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ワーグナー/「ジークフリート」(2010年2月11日 新国立劇場 オペラパレス)

ワーグナー(Wagner)/楽劇「ニーべルングの指環」第2日「ジークフリート」
("Der Ring des Nibelungen" Zweiter Tag: Siegfried)
全3幕 (ドイツ語上演/字幕付)

2010年2月11日(木・祝)14:00(終演20時頃) 新国立劇場 オペラパレス (4階3列12番)

ジークフリート(Siegfried):クリスティアン・フランツ(Christian Franz)
ミーメ(Mime):ヴォルフガング・シュミット(Wolfgang Schmidt)
さすらい人(Der Wanderer):ユッカ・ラジライネン(Jukka Rasilainen)
アルベリヒ(Alberich):ユルゲン・リン(Jürgen Linn)
ファフナー(Fafner):妻屋秀和(Tsumaya Hidekazu)
エルダ(Erda):シモーネ・シュレーダー(Simone Schröder)
ブリュンヒルデ(Brünnhilde):イレーネ・テオリン(Iréne Theorin)
森の小鳥(Stimme des Waldvogels):安井陽子(Yasui Yoko)

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(Tokyo Philharmonic Orchestra)
指揮:ダン・エッティンガー(Dan Ettinger)

演出:キース・ウォーナー(Keith Warner)
装置・衣裳:デヴィッド・フィールディング(David Fielding)
照明:ヴォルフガング・ゲッベル(Wolfgang Göbbel)
振付:クレア・グラスキン(Claire Glaskin)

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ヴァーグナーの大作、楽劇「ニーべルングの指環」の第3部(第2夜)「ジークフリート」を初台で聴いてきた。
「ラインの黄金」と「ヴァルキューレ」は見なかったので、このキース・ウォーナー演出版は今回の「ジークフリート」で初めて接することになった。
これまで敬して遠ざけていた「指環」だが、ちょうどいい機会なので参考書などを頼りに筋や音楽を事前に多少予習していた。
登場人物が多いうえ、その関係も複雑で、最初のうちは途方にくれてしまったが、何度も参考書で筋を追ううちに、ようやく全体像がおぼろげながら見えてきた感じだ。
ただ、音楽としてはDVDブックで4作とも購入したものの、まだ少ししか聴けていなかったので、今回の「ジークフリート」もほとんどの場面は劇場ではじめて聴くこととなった。

「ジークフリート」は「指環」4作品の中でも最も登場人物が少ない作品だろう。
その上、2人の人物(人間ではないさすらい人なども含まれているが便宜上「人物」と言っておく)の対話の場面が多く、延々と会話が行きつ戻りつして、なかなか進展していかないような印象も受ける。
ここまで長大にしなければならない必然性があるのかどうかは初心者の私には判断がつかないが、ライトモティーフの綿密な使用など、細かく見ていくと、ヴァーグナーの様々な仕掛けがあるのだろう(ライトモティーフの予習をしっかりしてから聴けばもっと面白さを感じたにちがいない)。

キース・ウォーナー演出の新国立劇場での上演は、今回が2003年の再演とのこと。
衣裳、美術とも現代に置き換えた解釈で、ジークフリートよりもさすらい人やミーメ、アルベリヒの方が舞台映えして見えたのはちょっと気の毒だったが、斬新な新鮮さを感じる場面がある一方でそれほど映えなかったと感じる場面もあったのは多様な解釈が可能なオペラにおいては致し方ないのかもしれない。

音楽的にはフィナーレのジークフリートとブリュンヒルデの愛の場面が聴かせどころなのだろうが、私が最も印象に残ったのはジークフリートとミーメがノートゥングの破片から新しい刀を鍛える場面の音楽である。
コミカルで耳に残る音楽だった。
さすらい人とミーメの問答のあたりはうとうとしてしまって殆ど記憶に残っていないのが心残りだが、第3幕でようやく睡魔もおさまり、たっぷりヴァーグナーの音楽に浸った(第2幕と第3幕との間にヴァーグナーの創作中断が12年もあったとのことだが、第3幕は長大なわりにはおとなしめに感じた)。
最後のジークフリートとブリュンヒルデの愛の場面は、ジークフリートの思いを拒否したと思ったら、どういうきっかけかその愛を受け入れて終わるのだが、ここはもう少し聴きこまないとその良さが分からないのかもしれない。斜めのベッドの上で行きつ戻りつしている演出も、ブリュンヒルデの愛馬グラーネに見立てた木馬も、他により良い方法がありそうな気もするが・・・。

歌手はみな粒ぞろいで素晴らしかったが、中でも個人的にはアルベリヒ役のユルゲン・リンの朗々とした歌唱に最も感動を覚えた。
また、さすらい人(=ヴォータン)役のユッカ・ラジライネンも実に素晴らしい声と表現力の持ち主だった(頑丈な刀ノートゥングを持ったジークフリートに槍で通せんぼをする際に、やりあう前の槍がすでに折れていたのはハプニングかと思ったが、ほかの方のブログによるとこれも演出家の意図のようだ)。
ブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリンはまさにヴァーグナー歌手の典型といっていいタイプで、この声の威力に圧倒された。
ジークフリート役のクリスティアン・フランツも最後まで破綻なく聴かせてくれて素晴らしかったが、つなぎのズボンに、スーパーマンみたいな「S」のマークのついた赤いTシャツは、いくら現代風読み替えの演出とはいえ、似つかわしくないように感じた(パンフレットの表紙裏の某社の広告キャラクターとして、スーパーマンの写真が掲載されていたのは偶然だろうか)。
さすらい人の頼みの綱たるエルダ役を歌ったシモーネ・シュレーダーの声の美しさと言葉さばきのうまさに魅了された。私の好きなタイプの声だった。
森の小鳥役の安井陽子は爽やかな高音が魅力的に響き渡り、男の低い声ばかり聴かされてきた後で清涼感のある癒しを与えてくれた。
また、第3幕のエルダの登場シーンでは、歌う場面はないもののノルン三姉妹も登場して、はしごを上ったり降りたりしながら、運命の綱をたぐる様を表現していた。

