エリサベト・セーデルストレム逝去
スウェーデンの名ソプラノ、エリサベト・セーデルストレム(Elisabeth Söderström)が11月20日、82歳で亡くなったそうだ。
日本のマスメディアではとりあげられていないようだが、やはり北欧の歌手は馴染みが薄いのだろうか。
1927年5月7日、ストックホルム(Stockholm)に生まれ、数々のオペラの舞台にたった。
正式名はAnna Elisabeth Söderström-Olowというらしい。
歌曲歌手としても、DECCAへのトム・クラウセと分け合ったシベリウス歌曲全集(トム・クラウセの担当していない曲の穴埋め的な録音で、彼女の担当曲数は12曲のみ)や、ラフマニノフ歌曲集、チャイコフスキー歌曲集、それにショパン歌曲全集など、多くの録音を残した。
シューベルトなどのドイツリートも歌っており、バドゥラ=スコダと共に録音もしていた。
また、数年前にBBCの放送音源がCD化されて、幅広いレパートリーを披露していた(下記参照)。
セーデルストレムは、ソプラノながら北欧の歌手らしいほの暗い響きも持ち、細かいヴィブラートを伴った突き抜ける強靭な声で、ドラマティックな表現とリリカルな表現のどちらも得意とした。
また華やかな容姿にも恵まれ、舞台姿も様になっていたことだろう(一度も実演を聴くことが出来なかったのは残念)。
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シベリウス歌曲全集でセーデルストレム(ユニバーサルミュージックの表記ではドイツ語式に「ゼーダーシュトレーム」となっている)が担当した曲は以下のとおり。
ジャン・シベリウス/歌曲全集
ユニバーサルミュージック: DECCA: UCCD-3815/8
録音:1978年12月-1981年11月、ロンドン、キングズウェイ・ホール
エリーザベト・ゼーダーシュトレーム(Elisabeth Söderström)(S)
ヴラディーミル・アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy)(P)
(ほかの歌曲はバリトンのトム・クラウセとピアノのアーウィン・ゲイジ、ギターのカルロス・ボネルが演奏している)
もはやわたしは問わなかった(Se'n har jag ej frågat rnera) Op.17-1
とんぼ(En slända) Op.17-5
ユバル(Jubal) Op.35-1
しかしわたしの鳥は帰って来ない(Men min fågel märks dock icke) Op.36-2
トリアノンでのテニス(Bollspelet vid Trianon) Op.36-3
薔薇の歌(Rosenlied) Op.50-6
五月(Maj) Op.57-4
春にとらわれて(Vårtagen) Op.61-8
私の思いには百もの道がある(Hundra vägar har min tanke) Op.72-6
あなた達姉妹よ 兄弟よ 愛し合う者達よ(I systrar, I bröder, I älskande par!) Op.86-6
誰がお前の道をここへ?(Vem styrde hit din väg?) Op.90-6
可愛い娘たち(Små flickorna)
この時、セーデルストレムは声の美しさという観点からのみ言えば最盛期は過ぎていただろうが、そのこなれた繊細な表現力は円熟期ならではの素晴らしさと言えるのではないだろうか。
「トリアノンでのテニス」ではお高くとまった貴婦人たちをからかった詩に楽しい音楽がつけられ、セーデルストレムの語り口の見事さを堪能できる。
なお、この国内盤CD、現在は廃盤のようだが、どの曲を誰が演奏しているかの表示に誤りが多かったので、次回再発する際には正してほしい。
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イギリスでの若い頃と円熟期の2種類のライヴ録音をまとめたものがBBC Legendsからリリースされている。
共演はオーストリア人のイセップと、英国人のヴィニョールズである。
Söderström / Liszt, Schubert, Tchaikovsky, Rachmaninov, Grieg, Strauss
BBC Legends: BBCL-4132-2
録音:1971年8月14日, Queen Elizabeth Hall, London (1-11),
1984年4月30日, St John's Smith Square, London (12-25)
Elisabeth Söderström(エリサベト・セーデルストレム)(S)
Martin Isepp(マーティン・イセップ)(P: 1-11)
Roger Vignoles(ロジャー・ヴィニョールズ)(P: 12-25)
R.シュトラウス(1864-1949)
1.したわしき幻(Freundliche Vision) Op.48-1
2.雨風をしのぐ仮の宿を(Ein Obdach gegen Sturm und Regen) Op.46-1
グリーグ(1843-1907)
3.早咲きの桜草を手に(Med en primulaveris) Op.26-4
4.睡蓮に寄せて(Med en vandlilje) Op.25-4
ニールセン(1865-1931)
5.リンゴの花(Æbleblomst) FS18-1 (Op.10-1)
リスト(1811-1886)
6.もし美しい芝生があるなら(S'il est un charmant gazon) S284
7.おお!私が眠るとき(Oh! quand je dors) S282
8.わが子よ、もし私が王だったら(Enfant, si j'étais roi) S283
9.どうやってと彼らは言った(Comment, disaient-ils) S276
シューベルト(1797-1828)
10.至福(Seligkeit) D433
ヴォルフ(1860-1903)
11.口さがない人たちはみな(Mögen alle bösen Zungen)
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リスト(1811-1886)
12.ミニョンの歌(あの国をご存知ですか)(Mignons Lied: Kennst du das Land) S275
シューベルト(1797-1828)
13.糸を紡ぐグレートヒェン(Gretchen am Spinnrade) D118
14.愛(喜びにあふれ悲しみに満ち)(Die Liebe: Freudvoll und leidvoll) D210
15.魔王(Erlkönig) D328
チャイコフスキー(1840-1893)
16.なぜ(Otchevo?) Op.28-3
17.ただあこがれを知る者だけが(Net, tolko tot, kto znal) Op.6-6
18.かっこう(Kukushka) Op.54-8
ラフマニノフ(1873-1943)
19.美しい人よ、私のために歌わないで(Ne poy, krasavica, pri mne) Op.4-4
20.A.ミュッセからの断片(Otryvok iz A. Myusse) Op.21-6
21.ねずみ捕りの男(Krysolov) Op.38-4
22.エリサベト・セーデルストレムが最初のアンコールを紹介する
グリーグ(1843-1907)
23.君を愛す(Jeg elsker dig) Op.5-3
24.エリサベト・セーデルストレムが2曲目のアンコールを紹介する
シベリウス(1865-1957)
25.少女(Små flickorna)
シューベルトの「魔王」まで歌っているのは意外だったが、彼女の声の特性をよくよく考えてみればあながち不思議でもない(各登場人物のキャラクターをかなり大胆に歌い分けている)。
上記の中ではチャイコフスキーの「かっこう」という曲が面白い。
後半はほとんどかっこうの鳴き声ばかりが連呼され、聴く分には非常に楽しい作品だ。
だが、詩はかなりシニカルで、夜鶯や雲雀やつぐみの鳴き声は町で話題にのぼっているのに、かっこうのことは誰も気にとめないと知らされ、自分でアピールしようとするという内容である。
また、いくつかの作品では彼女の抑制された弱声の魅力も味わうことが出来る。
決して機械のような正確なコントロールを操る人ではないが、人間味に満ちた味わいは、他の技巧に長けた歌手とは異なる親しみやすい魅力を感じさせる。
悲痛な心情からユーモラスな表現まで幅の広い彼女の至芸を堪能できるアルバムだと思う。
あらためてこの録音に耳を傾けながら彼女のご冥福をお祈りします。
最後に動画サイトにアップされていた彼女の歌うシューベルトの「トゥーレの王」をリンクしておきます(パウル・バドゥラ=スコダのピアノ)。
こちら
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