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シューベルトの誕生日に寄せて(シュライアー&シェトラーの「美しい水車屋の娘」)

今日1月31日はシューベルトの213回目の誕生日。
私の最も敬愛するこの作曲家の誕生日には毎年その音楽を聴くことにしているが、今年は「美しい水車屋の娘(Die schöne Müllerin) D795」のちょっと珍しいヴァージョンのCDを聴いた。

すでに歌手活動から引退したテノールのペーター・シュライアー(Peter Schreier: 1935年生まれ)はシューベルトの歌曲集「美しい水車屋の娘」を十八番にしていて、私もかつて実演で聴く幸運に恵まれたが、彼は1980年になんと3種類もの「水車屋」を録音している。
ただ、その3種とも録音当時としては一味ひねった趣向が凝らされている。

●ギター版(BERLIN Classics)
 録音:1980年1月5-7日, Lukaskirche, Dresden
 コンラート・ラゴスニク(Konrad Ragossnig: 1932年生まれ)(ギター)

●ハンマークラヴィーア版(Intercord)
 録音:1980年2月28-29日, Schubert-Saal des Wiener Konzerthauses
 シュテフェン・ツェーア(Steven Zehr: 1944年生まれ)(ハンマークラヴィーア)

●フォーグルによる改変版(musicaphon)
 録音:1980年8月22-23日, Grosse Aula der Universität Salzburg
 ノーマン・シェトラー(Norman Shetler: 1931年生まれ)(ピアノ)

最初の2種は、現代ピアノではない楽器の共演によるもの。
ラゴスニクのギターとの共演は日本でも披露され、テレビでも放映されたようだ。
音量の小さめなギターに合わせて、シュライアーは劇性を抑えて、語り聞かせるようにゆったりめのテンポで歌っていた。
ひなびたギターの響きは、サロンで聞くような親密さを増していた。

また、今でこそ当時の楽器を使って歌曲を演奏することが珍しくなくなったものの、この当時にはまだ稀だったと思われる。
ツェーアのよるハンマークラヴィーア共演盤は、その響きの古雅な趣に新鮮さを感じた。

 ツェーアとの録音(第5曲「仕事を終えて」、第8曲「朝の挨拶」、第14曲「狩人」)

Schreier_shetler_muellerinところで、今日聴いたのはノーマン・シェトラーの現代ピアノ共演による3番目の盤。
musicaphonレーベルのCDのケース表裏どちらにも普通の「水車屋」と違う旨明記されておらず、ケースを開き解説書を取り出してはじめて通常と違うことが分かる。
これは明らかに販売上の戦略であろう。
ヨーハン・ミヒャエル・フォーグル(Johann Michael Vogl: 1768-1840)は、シューベルトの友人として彼の数々の歌曲の普及に貢献したテノール歌手である。
フォーグルが実際にシューベルトの歌曲を歌う時にオリジナルにはない装飾を加えたり、旋律線を変更したりすることは珍しいことではなかったようだ。
そのフォーグルが「水車屋」に加えた変更版を、国際シューベルト協会が楽譜の形で出版した(新シューベルト全集の一環として)。
それに基づいて演奏したのが、このシュライアーとシェトラーによる録音である。

第1曲「さすらい」では5節の有節形式だが、例えば第1節の"Das Wandern ist des Müllers Lust, Das Wandern!"が繰り返される時の"Wandern!"に装飾音が加えられている。
だが、各節の同じ箇所に必ずしも同じ装飾が加えられているわけではないのが興味深い。
また、各節最後に繰り返されるリフレイン(第1節ならば"Das Wandern")の締めの直前をピアノのみに演奏させて、最後の一言の効果を挙げようとしているかのようである。

第2曲「どこへ」の歌声部でもメリスマの上下を逆にしたり、歌の出を遅らせたり、リズムを若干変化させたりと、ある種即興的に感じさせるような変更を加えている。

第6曲「知りたがり屋」の最後「言っておくれ、小川よ、彼女は僕を愛しているだろうか(Sag', Bächlein, liebt sie mich?)」の歌の出を遅らせているのは、主人公のためらいを印象づけて効果的だと思った。

第11曲「僕のもの」では途中"mein"を繰り返す箇所で"Ja, ist mein"と歌詞を加えてさえいる。

第13曲「リュートの緑色のリボンで」の最初のピアノの和音が省略されているのは、フォーグルの意図なのか、それとも演奏家の判断なのか(この和音を省略する演奏家もいるので)はっきりしないが、それはいつか全集楽譜を見て確かめてみたい。

第14曲「狩人」のピアノ前奏、間奏、後奏はそれぞれ同じパッセージだが、その中の右手の1音がすべて変更されているので、フォーグルの変更はピアノパートにも及んでいたということなのだろう。

シューベルト公認の変更ということになるのだろうが、私としては繰り返し聴く録音では原則としてシューベルトのオリジナルで聴きたい(このシュライアーのCDは史料としての価値もあり、素晴らしいと思うが)。ただ、1度きりのコンサートではこのような自由な装飾の加えられた演奏も今後の潮流になっていくのかもしれないし、こういう演奏に聴き手も徐々に慣れていくべきなのかもしれない。

なお、シュライアーの歌唱は年輪を感じさせる余裕の語り口で美声を響かせ、聴き手の心をぐっとつかむ。シェトラーのピアノもドラマに沿った安定感のある表現の中に音色の効果的な変化を織り込んで素晴らしかった。

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フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1989年(第10回来日)

第10回来日:1989年4~5月

Fdieskau_1989ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(バリトン)
ユリア・ヴァラディ(Julia Varady)(ソプラノ)
ハルトムート・ヘル(Hartmut Höll)(ピアノ)
NHK交響楽団
ウォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)(指揮)

4月28日(金)19:00 サントリーホール:N響マーラー・スペシャル
4月30日(日)19:00 サントリーホール:ゲーテの詩による歌曲の夕べ
5月4日(木)19:00 サントリーホール:ハイネの詩による歌曲の夕べ
5月7日(日)19:00 サントリーホール:ティークの「マゲローネ」によるロマンスの夕べ
5月11日(木)19:00 NHKホール:N響第1083回定期公演
5月12日(金)19:00 NHKホール:N響第1083回定期公演

●N響マーラー・スペシャル 共演:ユリア・ヴァラディ(S) NHK交響楽団;ウォルフガング・サヴァリッシュ(C)

マーラー(Mahler)

1. さすらう若人の歌

2. 交響曲第4番ト長調

●ゲーテの詩による歌曲の夕べ(Liederabend nach Gedichten von J. W. v. Goethe) 共演:ハルトムート・ヘル(P)

シューベルト(Schubert)