ダン・エッティンガー指揮の東京フィルも途切れることのない大作を丁寧に表現していたと思う。

幕間の2回の休憩時間がそれぞれ50分程度あったので、長丁場でも思ったほどには疲れずに聴けたが(それでもしばしば睡魔に襲われたが)、昼間にスタートした作品が終わった時にはすっかり夜になっていたのはさすがに長さを実感させられた。

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コメント

フランツさん、「ジークフリート」ご覧になったのですね。
私は23日のマチネーに行くことになっているので、先入観がないよう、お記事は後から詳しく読ませていただきますが、大変な長丁場みたいですね。
リングは初めてなので、昨年の「ラインの黄金」、「ワルキューレ」に続き、三作品目。
飲み物や食べるものも、長時間に耐えるよう、用意して、行くつもりですが、音楽会では、一度は必ず睡魔に襲われる私なので、それは想定内です。
どこの場面で寝るかしらと、今から楽しみ(!)にしています。
11日は、別会場にいましたが、雨で寒い日でしたね。
充実したオペラ鑑賞で、楽しまれたことでしょう。良かったですね。

投稿: Clara | 2010年2月14日 (日曜日) 17時39分

Claraさん、こんばんは。
Claraさんは最終日のマチネーにご覧になるのですね。
「ラインの黄金」も「ワルキューレ」も聴かれているのでしたら、今回もきっと楽しめるのではないでしょうか。ヴァーグナーはライトモティーフを4作を通して効果的に使用しているようなので、以前に聴いたことのあるモティーフが「ジークフリート」の中にも沢山出てくるのではないかと思います。
食べるものは持っていかれて正解だと思います。2回目の休憩時にはロビー内の食べ物はほとんど売り切れてしまいましたから(私もデニッシュ1個しかありつけませんでした)。
つい眠ってしまっても、まだ終わらないほどヴァーグナーの音楽は長大なので、睡魔に襲われても、音楽をたっぷり楽しめることと思います。
寒い日が続きますが、23日はどうぞ楽しんできてくださいね!

投稿: フランツ | 2010年2月14日 (日曜日) 19時14分

フランツさん、今晩は。
日付変わっちゃいましたが今日(二十三日)見てきました。
長丁場で疲れましたが、面白かったです。でも、一幕目から、所々睡魔に襲われて、字幕を読んでいないところがあり、勿体なかったんですが・・・。
登場人物は少なかったですが、ストーリーはかなり入り組んでいて、事前学習無しに見た私には、よくわからないところもありました。改めて、フランツさんのブログを読ませていただいて、ああ、あそこはそう言うことだったのかと、わかったところもあります。出番は短かったですが、エルダ役のメゾソプラノ、とても良かったですね。初めのうちは、男声ばかりの掛け合いで、ソプラノの小鳥が出てきた時は、声の美しさに、救われたような気がしました。
ジークフリートが、最初登場した時は、ちょっとイメージに合っていなかったような感じがしましたが、熱演でしたし、最後のブリュンヒルデとの掛け合いは迫力がありました。でも、やはりワグナーは男性だからかしら、女性の気持ちの移り方がよく理解できませんでした。
オーケストラは、すばらしかったです。
新国のオペラは東フィルが多いですが、とてもいいですね。

投稿: Clara | 2010年2月24日 (水曜日) 01時38分

Claraさん、こんばんは。
ご返事が遅くなってしまい、すみません。
「ジークフリート」お疲れ様でした。楽しまれたようですね。
長丁場の最後まで体験された甲斐があったのではないでしょうか。
Claraさんも小鳥やエルダに感動されたようですね。私もこの男声主体のオペラの中で、彼女たちの歌によって新鮮な空気が吹き抜けたのを思い出します。特にエルダ役のシモーネ・シュレーダーは素晴らしく、ほかの作品でもいろいろ聴いてみたいと思いました。
やはり作曲家が男性だと、女性の心の描き方も男性からの視点になってしまうのかもしれませんね。最終幕のブリュンヒルデ、拒絶したかと思ったら、いつのまにか愛し合うようになったきっかけが私もよく分かりませんでした。
繰り返し体験することでいろいろ見えてくるのでしょうね(といっても気軽に聴ける作品ではないですが)。
オケも大健闘でしたね。
今度は来月の「神々の黄昏」に向けて少し予習しておこうかなと思います。

投稿: フランツ | 2010年2月24日 (水曜日) 22時47分

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  10年2月14日14時~20時 『ジークフリート』(新国立劇場)を観た。ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」の第2夜のジークフリート。英雄ジークフリートが初めて登場する場面であり、最終夜に向けて、起承転結の転換点となる歌劇である。しかし、ニーベルングの指輪のハイライト版CDの中には、この作品は「森のささやき」くらいしか登場せず、音楽的には、他の三作品と比較して地味な印象は否めない。さらに、作品の成立経緯として、完成までに長い期間を要したことから様々な要素が入り混じっており、統一感がな...... [続きを読む]

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