と姪は敵国のヴェルナーに対して態度を軟化させるようになるのか。

静謐な2人の日常生活と、ヴェルナーの饒舌な話し声の対比が印象的である。
置時計の時を刻む音ばかりが、時間の止まったような部屋を満たす。
それにしても敵国の人同士が同じ屋根の下で過ごすということが実際にはあったのだろうか。

戦争の非情さを描きながら、血なまぐさい場面は皆無で、ほぼ部屋の中の3人の人間ドラマに終始する。
その不思議な緊迫感と味のあるモノクロ映像は、視聴者を画面に引き込み続ける。
ヴェルナー役の俳優と老人役の俳優が1歳違いであることを後で知り、驚いた。
老人役の、特殊メイクだけでない役づくりのうまさにあらためて驚かされる。
そして、ほとんど笑うことも話すこともせず断固とした態度で編み物に集中する姪役の女優は、今作が映画初出演とのこと。
そんなことは全く感じさせない堂々たる存在感と、凛とした美しさがあった。

見終わった後にそこはかとない悲しみが湧いてきた。
前向きな理想を掲げながら、どうしようもない現実に向き合わざるをえなかった主人公の選択はあまりにもつらい。

余談だが、オーケストラの指揮者としてポール・ボノー(Paul Bonneau: 1918-1995)という名前がクレジットされていたが、この人は、スゼーやシュヴァルツコプフともたびたび共演したピアニストのジャクリーヌ・ロバン=ボノー(Jacqueline Robin-Bonneau: 1917-2007)の夫である。

2月20日(土)~3月19日(金)まで岩波ホールで上映中です。
また、東京だけでなく全国で順次公開されるようです。

興味をもたれた方は、以下のHPで上映時間をご確認のうえ、お出かけになられてはいかがでしょうか。

岩波ホールのHP

配給会社のHP

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コメント

フランツさん、良い映画を観てきたようですね。名監督のメルヴィルにくわえ、名キャメラマンのドゥカと来れば、ぼくも一度は観てみたいものです。フランツさんの紹介しているあらすじを読んで、どこかでこんな話を読んだなと思ったら、Vercorsの"Le Silence de la mer"のLivre de Poche版を持っていて、以前途中まで読んだことを思い出しました。
岩波ホールでは今度ロベール・ブレッソン監督の『抵抗』を上映するようですね。ブレッソンの映画は大好きで『すり』や『ラルジャン』はビデオで観ていますが、特に『ラルジャン』はすごい出来で、フランツさんにも観てもらいたいものです。『抵抗』はぼくも是非観てみたいと思いますが、現在の貧乏生活では映画館にゆく余裕がなく、歯がゆい思いです。
フランツさんは通路側の席がお好きのようですね。実はぼくも学生時代いろいろ映画を観ましたが、いつもといっていいくらい、通路側の席に座っていました。昨日、たまたま早稲田松竹の前を通ったのですが、テオ・アンゲロプロス監督の映画がかかっているようで、懐の寒いぼくとしては観ている人たちがうらやましかったです。
学生時代、池袋の旧文芸座よく通っていたことをなつかしく思い出しました。

投稿: 鶴太屋 | 2010年3月 4日 (木曜日) 21時17分

鶴太屋さん、こんばんは。
詳細なコメントを有難うございました。
鶴太屋さんは映画にもお詳しいのですね。素晴らしい!
私はちらしを見てその時の直感で見る映画を決めるので、当たり外れはあるのですが、岩波ホールで上映される作品はおそらくかなりの質が保証されているのではないでしょうか(とは言っても私がこのホールで映画を見たのはまだ2回目なのですが)。
それにしてもヴェルコールの原作を読んでおられたとはさすがですね。こういう私の生まれる前の時代の息吹が感じられる作品って、新鮮で好奇心をそそられます。
ブレッソンの「抵抗」も面白そうですね。私も目をつけています。ご推薦の「ラルジャン」もレンタル屋で探してみますね。
アンゲロプロスってギリシャ人でしたっけ。私ももう少し様々な映画を見て、名監督のメッセージを感じることが出来たらと思います。

投稿: フランツ | 2010年3月 4日 (木曜日) 22時20分

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