1. 竪琴弾きの歌(Gesänge des Harfners)D478
 "寂しさに身を任せる者は"(Wer sich der Einsamkeit ergibt)
 "戸毎に私はそっと歩みよろうと思う"(An die Türen will ich schleichen)
 "涙とともにパンを食べたことのない者は"(Wer nie sein Brot mit Tränen aß)
2. プロメテウス(Prometheus)D674
3. 海の静けさ(Meeres Stille)D216
4. 人間の限界(Grenzen der Menschheit)D716
5. トゥーレの王(Der König in Thule)D367
6. 魔王(Erlkönig)D328

~休憩~

7. いこいなき恋(Rastlose Liebe)D138
8. ねずみ捕り(Der Rattenfänger)D255
9. 野ばら(Heidenröslein)D257
10. 耽溺(Versunken)D715
11. ひめごと(Geheimes)D719
12. 月に寄す(An den Mond)D259
13. 悲しみの喜び(Wonne der Wehmut)D260
14. 馭者クロノスに(An Schwager Kronos)D369
15. 希望(Hoffnung)D295
16. ミューズの子(Der Musensohn)D764

~アンコール~
1. シューベルト/川辺で(Am Flusse)D766
2. シューベルト/月に寄せて(An den Mond)D296
3. シューベルト/湖上で(Auf dem See)D543
4. シューベルト/さすらい人の夜の歌Ⅱ(Wanderers Nachtlied II)D768

●ハイネの詩による歌曲の夕べ(Liederabend nach Gedichten von H. Heine) 共演:ハルトムート・ヘル(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集《白鳥の歌》D957より(Lieder aus <Schwanengesang>)
1. アトラス(Der Atlas)
2. 彼女のおもかげ(Ihr Bild)
3. 漁師の娘(Das Fischermädchen)
4. まち(Die Stadt)
5. 海辺にて(Am Meer)
6. 影法師(Der Doppelgänger)

~休憩~

シューマン(Schumann)/歌曲集《詩人の恋》作品48(Dichterliebe)
1. 美しい五月に
2. ぼくの涙はあふれ出て
3. ばらや,百合や,鳩や,太陽や
4. きみの目に見入れば
5. ぼくの心にひそめてみたい
6. ラインの聖なる流れの
7. わたしは恨むまい
8. 小さな花がわかってくれるなら
9. あれはフルートとヴァイオリンのひびきだ
10. あの歌がまたきこえると
11. ある若ものが娘を愛し
12. 明るい夏の朝に
13. ぼくは夢のなかで泣きぬれた
14. 夜ごとの夢にきみを見る
15. 古い童話の世界から
16. あのいまわしい昔の歌も

●ティークの「マゲローネ」によるロマンスの夕べ(Liederabend der Romanzen aus Tiecks Magelone von J. Brahms) 共演:ハルトムート・ヘル(P)

ブラームス(Brahms)/《ティークの「マゲローネ」によるロマンス》作品33(Romanzen aus L. Tiecks Magelone)
1. 後悔した者などありはしない
2. そうとも!敵には弓矢こそがふさわしい
3. 苦痛だろうか,喜びだろうか?
4. 愛ははるばると遠い国から来ました
5. おん身はこの哀れな者を
6. この喜びを,この歓喜を,ぼくはどうやって支えたらいいのだろう
7. この唇がふるえたのはおん身に対してだったのか
8. ぼくらは別れなければならない
9. いこえ,やさしい恋びとよ
10. [絶望]泡立つ大波よ,とどろけ
11. なんとすばやく消えるのでしょう
12. 別離などというものがなぜあるのだろう?
13. [スリマ]恋びとよ,どこを踏み迷って
14. なんといきいきと楽しげにぼくの心は高揚を覚えることだろう
15. 誠実な愛はいつまでも続き

●N響第1083回定期公演 共演:ユリア・ヴァラディ(S) 東京芸術大学(合唱) NHK交響楽団;ウォルフガング・サヴァリッシュ(C)

ブラームス(Brahms)/ドイツレクイエム 作品45

(上記の歌曲の夕べの日本語表記は、アンコール曲目以外はプログラム冊子の表記に従った)

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前回から2年後の第10回来日公演では、サントリーホールでの歌曲シリーズ全3回と、N響とのマーラー、ブラームスを披露した。
リサイタルでのピアノは、日本公演で3回目の共演となるハルトムート・ヘル。

前回の歌曲リサイタルが作曲家に焦点をあてたものだったのに対して、今回は各回を1人の詩人に統一したシリーズとなった。
しかし、ハイネの詩による第2回がシューベルトとシューマンの2人の作曲家であるのを除くと、ゲーテの日はオール・シューベルト、そしてルートヴィヒ・ティークの日はブラームスの歌曲集で統一されている。
私はゲーテの詩によるシューベルト歌曲の日に実演を聴いたが、ステージ左横の2階席からディースカウの横顔を見る形となった。
前半が重くドラマティックな曲が多いのに対して、後半は気軽に聴けるアンコールピース的な曲が多い。
当時私が書いていたメモによると、休憩時間中にヘルが数人を引き連れて舞台にやってきて、ピアノの位置を客席により近づけたようだ。
「聴衆との親密な心の交流のためには、距離も短くする必要があったのではないか」と、当時の私は感じたらしい。
演奏についても素晴らしかったようで、「魔王」では本当にppのような抑えた声も使って歌い分けていたことに感銘を受けていた。
ヘルは「魔王」を物凄いスピードで破綻なく弾いていたようで(左手をうまく組み込んで工夫していたが)、そのことにも感銘を受けたようだ。

ハイネの夕べとティークの詩によるブラームスの夕べを聴かなかったことが今となっては悔やまれる。

サヴァリッシュ指揮NHK交響楽団との共演では、マーラー「さすらう若人の歌」とブラームス「ドイツレクイエム」を歌った。
今回も共演している夫人のヴァラディは、マーラー交響曲第4番の第4楽章と、ブラームス「ドイツレクイエム」のソプラノソロを歌っている。

それにしてもN響とは毎回のように共演し、初来日以前のパリ万博以来、随分長い信頼関係を築いていたようだ。

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カミーユ・モラーヌ逝去

往年のフランス人バリトン歌手カミーユ・モラーヌ(Camille Maurane: 1911年11月29日, Rouen生まれ)が1月21日にパリ郊外の自宅で老衰のため亡くなったそうだ。

 記事

98歳という大往生であった。
90年代に80代で来日してフランス歌曲を歌ったそうだが、残念ながらその時の歌唱は聴いていない。
シャルル・パンゼラ、ピエール・ベルナックと並んでフランス歌曲の香りを伝える往年の名歌手だったが、その歌唱は録音で接するのみで、すでに伝説的な存在と感じていた。
だが、1911年という生年を見ると、意外なことに1918年生まれのジェラール・スゼーと7歳しか離れていない。
スゼーよりもずっと昔の歌手という印象が強かったのは、パンゼラ、ベルナック等と一緒に論じられることが多かったせいかもしれない。

