ペーター・シュライアーとピアニスト
歌曲の歌手にとってどのようなピアニストと組むかは非常に重要だ。
テンポや息継ぎの場所、バランスや強弱など、ピアニストと良い関係が築けるかどうかにかかってくるとさえ言えるのではないか。
また、ピアニストの演奏の特質によって、歌手の歌い方や解釈も変わってくる。
そういう意味で、歌手の共演者リストを見るのはとても興味をそそられる。
先日"Peter Schreier: Melodien eines Lebens" (Jürgen Helfricht著: Verlag der Kunst)という書籍が出版されていることをたまたま知り、入手した。
彼の幼少時代から引退後まで記された文章は貴重な資料だが、豊富な写真を眺めるだけでもこの稀代のテノール歌手の軌跡をたどることが出来て楽しい。
だが、私がこの本を購入した一番の理由は、巻末にシュライアーがこれまでに共演したピアニストのリスト(全員ではないが)が掲載されていることを知ったからだった。
シュライアーの共演ピアニストとしてまず思い浮かぶのは例えば以下のような人たちだろう。
ヴァルター・オルベルツ
ノーマン・シェトラー
エリック・ヴェルバ
カール・エンゲル
アンドラーシュ・シフ
ヴェルバ以外はみなソリストとしても活動していた人たちである(シフ以外は、歌曲での活躍が独奏以上に目立っていたと思われるが)。
引退前の数年はカミロ・ラディケやアレクサンダー・シュマルツといった若手ピアニストとも組んでいた。
だが、前述の書籍のリストを見ると、彼の共演者は実に多彩だったことが分かる。
例えば、歌曲の専門家たちの名前を拾い上げると以下のような人たちがいる。
ジェラルド・ムーア
ギュンター・ヴァイセンボルン
ルードルフ・ドゥンケル
ジェフリー・パーソンズ
コンラート・リヒター
アーウィン・ゲイジ
ヘルムート・ドイチュ
アントニー・スピリ
チャールズ・スペンサー
グレアム・ジョンソン
この中で、ムーアとG.ジョンソン以外はスタジオ録音での共演が残されていないので、殆どこのリストで初めてその共演を知ることになった(ドイチュとは来日公演で共演していたが)。
また、ソロピアニストの名前を抜き出すと次のようになる。
ダニエル・バレンボイム
アルフレート・ブレンデル
イェルク・デームス
クリストフ・エッシェンバッハ
イングリット・ヘブラー
ヴァルター・クリーン
デジェー・ラーンキ
スヴャトスラフ・リヒテル
ペーター・レーゼル
ディーター・ツェヒリン
半分はフィッシャー=ディースカウの共演者とだぶっているのが面白い。
私が一番驚いたのが、このリストにイングリット・ヘブラーの名前があったことである。
彼女は言うまでも無く著名なモーツァルト弾きであり、私の最も好きなピアニストの一人である。
ヘブラーは独奏者としてだけでなく、他の楽器奏者とも室内楽演奏を盛んに行い、多数の録音も残しているが、歌曲の録音は皆無で、コンサートで歌曲を演奏したことがあったかどうかさえこれまで分からなかった。
一体シュライアーは彼女とどんなレパートリーで共演したのだろうか。
また、ヘブラーは歌曲演奏にどんなアプローチをしたのだろうか。
いつか何かの機会にひょっこり共演時のライヴ音源が出てきたりすると嬉しいのだが。
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