カミーユ・モラーヌ逝去
往年のフランス人バリトン歌手カミーユ・モラーヌ(Camille Maurane: 1911年11月29日, Rouen生まれ)が1月21日にパリ郊外の自宅で老衰のため亡くなったそうだ。
98歳という大往生であった。
90年代に80代で来日してフランス歌曲を歌ったそうだが、残念ながらその時の歌唱は聴いていない。
シャルル・パンゼラ、ピエール・ベルナックと並んでフランス歌曲の香りを伝える往年の名歌手だったが、その歌唱は録音で接するのみで、すでに伝説的な存在と感じていた。
だが、1911年という生年を見ると、意外なことに1918年生まれのジェラール・スゼーと7歳しか離れていない。
スゼーよりもずっと昔の歌手という印象が強かったのは、パンゼラ、ベルナック等と一緒に論じられることが多かったせいかもしれない。
モラーヌの歌で私が大好きなのはPHILIPSに録音したデュパルクの歌曲集である。
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デュパルク歌曲集(Henri Duparc / 12 MÉLODIES)
ユニバーサルクラシック: PHILIPS: UCCP-9378
録音:1954年2月16-23日, Paris
カミーユ・モラーヌ(Camille Maurane)(バリトン)
リリ・ビアンヴニュ(Lily Bienvenu)(ピアノ)
1. 旅へのいざない(L'invitation au voyage)
2. ためいき(Soupir)
3. 遺言(Testament)
4. フィレンツェのセレナード(Sérénade florentine)
5. 波と鐘(La vague et la cloche)
6. 哀歌(Lamento)
7. 前世(La vie antérieure)
8. フィデレ(Phidylé)
9. 法悦(Extase)
10. 悲歌(Elégie)
11. ローズモンドの屋敷(Le manoir de Rosemonde)
12. 悲しき歌(Chanson triste)
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モラーヌの声はどの音域でも非常に美しい。
ベルナックの声のような癖がなく、澄んで気品がある。
フランス人の名優が耳元で優しくささやいているような趣がある。
彼のくっきりとした明瞭な発音で語るように歌われると、詩と音楽の両方が渾然一体となった境地を味わわせてくれるような気がする。
半音階を多用したアンニュイな雰囲気を残しつつ、どことなくドイツリートにも通ずるようなかっちりした構成感を感じさせるデュパルクの歌曲において、モラーヌの持ち味が最高の形で発揮されているのではないか。
また、このディスクでピアノを弾いているリリ・ビアンヴニュもデュパルクの音楽のもつ香りを自然に、かつ細やかに表現して素敵である。
モラーヌ、スゼーの後、ベルナルト・クライセン、ブリュノー・ラプラントなどが多くの録音を残したが、現在フランス歌曲を歌う男声歌手は一体どれだけいるのだろう。
ドイツリート演奏の現在の隆盛とは対照的に、フランス歌曲演奏は衰退してしまうのだろうか。
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