モラーヌの歌で私が大好きなのはPHILIPSに録音したデュパルクの歌曲集である。

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デュパルク歌曲集(Henri Duparc / 12 MÉLODIES)

Maurane_bienvenu_duparcユニバーサルクラシック: PHILIPS: UCCP-9378
録音:1954年2月16-23日, Paris
カミーユ・モラーヌ(Camille Maurane)(バリトン)
リリ・ビアンヴニュ(Lily Bienvenu)(ピアノ)

1. 旅へのいざない(L'invitation au voyage)
2. ためいき(Soupir)
3. 遺言(Testament)
4. フィレンツェのセレナード(Sérénade florentine)
5. 波と鐘(La vague et la cloche)
6. 哀歌(Lamento)
7. 前世(La vie antérieure)
8. フィデレ(Phidylé)
9. 法悦(Extase)
10. 悲歌(Elégie)
11. ローズモンドの屋敷(Le manoir de Rosemonde)
12. 悲しき歌(Chanson triste)

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モラーヌの声はどの音域でも非常に美しい。
ベルナックの声のような癖がなく、澄んで気品がある。
フランス人の名優が耳元で優しくささやいているような趣がある。
彼のくっきりとした明瞭な発音で語るように歌われると、詩と音楽の両方が渾然一体となった境地を味わわせてくれるような気がする。
半音階を多用したアンニュイな雰囲気を残しつつ、どことなくドイツリートにも通ずるようなかっちりした構成感を感じさせるデュパルクの歌曲において、モラーヌの持ち味が最高の形で発揮されているのではないか。
また、このディスクでピアノを弾いているリリ・ビアンヴニュもデュパルクの音楽のもつ香りを自然に、かつ細やかに表現して素敵である。

モラーヌ、スゼーの後、ベルナルト・クライセン、ブリュノー・ラプラントなどが多くの録音を残したが、現在フランス歌曲を歌う男声歌手は一体どれだけいるのだろう。
ドイツリート演奏の現在の隆盛とは対照的に、フランス歌曲演奏は衰退してしまうのだろうか。

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ヴォルフ/心変わりした娘(Die Bekehrte)

Die Bekehrte
 心変わりした娘

Bei dem Glanz der Abendröte
Ging ich still den Wald entlang,
Damon saß und blies die Flöte,
Daß es von den Felsen klang,
So la la! ...
 夕焼けの輝く中、
 私はそっと森に沿って歩いて行たの。
 ダーモンは座って笛を吹いていたわ、
 岩山から響いていたもの、
 ゾ・ラ・ラ!

Und er zog mich zu sich nieder,
Küßte mich so hold, so süß.
Und ich sagte: Blase wieder!
Und der gute Junge blies,
So la la! ...
 そして彼は私を脇に引きずりおろすと、
 キスしてきたのよ、とっても優しくて甘かったわ。
 それから私は言ったの「もう1度吹いて!」と。
 すると優しい若者は吹いてくれたわ、
 ゾ・ラ・ラ!

Meine Ruh' ist nun verloren,
Meine Freude floh davon,
Und ich hör' vor meinen Ohren
Immer nur den alten Ton,
So la la, le ralla! ...
 あたしの安らぎは今や消えてしまい、
 あたしの喜びは逃げてしまった。
 そして私の耳に聴こえるのは、
 ずっとあの懐かしい音ばかり、
 ゾ・ラ・ラ、レ・ララ!

詩:Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
曲:Hugo Wolf (1860-1903)

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歌曲の大家フーゴー・ヴォルフ(1860-1902)が今年生誕150年を迎えた。
せっかくの機会なので、ヴォルフの作品を少しずつご紹介していきたいと思う。

「心変わりした娘(Die Bekehrte)」は、ヴォルフの51曲からなる歌曲集「ゲーテの詩(Gedichte von J.W.v.Goethe)」の27曲目。
実はこの歌曲の前(26番目)にヴォルフが配置した作品「つれない娘(Die Spröde)」は言い寄る男たちに目もくれない女性を歌っており、その続編のような位置づけで、この「心変わりした娘」が置かれたと思われる。

笛の音を暗示したピアノの右手単音は、簡素だがなまめかしく官能的だ。
第1節で娘は笛を吹くダーモンに会い、第2節で彼にキスされ、第3節で恋を知った後の娘の動揺が歌われる。
第2節が歌い終わり、第3節が始まる間の短いピアノ間奏が、なんと簡潔に娘の心に起こった衝撃を表現し尽くしていることだろう。
これは天才ヴォルフの見事なゲーテ解釈によって生まれた傑作である。

CDではシュヴァルツコプフも白井も素晴らしいが、動画サイトにアップされているものをいくつかピックアップしてみた。

Tiana Lemnitz(soprano) & Bruno Seidler-Winkler(piano)(静止画)
1939年というから相当昔の録音だが、歌、ピアノともに雰囲気があってとても素晴らしい。
ポルタメントがなまめかしさをうまく表現していて、ピアノもリズムの揺らし方が絶妙。

Elisabeth Schwarzkopf(soprano) & Wilhelm Furtwängler(piano)(静止画)
1953年8月ザルツブルク音楽祭での有名なライヴ録音。
シュヴァルツコプフはまだ声が若々しいが、語り口の巧みさはさすが。
フルトヴェングラーのピアノもなかなか音楽的。

Koji Attwood(piano)(動画)
これは演奏しているピアニスト自身によるピアノ独奏用編曲版の動画である。
3曲演奏されているが、最初の曲が「心変わりした娘」である。
比較的原曲に忠実な編曲だが、演奏はピアノ独奏曲として聴いた方が良さそうだ。

演奏者不明(ヴァイオリン版)(動画)
これは歌声部をそのままヴァイオリンで演奏したもの。
曲を知る意味では興味深い。
言葉がない分、音楽に集中して聴くことが出来る。

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フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1987年(第9回来日)

第9回来日:1987年10~11月

Fdieskau_1987ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(バリトン)
ハルトムート・ヘル(Hartmut Höll)(ピアノ)

10月22日(月)19:00 サントリーホール:シューベルトの夕べ
10月26日(木)19:00 サントリーホール:シューマンの夕べ
10月29日(土)19:00 サントリーホール:マーラーの夕べ
11月1日(月)19:00 サントリーホール:ヴォルフの夕べ

●シューベルトの夕べ 共演:ハルトムート・ヘル(P)

シューベルト(Schubert)/《冬の旅》D.911(Winterreise)
(お休み/風見の旗/凍った涙/かじかみ/菩提樹/あふれる涙/川の上で/回想/鬼火/憩い/春の夢/孤独/郵便馬車/霜おく髪/からす/最後の希望/村で/嵐の朝/幻覚/道しるべ/宿屋/勇気/幻の太陽/辻音楽師)

●シューマンの夕べ 共演:ハルトムート・ヘル(P)

シューマン(Schumann)/《リーダークライス》作品39(Liederkreis)
(見知らぬ土地で/間奏曲/森のささやき/静けさ/月の夜/美しき異郷/城の上で/見知らぬ土地で/悲哀/たそがれ/森で/春の夜)

~休憩~

シューマン(Schumann)/《12の詩》作品35(12 Gedichte)
(嵐の夜の楽しみ/愛と喜びよ,消え去れ/旅の歌/新緑/森へのあこがれ/亡き友の杯に/さすらい/ひそやかな愛/問い/ひそやかな涙/だれがお前をそんなに悩ますのだ/古いリュート)

~アンコール~
シューマン/君は花のよう 作品25-24(Du bist wie eine Blume)
シューマン/私の恋は輝く 作品127-3(Es leuchtet meine Liebe)
シューマン/はすの花 作品25-7(Die Lotusblume)
シューマン/自由な心 作品25-2(Freisinn)
シューマン/私の馬車はゆっくりと 作品142-4(Mein Wagen rollet langsam)

●マーラーの夕べ 共演:ハルトムート・ヘル(P)

マーラー(Mahler)/詩集《子供の魔法の角笛》より(Songs from "Des Knaben Wunderhorn")

ラインの伝説(Rheinlegendchen)
夏に小鳥はかわり(Ablösung im Sommer)
別離と忌避(Scheiden und Meiden)
少年鼓手(Der Tamboursg'sell)
番兵の夜の歌(Der Schildwache Nachtlied)
この世の生活(Das irdische Leben)
魚に説教するパドヴァのアントニウス(Des Antonius von Padua Fischpredigt)

~休憩~

美しいトランペットが鳴り響く所(Wo die schönen Trompeten blasen)
死んだ鼓手(Revelge)
シュトラスブルクの砦に(Zu Strassburg auf der Schanz)
塔のなかの囚人の歌(Lied des Verfolgten im Turm)
だれがこの歌をつくったのだろう(Wer hat dies Liedlein erdacht?)
いたずらな子をしつけるために(Um schlimme Kinder artig zu machen)
うぬぼれ(Selbstgefühl)

●ヴォルフの夕べ 共演:ハルトムート・ヘル(P)

ヴォルフ(Wolf)/《メーリケ詩集》より(Songs and Poems by Eduard Mörike)

希望の復活(Der Genesene an die Hoffnung)
朝早く(In der Frühe)
散歩(Fussreise)
新しい愛(Neue Liebe)
心よ考えよ(Denk' es, o Seele)
火の騎士(Der Feuerreiter)
眠りに寄す(An den Schlaf)
真夜中に(Um Mitternacht)
狩人の歌(Jägerlied)
こうのとりの使い(Storchenbotschaft)

~休憩~

春に(Im Frühling)
旅路(Auf einer Wanderung)
愛する人に(An die Geliebte)
ペレグリーナ1(Peregrina 1)
ペレグリーナ2(Peregrina 2)
めぐりあい(Begegnung)
狩人(Der Jäger)
ある婚礼にのぞんで(Bei einer Trauung)
いましめに(Zur Warnung)
別れ(Abschied)

~アンコール~
ヴォルフ/古い絵に(Auf ein altes Bild)
ヴォルフ/告白(Selbstgeständnis)
ヴォルフ/隠棲(Verborgenheit)
ヴォルフ/鼓手(Der Tambour)
ヴォルフ/ヴァイラの歌(Gesang Weylas)
ヴォルフ/《イタリア歌曲集》~私はもうこれ以上歌えない(Nicht länger kann ich singen)

(上記の日本語表記は、アンコール曲目以外はプログラム冊子の表記に従った)

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前回から4年後の第9回来日公演では、「サントリーホール1周年記念コンサート」の一環として、シューベルト、シューマン、マーラー、ヴォルフのそれぞれで一夜ずつ4つのプログラムを披露した。
ディースカウにとってはサントリーホール初登場ということになる。
ピアノは前回に続きハルトムート・ヘルが担当した。

私はシューマンとヴォルフの夕べの2夜を会場で聴くことが出来たが、NHKでシューベルトとヴォルフが録画されて放送されたので、マーラー以外は聴けたことになる。
当時私が書いていた感想を見ると、ディースカウはかなり表情の起伏を大きくとって歌っていたようだ。
シューマンの《12の詩》作品35は、当時あまり知られていなかったと思うが、曲のクオリティの高さに感銘を受けたものだった。
ヴォルフの夕べは「これまでに聴いたあらゆる音楽会の中で最も感動的だった」と当時の私はメモに記していた(青臭さの残った感想で、今となると気恥ずかしいが)。
「旅路」などではミスもあったようで、シリーズ最終日ともなると声の状態も若干疲れがあったようだが、それでもディースカウの説得力のある自在な表現力には圧倒されてしまった。
アンコールの最後に「私はもうこれ以上歌えない」が歌われると会場から笑い声が漏れたりして、リート愛好家の反応の良さにも驚かされた。
また、テレビで「冬の旅」を聴いた時、「おやすみ」の前奏でハルトムート・ヘルが和音を区切って、かなり強めに弾き始めたのが印象に残っている。

ドイツ歌曲の重要な流れを体感できる素晴らしいシリーズで、もし当時に戻れたならば4回とも聴いてみたかったものである。
ディースカウならではの来日公演であった。

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フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1983年(第8回来日)

第8回来日:1983年10月

Fdieskau_1983ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(バリトン)
ユリア・ヴァラディ(Julia Varady)(ソプラノ)
ハルトゥムート・ヘル(Hartmut Höll)(ピアノ)
原田幸一郎(Koichiro Harada)(ヴァイオリン)
生沼誠司(Seiji Oinuma)(ヴィオラ)
岩崎恍(Koh Iwasaki)(チェロ)
奥田一夫(Kazuo Okuda)(コントラバス)
金昌国(Syokoku Kim)(フルート)
北島章(Akira Kitajima)(オーボエ)
小林道夫(Michio Kobayashi)(チェンバロ)
NHK交響楽団(NHK Sym. Orch.)
テオドル・グシュルバウアー(Theodor Guschlbauer)(指揮)

10月3日(月)19:00 東京文化会館:曲目A
10月6日(木)18:30 倉敷市民会館:曲目B
10月8日(土)16:00 倉敷市民会館:曲目C
10月10日(月)17:00 福岡郵便貯金会館:曲目A
10月12日(水)18:45 名古屋市民会館:曲目A
10月15日(土)19:00 東京・ゆうぽうと簡易保険ホール:曲目D
10月17日(月)19:00 東京・イイノホール:曲目C
10月19日(水)18:00 大阪・ザ・シンフォニーホール:曲目B
10月21日(金)19:00 神奈川県民ホール:曲目B

●曲目A 共演:ハルトゥムート・ヘル(P)

シューマン(Schumann)/「リーダークライス(Liederkreis, Op.24)」
(朝起きると胸に尋ねる/気ばかりあせって/僕は樹々の下をただひとり/かわいい恋人よ、手を僕の胸に/僕の苦しみの美しい揺り籠よ/待ってくれ、待ってくれ、威勢のいい舟乗りよ/山々とその上に立つ城が/はじめはほとんど絶望するところだった/愛らしくやさしげなミルテと薔薇で)

~休憩~

シューマン/「詩人の恋(Dichterliebe, Op.48)」
(こよなく美しい五月/僕の涙から/薔薇や百合や鳩や太陽/おまえの目をじっと見つめると/僕の心を/ライン川、この聖なる流れの/恨みはしない/花が、小さな花が分ってくれるなら/あれはフルートとヴァイオリンだ/むかしあの人の歌った歌が/ある若者が娘に恋し/光輝く夏の朝/僕は夢の中で泣いたんだ/毎晩夢でお前に会う/古いおとぎ話から/昔のいやな歌の数々)

●曲目B 共演:ハルトゥムート・ヘル(P)

シューベルト歌曲の夕べ(Franz Schubert Abend)

歌人の財産(Des Sängers Habe) D832
さすらい人(Der Wanderer) D649
大河(Der Strom) D565
臨終を告げる鐘(Das Zügenglöcklein) D871
みずから沈み行く(Freiwilliges Versinken) D700
死と少女(Der Tod und das Mädchen) D531
タルタルスの群れ(Gruppe aus dem Tartarus) D583
夜曲(Nachtstück) D672
墓掘人の郷愁(Totengräbers Heimwehe) D842

~休憩~

さすらい人が月に寄せて(Der Wanderer an den Mond) D870
宵の明星(Abendstern) D806
幸福の世界(Selige Welt) D743
ドナウ川の上で(Auf der Donau) D553
ヴィルデマンの丘で(Über Wildemann) D884
十字軍(Der Kreuzzug) D932
漁師の恋の幸福(Des Fischers Liebesglück) D933
リュートに寄せて(An die Laute) D905
ヘリオポリス 第ニ(Heliopolis II) D754

●曲目C 共演:原田幸一郎(VLN) 生沼誠司(VLA) 岩崎恍(VLC) 奥田一夫(CB) 金昌国(FL) 北島章(OB) 小林道夫(CEM)

A.スカルラッティ(A.Scarlatti)/カンタータ「傷つけられて」(Infirmata vulnerata)

ヘンデル(Händel)/バイオリンと通奏低音のためのソナタ ニ長調 作品1-13(Sonata for Violin and b.c. D major)

ヘンデル/カンタータ「時に暗雲は空を覆い」("Cuopre tal volta il cielo," cantata for baritone, flute, violin and b.c.)

~休憩~

テレマン(Telemann)/パリ四重奏曲 第1番 ニ長調(Pariser Quartett for flute, violin, cello and b.c. D major)

テレマン/カナリア・カンタータ("Trauermusik eines kunsterfahrenen Canarienvogels," cantata for baritone, violin, oboe, viola and b.c.)

●曲目D 共演:ユリア・ヴァラディ(S: K.374, K.490, K.528) NHK交響楽団;テオドル・グシュルバウアー(C)

モーツァルト(Mozart)/歌劇「魔笛」序曲 K.620(Die Zauberflöte, overture)

モーツァルト/コンサート・アリア(Concert Arias)
 レチタティーヴォ「さあこの腕の中へ」・・・アリア「天はいまあなたを私に」K.374
 シェーナ「もう言わないで、すっかりわかりました」・・・アリア「恐れないで、恋人よ」K.490
 シェーナ「美しい恋人よ、さようなら」・・・アリア「とどまれ、わが心よ」K.528

~休憩~

マーラー(Mahler)/「亡き子をしのぶ歌」(Kindertotenlieder)
(いま太陽は明るく昇る/いま私には分るのだ/おまえのお母さんが/よく私は考える/こんなひどい嵐の日には)

ベートーベン(Beethoven)/序曲「レオノーレ」第3番(Leonore, overture No.3 Op.72a C major)

(上記の日本語表記はプログラム冊子の表記に従った)

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前回来日時の招聘元の倒産騒動から2年後、今度はパン・コンサーツの招聘で、4つのプログラムを披露した。
この時初めて当時若干30歳だったピアニストのハルトゥムート・ヘル(1952年11月24日,Heilbronn生まれ)と日本で共演した(ディースカウとの年齢差は27歳)。
ディースカウとヘルの初共演は1982年2月というから、まだ共演歴の浅かった時期だったことになる。
ヘルが白井光子とディースカウのマスタークラスに参加したのがきっかけとなり、その後、ディースカウ引退の1992年まで長い共演が続くことになる。

曲目Aのシューマンのハイネの詩による2つの歌曲集は1974年の第4回来日時に披露して以来である。
特に10月3日の東京文化会館でのシューマンの夕べは、パン・コンサーツと共同主催だったTBSが深夜に放送した(残念ながら「リーダークライス」は抜粋だったが、民放でクラシック歌曲のライヴ録画が流れるというのは珍しい事だったのではないだろうか)。

曲目Bのシューベルトの夕べは横浜と大阪で披露されたが、F=ディースカウによってその価値が広められたと言ってもいいような珍しい選曲が目を惹く。
私がはじめてF=ディースカウの実演を聴いたのはこの神奈川県民ホールでのシューベルトの夕べだった。
当時中学生だった私にとって決して安くはないチケットだったが、歌曲にのめりこみ始めた頃の大好きな歌手の生演奏を聴けるとあって、かなり興奮していたことを懐かしく思い出す。
「大河」「タルタルスの群れ」「夜曲」「墓掘人の郷愁」「ドナウ川の上で」「ヴィルデマンの丘で」「ヘリオポリス 第ニ」などは今でも好んで聴く私の好きな作品である。

なお、10月21日、神奈川県民ホールでのアンコールは、私の当時のメモによるとシューベルトばかり5曲だった(「春に」「夕映えに」「孤独な男」「漁師の娘」「漁師の歌D881」、以上順不同)。

曲目CはA.スカルラッティ、ヘンデル、テレマンのカンタータが日本を代表する名手たちと共演して歌われた。

曲目Dはグシュルバウアー指揮N響との共演で、前半に夫人ヴァラディによるモーツァルトのコンサート・アリア3曲、そして後半にディースカウによるマーラーが歌われた。

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レナード・ホカンソンのソロ録音

ヘルマン・プライなどの共演者としてよく知られているアメリカのピアニスト、故レナード・ホカンソン(Leonard Hokanson: 1931.8.13,Vinalhaven-2003.3.21,Bloomington)はソリストとしても活動していて、なかでもブラームスの後期小品集のCD(Bayer)は珠玉の一枚でしたが、動画サイトでもいくつかの音源がアップされていたのでご紹介します。
特にショパンは、まさかホカンソンのレパートリーに含まれていたとは想像もしていませんでした。

ベートーヴェン「エリーゼのために」

シューマン「トロイメライ」

ショパン「幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66」

ブラームス「間奏曲 変ホ短調 Op.118-6」

まだ私が学生だった頃、FMでリストのオケ編曲版によるシューベルト「さすらい人幻想曲」をホカンソンが弾いたライヴが放送されたのを覚えています。
決してテクニシャンではなかったホカンソンですが、時に聴き手の心に訴えかける歌心を感じさせるピアニストだったと思います。

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1987年のアーメリングを見る

いつものように動画サイトをあれこれ検索していたら、エリー・アーメリングの懐かしい映像が出てきた。
1987年にサントリーホールで演奏されたリサイタルと思われるが、最初に歌われたシューマン3曲(献呈、はすの花、くるみの木)が聴ける(ピアニストは同じくオランダ出身のルドルフ・ヤンセン)。
私はこの年、神奈川県民小ホールではじめてアーメリングの実演を聴き、その後テレビで前半だけ同じプログラムのサントリーホール公演が放送されたのだった。

54歳の彼女の声は高音の豊かさこそ失せつつあったものの、リート歌唱としてはまだまだ一流の内容を歌いだしていた。
その名唱をぜひお聴きください(アップしてくれた方に感謝!ただ、削除される可能性も大きいです)。

 動画を見る

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ホルツマイア&クーパー/ヴォルフ歌曲集

Wolf Songs(ヴォルフ歌曲集)

Holzmair_cooper_wolfWIGMORE HALL LIVE: WHLive0029
録音:2008年2月19日, Wigmore Hall, London (live)

Wolfgang Holzmair(ヴォルフガング・ホルツマイア)(バリトン)
Imogen Cooper(イモジェン・クーパー)(ピアノ)

Wolf(ヴォルフ)/Lieder to texts by Eduard Mörike(エードゥアルト・メーリケの詩による歌曲集)

1.Auf einer Wanderung(旅路で)
2.Der Tambour(鼓手)
3.Denk' es o Seele!(考えてもみよ、おお心よ!)
4.Der Gärtner(庭師)
5.Auf eine Christblume II(クリスマスローズに寄せてII)
6.Der Feuerreiter(火の騎士)
7.Peregrina I(ペレグリーナI)
8.Peregrina II(ペレグリーナII)
9.Um Mitternacht(真夜中に)
10.Jägerlied(狩人の歌)
11.Schlafendes Jesuskind(眠る幼な児イエス)
12.Frage und Antwort(問いと答え)
13.Fussreise(散歩)

(拍手の感じからして、おそらくここで休憩が入ったと思われる。)

14.In der Frühe(早朝に)
15.Im Frühling(春に)
16.Lied eines Verliebten(恋する男の歌)
17.Lebe wohl(さようなら)
18.An die Geliebte(愛する人に)
19.Nimmersatte Liebe(飽くことを知らぬ恋)
20.Elfenlied(妖精の歌)
21.Gebet(祈り)
22.An den Schlaf(眠りに寄せて)
23.Er ists(時は春)
24.Zur Warnung(戒めに)
25.Bei einer Trauung(ある婚礼にのぞんで)
26.Begegnung(出会い)

encore(アンコール)
27.Selbstgeständnis(打ち明け話)

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今年はフーゴー・ヴォルフ(1960-1902)が生まれて150年のアニバーサリーにあたる。
“シューベルト→シューマン→ブラームス→ヴォルフ”というドイツ歌曲の大きな流れは今や疑う余地もないが、最初の3人に比べて、ヴォルフの知名度は相変わらず低いままである。
それは、歌曲以外の作品がほとんど知られていないということも影響しているだろうが、肝心の歌曲についても、聴く者を瞬時に魅了するような分かりやすさはあまり無いという点は否定できない。
むしろ初めて聴く人にとっては晦渋な印象を受けるかもしれない。
しかし、ヴォルフの歌曲にひとたびとりつかれた人はどこまでもはまることが多いのではないだろうか。

ロンドンのウィグモア・ホールが自主レーベルから過去のライヴ録音を発売するようになって数年がたった。
幸いなことにこのレーベルでは歌曲のリサイタルの録音がしばしば発表される。
今回はバリトンのヴォルフガング・ホルマイアとピアニストのイモジェン・クーパーによるヴォルフ「メーリケ歌曲集」抜粋集である。

言うまでもなくホルツマイアは洗練の極みのようなスマートな歌唱をする人ではない。
むしろ無骨で不器用な印象すら受ける。
発音はオーストリア訛りをかすかに残しており、必要なテクニックはしっかりあるものの、人工的な要素を一切感じさせない。
しかし、その飾らない自然さがシューベルトの歌曲などではとても魅力的だった。

では、19世紀後半の、語りに近づいた歌声部と充実した近代的なピアノパートをもつフーゴー・ヴォルフの歌曲ではどうだろうか。
ホルツマイアはここでもいつもの朴訥な声を使って、丁寧に穏やかな歌を紡いでいく。
ヴォルフだからといって特別なことは何もしていないようにすら感じられる(実際はそんなことはないのだろうが)。
音符を真摯に再現していく彼の歌い方は、どちらかというと「語り」よりも「歌」を優先しているようである。
F=ディースカウやシュヴァルツコプフの歌う突き詰めたヴォルフとは対極にある歌唱と言えるかもしれない。
「旅路で」「庭師」「狩人の歌」「問いと答え」「散歩」などはその爽やかな自然さが心地よく、ホルツマイアに向いているように感じた。
ただ、バリトン歌手にしては低音があまり充実していないようで、例えば「さようなら」の最後の箇所はきつそうだった。

イモジェン・クーパーの演奏は細部まで徹底して丁寧で明晰。
テクニックが安定しているので、「火の騎士」のような難曲でも安心して身を委ねて聴ける。
彼女の音色はふかふかのベッドのように歌を豊かに優しく包み込む。
歌と対峙する丁々発止とした演奏ではなく、かといって、こじんまりとまとまるという演奏でもない。
一本のしっかりした歌声部という芯があって、それをピアノの響きが外側から包み込むような印象だ。

「考えてもみよ、おお心よ!」のクーパーの演奏は、私の聴いた感じだが、おそらく正しく移調されていない箇所があるように感じられた(違っていたらすみません)。

彼らの演奏、切れ味の良さや深い沈潜を求める向きには物足りなさを感じるかもしれないが、ヴォルフの歌曲のいくつかには、ホルツマイアの歌唱が生きる作品が確かにあることを感じることが出来た。

発売されたばかりですので、興味のある方はまずは以下のサイトで試聴してみてください(曲目の左端のマークをクリックすると数秒試聴できます)。

 試聴する

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映画「カティンの森」を見る(2010年1月9日 岩波ホール)

映画「カティンの森」(KATYN)
2010年1月9日(土)14:30 岩波ホール

監督:アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda)
原作:アンジェイ・ムラルチク 長編小説『死後(ポストモルデム)』
脚本:アンジェイ・ワイダ
      ヴワディスワフ・パシコフスキ
      プシェムィスワフ・ノヴァコフスキ

●キャスト 
アンナ:マヤ・オスタシェフスカ
アンジェイ:アルトゥル・ジミイェフスキ
ヴェロニカ:ヴィクトリャ・ゴンシェフスカ
アンジェイの母:マヤ・コモロフスカ
ヤン(アンジェイの父):ヴワディスワフ・コヴァルスキ
イェジ:アンジェイ・ヒラ
ルジャ(大将夫人):ダヌタ・ステンカ
大将:ヤン・エングレルト
イレナ:アグニェシュカ・グリンツカ
アグネシュカ:マグダレナ・チェレツカ
ピョトル・バシュコフスキ:パヴェウ・マワシンスキ
エヴァ:アグニェシュカ・カヴェルスカ
タデウシュ[トゥル] :アントニ・パヴリツキ
エルジビェタ:アンナ・ラドヴァン
グレタ:クリスティナ・ザフファトヴィッチ

2007年/ポーランド映画/2時間2分/R-15/ドルビーSRD
カラー/シネマスコープ/ポーランド語、ドイツ語、ロシア語
字幕翻訳:久山宏一

後援:ポーランド共和国大使館 「日本・ポーランド国交樹立90周年」認定事業
提供:ニューセレクト  
配給:アルバトロス・フィルム

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土曜日にお茶の水から神保町界隈を散策していた。
この辺りは私のお気に入りの場所で、disk unionで中古CD・LPを物色したり、古賀書店などのある古書街をぶらついたり、三省堂で新刊本のチェックをして、「エチオピア」でカレーを食べて帰るというのがお決まりのコースである。
この他にも3月に閉館してしまうカザルスホールもあるので、このところ訪れる頻度が増えている。
学生時代から何かと縁があり、この町とは随分長いつきあいになる。

さて、特に目的もないまま土曜日にやってきて、中古店のササキレコードにでも行こうとして歩いていた時に岩波ホールの映画の看板が目にとまった。
これまで一度も利用したことのない映画館だが、珍しいポーランド映画、しかも開演時間が近いとあって、なんの予備知識もないまま1階でチケットを買って映画館に入っていった。

こじんまりとした映画館はほぼ満席で、前から3列目の端にかろうじて空いていた席に座って開演を待った。

歴史に疎い私は全く知らなかったのだが、戦時中、ドイツと旧ソ連の侵略を受けたポーランドの将校たちが突如行方不明となり、後にドイツ軍によって「カティンの森」近郊に1万人以上のポーランド人の遺体が発見されたという。
それは旧ソ連軍による捕虜となったポーランド将校たちの銃殺事件だったのだが、ドイツ軍による仕業とされて、長いことポーランド人に沈黙を強いてきた。

今回、この映画を監督したアンジェイ・ワイダの父親もカティン事件の犠牲者とのことで、長い構想期間を経て作られたそうだ。
2時間もの間、様々な人間が登場して、それぞれのケースが丁寧かつ簡潔に描かれる。
顔を覚えるのが苦手な私は途中、「この人は誰だっけ」と分からなくなったりもしながら最後まで集中力がとぎれることはなかった。
ラストの数分は、この映画がR-15指定となっていることを思い出させるほど正視するのがつらい場面が続き、そのままエンドロールとなる。
無音でエンドロールが流れている間、こんなに重々しい空気が劇場を満たしていたことは私の経験した中ではほとんど無かった。

2月19日(金)まで岩波ホールで上映されるそうである。
救いのない場面の続く辛い映画だが、史実として知っておくべきことだと思った。

ご都合があえば、上映時間(1日3回)を確認してぜひご覧になってみてください(席がすぐに埋まってしまうようなので、早めに館内に入った方がいいと思います)。

映画の公式サイト

岩波ホールの公式サイト

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(2010年4月18日追記)

2010年4月10日に墜落した政府専用機にポーランドのカチンスキ大統領夫妻と搭乗していて亡くなられたカティンの森事件の遺族の方々に心よりお悔やみ申し上げます。

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ベルガモ・ドニゼッティ劇場/「椿姫」(2010年1月8日 東京文化会館大ホール)

ベルガモ・ドニゼッティ劇場
Teatro_donizetti_2010012010年1月8日(金) 18:30 東京文化会館大ホール(5階R2列17番)

ヴェルディ(Verdi)/「椿姫(La Traviata)」全3幕 [イタリア語上演・日本語字幕付]

マリエッラ・デヴィーア(Mariella Devia)(S)(ヴィオレッタ)
アントーニオ・ガンディア(Antonio Gandia)(T)(アルフレード)
ジュゼッペ・アルトマーレ(Giuseppe Altomare)(BR)(ジェルモン)
アンナリーザ・カルボナーラ(Annalisa Carbonara)(S)(フローラ)
ガブリエッラ・ロカテッリ(Gabriella Locatelli)(S)(アンニーナ)
ディオニジ・ドストゥーニ(Dionigi d'Ostuni)(T)(ガストーネ子爵)
レオナルド・ガレアッツィ(Leonardo Galeazzi)(BR)(ドゥフォール男爵)
ダーリオ・ジョルジェレ(Dario Giorgele)(BSBR)(ドビニー侯爵)
エンリコ・マルケジーニ(Enrico Marchesini)(BS)(医師グランヴィル)

ベルガモ・ドニゼッティ劇場管弦楽団/合唱団(Orchestra, Coro e Tecnici del Teatro Donizetti di Bergamo)
ブルーノ・チンクエグラーニ(Bruno Cinquegrani)(指揮)

パオロ・パニッツァ(Paolo Panizza)(演出)
イタロ・グラッシ(Italo Grassi)(舞台装置)
カルメラ・ラチェレンツァ(Carmela Lacerenza)(衣裳)

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今年最初のコンサートは上野での歌劇「椿姫」鑑賞だった。
ベルガモ・ドニゼッティ劇場の来日公演は2007年に続いて2回目とのこと。
今回は「椿姫」と「愛の妙薬」を引っさげて約1ヶ月間、かなりの過密スケジュールが組まれている。
「椿姫」は、ヴィオレッタ、アルフレード、ジェルモンにダブルキャストが組まれているが、私の聴いた日は歌姫デヴィーアの出演が分かっていたので、楽しみだった。

6時半開演で、第1幕と第2幕の後にそれぞれ20分ほどの休憩をはさみ、終演は9時40分ごろ。

パーティー会場のサロンやヴィオレッタの部屋など、舞台装置は各場面を示す最低限の装置に限られ、簡素だった(鏡が動く際に反射してまぶしく感じたが、これは演出上の意図ではないだろう)。
しかし、衣装や演出は現代風の読み替えではなく、あくまでオーソドックスなものと感じた。

チンクエグラーニ指揮のベルガモ・ドニゼッティ劇場管弦楽団は、ひなびた地方の芝居小屋のような素朴さを感じさせつつ、最後までしっかりとした美しい響きだったように感じた。
特に前奏曲や第3幕における弦楽器の高音による悲劇的な響きは胸に沁みた。

歌手では、ヴィオレッタ役のマリエッラ・デヴィーアがやはり群を抜いて素晴らしかった。
どの音域でもよく響き、その響きに細やかな表情が込められている。
演技も堂々としており、第3幕の瀕死の状態の表現も、声を張り上げずに抑制しながらしっかり声を響かせていて素晴らしかった。
細かいパッセージなどでは少しオケよりも遅めに歌うのは意識的なものだろうか。

アルフレード役のアントーニオ・ガンディアは声も良く、よい資質をもった歌手だと思うが、まだ若さが顔を覗かせるところもあった(アルフレード役にはその若さが生きたと言えるかもしれないが)。

いつもながら天井桟敷席で鑑賞したのだが、私の座った5階席右側の2列目からそのままステージを見ると、斜め前の人の頭がステージの真ん中を隠してしまう。
少し後ろに体を引いて、なんとかステージの真ん中へんを見ることが出来たが、ホールの構造上の問題だから仕方のないことだろう。
初台のオペラシティの上の階などはその点、前の列よりも高さをかなり大きくずらしており、聴衆の視野がよく考えられていることが分かる。

ヴェルディの音楽はさすがにめりはりに富んだ展開で、聴き手の心をつかむ職人技が冴えているように感じた。
アルフレードの父ジェルモンがヴィオレッタに息子と別れてほしいと訴える場面は若干冗長さも感じたが、概して快適なテンポで物語が進行するのでだれることがない。

「乾杯の歌」や「そはかの人か」「花から花へ」など有名なアリアが多く、私のような初心者には親しみやすかった。
台本の展開はありきたりで強引な印象も受けたが、音楽を聞かせるための台本と思えば大した問題でもないだろう。
私にとっては充分に楽しめた2時間半だった。

Teatro_donizetti_201001_chirashi

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フィッシャー=ディースカウ日本公演曲目1981年(第7回来日)

第7回来日:1981年10月

ディートリッヒ・フィッシャー=ディスカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)(BR)
イエルク・デームス(Jörg Demus)(P)

10月16日(金)19:00 東京・昭和女子大学人見記念講堂
10月18日(日)15:00 大阪・大阪厚生年金会館大ホール
10月20日(火)19:00 藤沢・藤沢市民会館大ホール
10月22日(木)19:00 横浜・神奈川県民ホール
10月24日(土)19:00 東京・昭和女子大学人見記念講堂

●《冬の旅》 共演:イエルク・デームス(P)

シューベルト(Schubert)/歌曲集「冬の旅(Winterreise)」作品89(D.911)
(おやすみ/風見の旗/凍った涙/凝結/菩提樹/溢れる涙/川の上で/かえりみ/鬼火/休息/春の夢/孤独/郵便馬車/霜おく髪/からす/最後の希望/村にて/嵐の朝/まぼろし/道しるべ/宿/勇気/幻の太陽/辻音楽師)

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この時の来日公演に関しては実現が危ぶまれていたそうだ。
というのも招聘元の新芸術家協会が1981年7月末に倒産してしまったためである。
しかし、財団法人日本音楽芸術振興会が主催を肩代わりし、ポピュラー畑のホリ・プロを中心とするホリ・グループが全面援助することにより、実現可能となったそうである。
このあたりの事情は雑誌「音楽の友」1981年11月号の255ページに詳しく記されているので、興味のある方は図書館でご覧ください。

何はともあれ実現の運びとなった「冬の旅」のコンサートだが、もともと予定されていた10月27日東京公演と29日千葉公演は払い戻しになったとのこと。

オーストリアのピアニスト、イェルク・デームスとは1963年、1966年に続いて3度目の日本での共演。
フィッシャー=ディースカウにとって気心の知れたパートナーだったに違いない。

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明けましておめでとうございます

皆様、明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

昨年末の最後にも申しましたが、私にとって今年は生誕150年のフーゴー・ヴォルフの歌曲をもう一度じっくり味わう年にしたいと思っています。
もちろん生誕200年のシューマンの歌曲も同時に聴いていきたいと思います。

ところで、アーメリング・ファンの方には喜んでいただけるかもしれない音源を見つけました。

1970年代後半(1979年頃?)にCBSにLP録音されたコルネーリウス作曲の「クリスマスの歌」全6曲が、オランダのRadio4で昨年12月26日に放送され、その放送を好きな時に聴くことが出来るようになっています。
まだCD化されていない音源なので、パソコンで聴けるのは貴重だと思います。
1970年代後半のアーメリングは、声の変わり目だったのか高音を搾り出すようにして歌う傾向があるようですが、表現内容自体はむらなく細やかな感情表現が楽しめると思います。

以下のリンク先のプレーヤーを再生して、マウスで目盛りを最初から8分ぐらいまでずらすと、演奏が始まります。
 こちら

コルネーリウス作曲の「クリスマスの歌」全6曲のタイトルは以下のとおりです。
1.クリスマス・ツリー(Christbaum)
2.羊飼いたち(Die Hirten)
3.3人の王(Die Könige)
4.シメオン(Simeon)
5.子供たちの友キリスト(Christus der Kinderfreund)
6.幼な児キリスト(Christkind)

エリー・アーメリング(Elly Ameling)(ソプラノ)
ドルトン・ボールドウィン(Dalton Baldwin)(ピアノ)

参考までにこの番組の放送内容全曲は以下のリンク先にあります。
 こちら

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